4/26(土)、大阪市西区のシネ・ヌーヴォにて、安川有果監督最新作『激写!カジレナ熱愛中!』の公開初日トークが行われた。

CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)助成作品『Dressing UP』で第14回TAMA NEW WAVEグランプリを受賞した安川監督の最新作は、青春Hの38本目の作品として撮られた『激写!カジレナ熱愛中!』。
オリジナル企画を『INAZUMA 稲妻』(西山洋市監督)脚本、『きつね大回転』の監督・脚本の片桐絵梨子さんが脚本を手掛けた。

初日トークゲストは『ソウル・フラワー・トレイン』が5/3よりシネヌーヴォにて再映決定の西尾孔志監督。

安川:暗くもなる話なのでコメディにしたかったんです。笑いのテイストを描ける方と一緒にやりたいと思って片桐絵梨子さんにお願いしました。

西尾:僕の監督作の『ソウルフラワートレインが女性の脚本家と一緒にやっていい結果を産んだことを話していて、一緒にやりませんかという話になったんですね。下手すると悪意が強いブラック過ぎる後味の悪過ぎる作品になりそうだなと。1人の女の不幸を見つめる話になりそうだったんです。その後紆余曲折あって脚本は片桐さんになったんですね。
完成した『カジレナ』を観て、こういう仕上がりになって良かったと思ったのが、僕の中ではカジレナというキャラクターが安川さんのある一部を捉えているような。
今回良かったのが、作品になってみると暖かい目線で描いていて。

安川:片桐さんは映画美学校出身なんですけど、色々話し合って悪魔的なキャラクターではなくて、こういう状況に陥った女性の心理を丁寧に描いて行こうとなりました。

西尾:70分程度の低予算映画としてお得感がありますね。テレビのワイドショーで見るような下世話な気持ちを掻き立ててくれるような。ラストの展開なんか、安川さんは今までやって来なかったことですよ。安川さんは割とリアリズムの人で、前作の『Dressing UP』は幻想シーンはあるけどリアルな描写。
今回、跳ねる楽しさが安川さんの作品に入って来たのは恐ろしいな。後輩として早く潰しとかないとなっていう(笑)。

 映画のウソにポンといくのは難しくて、僕ら世代くらいから今の三十代の監督は、リアルって言葉が自分たちにとって表現の重要なファクターだったりする世代。その下の世代もリアルからフィクションにいくのに一つ心の壁を越えなきゃいけないんですね。
その点で言うと安川さんは同世代20代の監督の中では一つ掴んだんじゃないかな。

安川:元はもっとフィクション度の高い脚本だったけど、私のダウナーさが出てしまったのかなという感じがあります(笑)。
初めて人の脚本で撮って難しいなと。

西尾:どういうところが難しかった?

安川:正解がわからなくなる瞬間がありましたね。自分のやりたいことと目の前の演技と脚本とがバラバラな感じがして。どれが正解だ?みたいな(笑)

安川:今まではそうじゃないという確信はあったので結構言って来たけど、今回はやってもらってその場で決めることが多かったですね。中村愛美さんが突然弾けた演技をしてくださるのて、見て面白いなと思って生かしたり。

西尾:乗っかるのは難しいね。それは凄いいい経験をしたと思うのが、自分の脚本で自分のイメージでイメージ通り撮れたというのはインディーズ映画の監督たちにとっては割と普通のことだと思うけど、今安川さんが言ったことの方が本当は普通なんですよ。
一つの作品に対して監督の脳みその中だけで作っちゃうとそれ以上のことが出来ないというのがあって、役者さんたちのアイディアや、スタッフのアイディアをやりすぎの場合はセーブすることも含めて取り込んだりとても大事な作業だなと。

 実は新作を二日前にクランクアップしたところで。前回は共同脚本をやったので今回は共同監督。劇団 子供鉅人の座長と役者さんたちで一緒に撮った。凄いアウェイで座長が演出するのは役者さんにとっては日常の延長。役者を知り尽くしているからアイディアはどんどん出てくる。
それに乗っかりつつも、ただ乗っかると監督の意味がないのでさらに演出を入れて行って、一緒にものを作ったという感じが凄いしましたね。ただ1人で監督するよりめちゃめちゃ疲れて。大分フラフラなんです(笑)

安川:今まで撮った映画はオリジナルでいつもテーマ出発なんです。テーマを描くための物語を考えていく。西尾監督はどういう出発ですか?テーマから出発すると難しいことが結構あって。女優さんを美しく撮りたいとか、そういう欲望の方が映画としては強い表現になりそうで。

西尾:普通は会社から依頼されてこの原作で撮りませんかという話だと思うが、『ソウルフラワートレイン』と劇団 子供鉅人との新作も自分から原作ものをやりに行っているんです。
僕はオリジナルに対して固執してないタイプ。原作がなんであれ、映画になれば僕のオリジナルなわけで。例えば黒澤明が『藪の中』を原作に『羅生門』を撮ってそれは芥川龍之介の力だとは誰も言わないでしょ。
漫画原作だから日本映画はダメだとか全然思わないし、昭和の黒澤・小津・成瀬・溝口、みんな原作ものはたくさんやっている。
自分の中から出てくるものといっても、僕は人間が浅いから。教養ねぇしなと思って(笑)
テーマでやると疲れません?想像ついちゃうというか。

安川:理屈っぽくなるというか、こうなって欲しいからこういう物語になってしまうんですよね。

西尾:テーマで作るというのは国が発展途上の時期に色々な社会問題や個人との対立があるときに出来やすいものだと思うけど、今の日本のような状況だどそういうものは作りにくくないかといのはあるんです。
娯楽映画の中に色んな人生の色んな場面があってそこに一つ一つテーマが出てくると思うし、その方が好きかな。

西尾:カジレナは知り合いにモデルがいるんですか?

安川:全くなくて、参考にした映画もなくて完全にオリジナルです。
周りからそういうキャラクターと思われることでそれ以外の人生が生きられなくなるってあるんじゃないかなと。
実際のさげまんを掘り下げていくとドロドロとしたものになりそうだけど、この映画は現象として描いているんです。

西尾:去年みた映画で『鈴木先生』が印象に残っていて。
よく”人が色々な役割を演じて解放される”のがテーマとしてあるけど、『鈴木先生』のテーマは役割をあえて演じることで人間って成長することがあるんだというもので。
『カジレナ』も役割を演じることで売れていったり。色々な経験をすることできちんと成長譚になっていると思いました。

安川:映画を撮り始めたのが20歳の時。外に出るきっかけが西尾監督と出会ったことなんです。

西尾:いい話(笑)
学生時代の最初の上映が僕のやってたお店で。上映の後に話し込んで。卒業してからも相談を受けたりしてね。

安川:頻繁に会ってるわけではないけど、お互い映画を作っていることでまたこうやってお会い出来ているんですね。

西尾:僕は、年に一本は劇場公開もしくはネットで公開する短編でもいいから作ってアピールしないとと思っているんです。
監督を探しているプロデューサーの目に止まるように。

Q&Aでは、西尾監督から客席にいた『大阪蛇道』が公開待機中の石原貴洋監督に質問が振られた。

石原:今回はさげまんで撮ったんですけど、あげまんで撮らないんですか?

安川:どうしても呪いをテーマに撮ってしまって。男性は女性の敵という映画になってしまうんです。

西尾:いい恋愛しろよ(笑)

石原:男性に不幸になって欲しい?

安川:そうではないけど、フィクションとしてはどうしても女の対戦相手にする方が面白いんじゃないかと思ってしまうんですよ。

『激写!カジレナ熱愛中!』はシネ・ヌーヴォXにて、5/9まで上映予定。
共感できるか、あり得ないか、稀代のさげまん女優の生き方を見届けてみませんか?

(Report:デューイ松田)