この度、5/30(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵の館ほか全国公開いたします、2013年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞&コーエン兄弟最新作『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』のジャパンプレミアを4/23(水)に開催いたしました。
 60年代フォーク・ロック・ムーブメント前夜、NYを舞台にあるシンガーの葛藤を描いた本作。今回、映画と同じ時代を生き、また現役ミュージシャンとして活躍を続ける財津和夫さんは本作に感銘をうけ大変気に入ってくださり、映画でのトークイベントに「初めて」のご登壇に。ピータ・バラカンさんとともに、本作の魅力を存分に語っていただきました。

登壇者:財津和夫さん (ミュージシャン/66歳)、ピーター・バラカン (ブロードキャスター/62歳)

ピーター:私が日本に来てすぐくらいの1970年に財津さんとは知り合っています。当時私はシンコー・ミュージックの国際部の部員で、当時シンコー・ミュージックに所属していたチューリップとは、社員旅行でも顔を合わせていましたね。
財津:ビートルズの曲をカバーしたアルバムでは、ピーターに発音をなおしてもらったりしました。
ピーター:財津さんといると「ビートルズ」という感じがしますが、この作品の時代は1961年で、ビートルズがデビューする前の年ですね。財津さんはデビュー前どんな曲を聴いていましたか?
財津:ニール・セダカやエルヴィス・プレスリーなど、兄が聴いていたアメリカンポップをひととおり聴いていましたね。あまりピンとこなかったけれど、ビートルズが出てきてそこから世界が変わってしまいました。
ピーター:この映画に登場するようなフォークの世界を知っていましたか?
財津:全く知らなかったです。ピーターは?
ピーター:ビートルズの後にフォークの存在を聞きました。ビートルズがデビューした後、ジョン・レノンがラジオで「ボブ・ディランが面白い」と言っていたのを聞いてレコード買い、ボブに興味もってそこからフォークに少しずつ興味を持ちました。ビートルズの曲「悲しみをぶっとばせ」(You’ve Got To Hide Your Love Away)は、ボブ・ディランに影響された曲だと言われています。ジョン・レノンはボブ・ディランに影響されたんです。ラブソングの題材以外がポップミュージックに入ってきたのは、ボブ・ディランの影響があります。1964、5年のビートルズの「ヘルプ」に入っている曲の題材も変わってきますよね。財津さんはこの他にコーエン兄弟の映画はご覧になっていますか?
財津:日本人だけれど、映画の中で彼らの言っていることが何故か分かってしまう。欧米の映画は分からないことがありますが、コーエン兄弟の映画を見ると、分からないところもあるけれど「分からなくても良い。ここが分かれば良いんだ。」ということが伝わってくるんですよね。波長が合うんだと思います。コーエン兄弟の作品はほぼ最初から観ています。『ブラッド・シンプル』は犯罪もので重い映画だったけど、変わった監督だな〜と。
ピーター:彼らの映画はいつもどこかひねくれているところがあったり、シャレたところがあったり、ユーモアが大好きです。
財津:ユーモアの後ろにすごく残酷な顔がでてきますよね。(笑)
ピーター:ローランド・ターナー役で出てくる、ジョン・グッドマンはコーエン兄弟の映画によく出てきますよね。
財津:僕が本作で一番印象的だったのは、キャリーマリガンでした。彼女が歌うなんて!とビックリしました。さらに放送禁止用語も炸裂させていて…。ずっと可愛いなと思っていたけれど、この映画でもう一度好きになりましたね。
ピーター:キャリー・マリガン演じる女の子にすごく怒鳴られて言い返せない主人公の表情もなんともいえず親しみを持てますよね。
財津:男同士としても彼を抱きしめてやりたい気持ちです。(笑)
ピーター:ミュージシャンにはどうしようもない人多いですよね。(笑)でもこの映画の主人公は憎めない。
財津:音を愛する気持ち、歌う気持ちがあると、ずるい気持ちが見えてこないですね。音楽をやっていてずるい人はあまりいない。そういうちょっとふわっと浮いた感じがミュージシャンはあるのかもしれませんね。
ピーター:主人公のルーウィン・デイヴィスはシカゴでオーディション受けたあと、「お前の音楽は金の匂いがしない」と一言言われてしまいましたが、お金になる音楽、ならない音楽、いつの時代も同じだと思います。財津さんは音楽をやりはじめたころ考えましたか?
財津:九州から東京に出てきたので、まず生活が一番大事でとにかくヒットさせよう、と。ヒットする曲は、今まで九州・福岡で自分たちがつくってきたイメージと違う曲なんです。1曲目も2曲目もヒットせず、振り返れば当然ヒットしない曲だったんだけれど、3曲目にやっとこうすればヒットするのでは…と、スタッフと話をして、本当にヒット狙いの曲を作りました。随分ギャップに悩みましたよ。
ピーター:ヒットするとに常に注目される立場になりますが、それは必ずしも嬉しいことではない?
財津:ヒットしたい、お金は欲しい、歌は歌いたい…と、どこからはじめてよいのか、どこをたてればよいのか、考えました。チューリップは5人のバンドでしたが、全員が食べることが出来るように、と。そして誰かが結婚したらますますお金を稼がなきゃいけなくなる。そうなると自分が本当にやりたいことは何か?と何度も立ち止まったことはあります。今思えばそれで良かったと思うけれど、この映画を見ると、ギター1本持って、僕も猫大好きだから猫を抱えて、主人公は寂しい想いをしただろうけれど、あんな風にボヘミアンな生き方はいいな、と思います。今からでもやりたいなと思いますよ!歳をとって、ある意味余裕も出てきたので、好きな時に旅に出て、歌を歌うということはやりたいです。この映画を観ると、実はこんなことをやりたかったんじゃないかな、と思ったりもします。
ピーター:チューリップの音楽はフォークと言われていましたが、そうかな…?と思っていましたが、財津さんの曲を英訳してアメリカのフォークミュージシャンが出したアルバムを聴いたとき、ようやくチューリップとフォークの関連性が見えました。
財津:あの時代、日本はフォークなのかロックなのか何か分からないものを当時の学生が反戦運動から入ってやっていたけれど、音楽が生まれた歴史的な背景が日本に全くないから、フォークだけどフォークじゃないし、今思えばロックをやっている人もいなかったのではないかなと思います。日本人らしいですよね。
そして本作は猫も可愛かったね!猫が出てるシーンは猫しか見ていなかった。寝ているところを起こしにくるところ、同じことやられたいな(笑)猫は言う事をきかない、勝手なところが良いですよね。犬はエサをくれるから人間を神様だと思い、猫は「私が神様だから人間がエサを運んでくるのだ」と思っているらしいですよ。

ピーター:コーエン兄弟の映画の中で音楽は大きな役割していますよね。『オー・ブラザー!』なんかも。一種のロードムービーでとても大好きです。
財津:サウンドトラックはグラミー賞で賞もとりましたよね。今日もう一度観てみよう。

ピーター:本作はどのシーンも映像的に印象に残っています。
財津:ものすごくしみ込んでくるというか、今でも目を閉じると色んなシーンがわぁっと蘇ってきますね。
ピーター:フィルムで撮影されたんですよね。本年度のアカデミー賞「撮影賞」にもノミネートされましたし、2013年カンヌ映画祭のグランプリもとりました。時代考証が徹底してとにかくすごかったですね。また、音楽業界のことを少し知っていると、楽しめるところがたくさんありますよ。また、新人の頃のボブ・ディランが本編にちょっと出てきますよね。人物は本物ではありませんが、音は本当のボブ・ディランのものを使っています。ボブ・ディランが特別に使用を許可してくれたらしいですよ。また、歌うシーンは出演者がみんな吹き替えなしで歌っているんですよね。普段、映画では事前に録音したものに口パクであわせることが多いのですが、本作ではレコーディングも一発録りという話しを聞きました。
財津:昔は一発録りが多かったですよ。今みたいに何度も録音したりつぎはぎする時代じゃなかったから、ほとんど一発で録音しました。僕もやったことありますし、一発録りはとても緊張しました。その時代が懐かしいですね。
本作の主人公は、歌のシーンで一人でギターを弾いて、一人で歌って、おもむろに終わりますよね。彼の演奏する曲がどの曲も本当に好きだでした。歌の終わりって、じゃらーんと「最後のエンディングまで聴いてもらいましょう!」という感じで終わったりしますが、彼の曲は静かに終わるのがしびれましたね。これは是非僕もやりたいなと思いました。
ピーター:財津さんは映画が好きということで、映画をつくることを考えたことはありますか?
財津:つくりたい気持ちはあるけど、現実的には難しいと思うので…。でも「脚本」とか、映画づくりには関わってみたいな、と思っています。
ピーター:期待しましょう!!