1月18日、梅田ガーデンシネマにて横浜聡子監督『りんごのうかの少女』の公開が始まった。
初日は横浜監督と応援に駆けつけた弘前市市役所職員2名の方から、入場者全員に甘い香りの青森県の弘前りんごが手渡されるというサプライズプレゼントがあった。

上映後、ライターの田辺ユウキさんを司会にティーチインが開催された。
控え室に劇場から上映後の拍手の音が聞こえて来たという横浜監督は

「大阪の方は温かいなと思いました」と笑顔を見せた。

今回の作品は青森県弘前市の市役所から依頼され制作した作品。田辺さんから
「ご当地映画という街や土地をPRする趣旨のものを横浜監督に託されること自体賭けだなと思った(笑)」とストレートな質問が。

「弘前市市役所の方がよく私に声を掛けてくれたと思います(笑)。弘前はりんご以外にも、弘前城やねぷたという夏祭りがあるが、いかにも弘前のご当地映画で無くてもいいからと、最初から言っていただきました」

誰が見ても喜んでくれる映画をと望まれ、中でも本作のプロデュサーでもある、青森県で有名なご当地アイドル“りんご娘”で主演を務めたときさんの事務所の社長から具体的な要望があがった。

「青森県の人間はシャイでごめんやありがとうですら言えない。ありがとうのことは“かにな(堪忍な)”って言う。特に身近な人に対して直接言わない気質。親も子も今はその関係に悩んでいるから誰にとっても身近な親子関係を描いて欲しい。
あとは農家の人が見てほっと一息つける映画にして欲しい、と言われました」

田辺さんから「津軽弁が気持ちよかった。この映画は音楽映画と思っています」と津軽弁の音感の面白さが指摘された。
前作『ウルトラミラクルラブストーリー』でも津軽弁が使われた。青森県出身の横浜監督にとっては普通の言葉。

「津軽弁は意味が分からないだけに、素直に音の効果として使えるという意識はあります。字幕をつけると意味に重きが行ってしまうので、あえてつけずに音だけで感じてもらう。前作を踏まえて、グルーヴみたいなものは映画の中で面白い効果になるだろうなとは思いました」

観客からは演出や編集、音楽、ロケ地について質問が次々と上がった。
広告のコピーライターをしているという男性からは
「リンゴの木を燃やすことに対してネガティブな意見はなかったか」

ご当地映画でシンボルでもあるりんごの木を燃やす冒険について、当初は市役所の方やりんご娘の事務所の社長からは、農家の方が嫌な思いをするだろうと指摘があったという。

「親の中ではりん子がりんごの木そのもの。りん子が一度生まれ変わるにもりんごの木を燃やさないと終われないんだと説明しました。そのうち粋な農家の方が手を上げてくださいました」

実際燃やしたのは病気にかかった木で、消防隊が待機して万全の体制で撮影に臨んだという。
地元の方の反応は横浜監督も不安だった。青森での昨年の先行上映があった。

「今のところ苦情は来ていません(笑)でも毎回ドキドキしています」

「ウルトラミラクルラブストーリー」以来、短編作品のみであることに対して、オファーがないのか、ご本人の希望なのかという直球の質問も。
約6年長編を撮っていないという横浜監督。実際オファーはあり、シナリオを書いたが撮影までこぎつけたものが一本もなかったという。苦笑しながら

「撮影したいという気持ちだけが先行するんです。撮っている本数が少ないので撮らなきゃ上手くならないという焦りがあります。その不安を解消したくて『おばあちゃん女の子』を自主映画で撮りました。今回お話を頂きましたし、今は原作もののお話がありシナリオを書いている段階。今度こそ撮影までこぎつけます(笑)」

田辺さんの「6年前から意識が変わったか?」との質問には、

「自分の作家性はどうでもいいやと最近思っていて(笑)なんでもやりたい。マイナスな考えではなく、豊かな映画にしたい一心です」

6年前までは思いついたことを論理性なく書いていたが、映画の構造を考え始めたという横浜監督。今後の作品にどんな変化あるのか注目していきたい。

最後に横浜監督は、梅田ガーデンシネマが2月28日で閉館することに触れ、

「『ジャーマン+雨』の頃からガーデンシネマさんには応援して頂き、ひさうちみちおさんとトークショーをしたのが印象に残っています。一昨年の短編も上映して頂いた思い出の大きい映画館です」と心情を語った。

「お客様、ガーデンシネマの皆様、ありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます」

『りんごのうかの少女』は梅田ガーデンシネマでの上映は1月24日まで。愛媛/シネマルナティックは31日まで上映。 他、順次全国ロードショー予定となっている。
ぜひ劇場でりん子の成長を見守っていただきたい。

【1月25日〜31日】
北海道/ディノスシネマズ札幌劇場
愛知/名古屋シネマテーク

【2月1日〜7日】
神奈川/シネマ・ジャック&ベティ

【2月1日〜14日】
京都/元・立誠小学校 特設シアター

【2月8日〜21日】
青森/イオンシネマ弘前
青森/青森松竹アムゼ

(Report:デューイ松田)