それではお話を伺ってまいりましょう。
まず、山田監督にお聞きします。
本作は、今から3年ほど前の2010年に、監督ご自身が原作本をお読みになって、すぐに映画化を熱望されたそうですが、本作のどういったところに惹かれて、またどのような想いをこめて、この映画の製作を決意されたのでしょうか。

山田洋次監督:
小説を読みながらわくわくしてきて、後半ぐらいからはこれ映画にしたいなと思いながら読んでました。この先いったいどうなっていくんだろう、この若奥様の運命は。もしかしてきわどい事になっていくのかなという、ドキドキした感じ。そんな映画を僕は作った事がないなという感じがしたんですね。そんな不安や、あやしい心のときめきみたいなものも含めて、戦前から戦後にかけての日本の大きな歴史が見えてくる。そういう素晴らしい小説だと思って、すぐに中島京子さんにお手紙を書きました。

MC:
実際に出来上がってみて、手応えはいかがですか?

山田洋次監督;
手応えはこれからなんですね。
作ってるスタッフには本当にわからないんです。
どんな映画になったのか。どんな風に観客に伝わっているのか。
寅さんを作っている時も、この映画みんな笑うのかなと、そんな不安の中で作っていて、
実際にお客さんが笑ってくれるのを見て、やっぱりおかしいんだって思ったりする。
この映画もまったく同じです。
ただ、一生懸命作ったという、その事だけ当てにして、必ずその思いは伝わるはずだと、それだけを今、当てにしてここに立っています。

MC:
ありがとうございました。
では続きまして、キャストの皆様にお伺いしたいと思います。

本作は、赤い屋根のおうちに封印された ある“秘密”が、現代に遺されたタキの自叙伝から明かされていく、というお話ということですが、ここで、今だから明かせる、山田組の撮影現場での “秘密”のエピソード をお聞かせいただきたいと思います。

まず、松さん、9年ぶりの山田監督の撮影現場は、いかがでしたでしょうか。

松たか子さん:
面白い事がたくさんありました。
私はその現場を直接目撃出来なかったんですけど、印象的だったのは、黒木華ちゃんと向かい合って会話している場面で、私の後ろの方から監督がドン!ドン!ドン!と地団駄を踏んでいる音が聞こえてきたんですね。
私、地団駄を踏む人なんてマンガ以外で見た事無かったんですけど。
でも地団駄を踏むって、自分自身にすごく夢中になっていて、人に対してあたる行動ではなくて、自分の事が歯がゆいという。監督がそういう熱さをもって現場にいらっしゃるのは、とっても健康的だと思いました。音だけしか聞けなかったけど、これからもその監督の足音を消えないように頭の中に埋め込んでおこうと思っています。

MC:
監督がそんな熱い演技指導をされる中で、吉岡さんとの撮影のシーンで監督とのエピソードがあると聞いたのですが?

松たか子さん:
本当に私の役を奪われるぐらいの演技指導で、言っていいのかわからないですけど、「ここに監督がいたとしたらどうなっただろう」と見たらお気づきになられるシーンがあるかもしれません。

MC:
ありがとうございました。続いて、黒木華さん、黒木さんにとっては初めての山田組でもあったわけですが、今だから明かせる、撮影時のエピソードや思い出はありますか?

黒木華さん:
いつも緊張感がありつつも、あたたかい現場でした。

MC:
黒木さんは今回の役では、割烹着を着られていて、山田監督からは本当に割烹着が似合うと言われていたそうですが。監督、似合っていましたか?

山田洋次監督:
そうですね。日本一でしょう。

黒木華さん:
ありがたいです。
映画のポスターを見てくれた人からも割烹着が似合うと言われて、平成生まれなのに。
でもすごく嬉しいです。

MC:
黒木さんは松さんとの共演も嬉しかったと聞きましたが。

黒木華さん:
初めて見に行ったお芝居が、松さんが出られていた「贋作・罪と罰」だったので、「あっ、本人がいる」って最初は思ってしまって、でもタキちゃんが時子さんを憧れる目と同じように、松さんの事を見ていました。

MC:
映画の中では女中のタキちゃんとしてよく働いていましたが、何か習得した技はありますか?

黒木華さん:
なんだろう。障子のほこりを落とす、はたきの使い方を習得しました。

松たか子さん:
100点満点ですね。助けられました。

MC:
ありがとうございました。続いて、「男はつらいよ」シリーズを含めて、長年山田監督とはご一緒されている吉岡秀隆さんにお伺いします。松さんと同じく9年ぶりの参加となった監督の撮影現場は、いかがでしたでしょうか。

吉岡秀隆さん:
僕は板倉正治という役について何も出来なかったかもしれないです。
いまだに、もっと何か出来なかったかなと、ふと夜中に目が覚めたり、そんな反省の日々です。

MC:
でも山田監督とご一緒できるという嬉しさはあるんじゃないですか?

吉岡秀隆さん:
そうですね。修行みたいな感じですね。
身振り、手振りで監督が時子さんになって、ご指導してくだるので、
松さんとよりも、監督とお芝居する回数の方が多かったかもしれないです。

MC:
今の言葉も松さんが先ほどおっしゃったあのシーンとリンクするんですね。

倍賞千恵子さん:
ずっと前の映画ですけれども、「遥かなる山の呼び声」の時に、電車の中にハナ肇さんが入ってくるというシーンで、山田監督がわーっと入ってきて、こうやって、ああやって、台詞を全部言ってたら、みんな「ああ素敵だなって」って言っていた、そんな事がありました。

MC:
ありがとうございました。続いて、平成パートより、二作連続での山田組参加となった妻夫木聡さん、お願いします。二作品連続という事で嬉しかったですね。

妻夫木聡さん:
嬉しかったですね。「東京家族」を撮っている時に、「次もお願いしたい」と山田さんからおっしゃっていただいて、嬉しくて親に電話しましたから。

MC:
今回、撮影ご一緒される事が多かったのが倍賞さんという事ですが。

倍賞千恵子さん:
私、一緒に演技してたの妻夫木くんだけだったもんね。
あとで、彼女役の木村文乃さんが出て来た時に、私は嫉妬しましたね。
やっと心を開ける人が出来たなと思ったら、彼女を連れてきて、いとも簡単に帰ってちゃってね。

妻夫木聡さん:
毎日毎日、「また明日ね」なんて言いながら撮影してましたね。

MC:
映画を見ても、お二人の距離が本当に近いそんな雰囲気だったのですが。

妻夫木聡さん:
倍賞さんが本当に気さくな方だったので、いい意味で僕は本当に何も気にせずいられました。

倍賞千恵子さん:
待ち時間が楽しかったですよね。

妻夫木聡さん:
倍賞さんが実年齢よりも年をとった役だったので、背筋を曲げて演技しているんですけれども、意識してないと背筋がピンと伸びちゃって。「倍賞さん背筋伸びてますよ」「あっ、そうだったわ」なんてそんなやり取りをしてましたね。
あとは、ナレーションを僕が録っている時に、事前に倍賞さんが録っていたナレーションを聞かされて、山田監督に「かなわないだろ?」って言われましたね。

MC:
妻夫木さんは今回大学生の役という事ですが、実年齢は?

妻夫木聡さん:
32歳です。今回は10歳ぐらい若返ってみたりしてるんですが。日頃から若々しくあろうと思ってるんですけどね。もうそろそろいっぱいいっぱいなんじゃないかと。

MC:
続きまして、そんな妻夫木さんと主にご一緒されていた木村文乃さん、山田組初参加となりましたが、現場はいかがでしたか?

木村文乃さん:、
最初から最後までずっと恐縮しっぱなしで、緊張したまま撮影していて、周りの人に助けてもらいながらの撮影でした。
撮影が終わった日に、山田監督に挨拶したら、ただ黙ってハグしてくれて、はじめて普通に息できた感じがしました。今までこんなに緊張した事はなかったですね。

MC:
ありがとうございました。最後に、監督とは50年以上に渡ってご一緒されている倍賞千恵子さん、倍賞さんしか知らない、気づけないような、現場での山田監督とのやり取りもあったかと思いますが、いかがでしたか。

倍賞千恵子さん:
撮影は9:00に始まって、17:00には終わりなんですけれども、
ある日、山田監督が、三時頃に「俺、腹減っちゃったから、撮影やめちゃおうかな」
と言っていたのが秘密かな。山田監督お腹が減ると機嫌悪くなっちゃうし、お肉を食べるのがとても好きなんですね。だから山田監督が元気のないときは皆で、「お肉食べさせよう」って言ってました。
あと他にも秘密はあるけど、秘密だから言わないわ。

MC:
ありがとうございました。それでは、舞台挨拶は以上となります。
監督・キャストの皆様に、今一度、盛大な拍手をお願いします!
ありがとうございました!