映画『キャプテン・フィリップス』体感するシンポジウム「中東・アフリカ地域における安全管理と危機管理」イベント(2/2)
後藤:
方法論としてははどういう風に現場で行うんですか?具体例を教えてください。
船長:
基本的なこととしては船長室に閉じこもっていないで、自身が歩きまわってチェックすること。
エンジン部分のドアが開けっぱなしになっていたので、閉めたり。
そこから人が入ってしまうと危険度が増すので、内部から鍵をかけました。
私自身もセキュリティに関しての知識があやふやになっていたので、訓練をもう少しやっていく必要があったと思います。
海賊だけでなく誰かが負傷した時など、手順が間違っていないか乗組員と同じ認識をもつことが大事です。
直感で行動できることもあるが、異常が出た時ににどう対処するのかトレーニングを繰り返すことが重要。
それ以降は訓練を怠らないようになりましたし、
乗組員だけでなく自分自身が異常がないかチェックすることが重要ですね。
後藤:
本の中で船長が3つの間違いを犯した、と書いてらっしゃいますが具体的には?
船長:
まず事件が最初に起こった時には乗組員の命を最優先する方法をもっと考えるべきでした。
海賊が何を持っていてどんな目的だったのか全く分からない状態でしたが、
まずは最優先にすべきなのは乗組員の安全を確保することですね。
二つ目はレスキューボードで海上に出る時。
レスキューボードは装置レバーを引いた時にに海に落ちるようになっていたのですが、
レバーをずっと握り続けていればあのようなことにならなかったのでは、と今は思います。
3つ目は、最終的にレスキューボードが推進力を失っていたのでその対処をすべきでした。
その時は人質になっているという問題をどうやって解決するかに躍起になっていました。
後藤:
ミスとはいえ全員が助かったのですから、素晴らしいことだと思います。
船長:
それが一番の目標でした。乗組員の安全と物資を守ることをいつも念頭に置いていました。
今回のような海賊の事件だけではなく、船長の責任はどんな時でも求められること。
嵐の時も乗組員の命を守ることが一番大事です。
後藤:
海賊と狭い空間で過ごされたと思いますが、精神的にもうダメだと思ったときにどうしましたか?
船長:
ライフボードに乗った時に希望は捨てないようにしていたことと、
救助される時にはそれに対処する体力の維持が必要だと思いました。
時々、海賊に水をくれと言ったのに、なかなかくれなくて非常に辛かったですが、
最後の最後まで希望は捨てませんでした。
抜け出す可能性を信じて、その時に使う体力の維持を意識していました。
後藤:
交渉人が来た時にどんなことを期待しましたか?
船長:
実際は何が起こっているのか分からなかったんです。
私自身は特にそこで何も思いませんでしたし、特に期待はしていませんでした。
ネイビーシールズが来た時もすぐに救出してくれるとは思いませんでした。
アメリカが何かしてくれてようとしているのは感じていましたが、期待を持たないようにしていました。
後藤:危険な海域というのはご存知でしたよね?そういう場所で仕事することは船長にとってはどういうことなのでしょうか?
船長:
海賊はソマリア沖だけにいるわけではありません。インドネシア、フィリピン、アフリカ沿岸など危険な場所はいくつかあります。
海賊に限ったことではなく、乗組員の病気や嵐、火事、台風など危険に認識を対処する方法を予期していなければなりません。
危険な状態から安全な状態に持っていく方法ですね。海賊の場合、相手も人間なのでパターンがあるわけではないので状況は変わります。必要に応じて最適方法を選択しなければなりません。
後藤:
船長は家族に対してはどういう気持ちを持っていますか?
船長:
船に乗る仕事しているということは、通常とは違うかもしれませんね。
長期間家族に会えないので、一緒にいる時間の大切さは他の人と違うかもしれません。
事件が起きている時は、家族のことは一回も考えませんでした。その時は状況をどう立て直すか、混乱をどう収拾するかに集中していて家族を考える余裕はありませんでした。
ライフボードに乗った時には、気持ちを整理する時間を意識的に持とうとしたので、妻や息子のことなど考えました。
もし何かあった時に家族は大丈夫なんだと、気持ちを整理する時間を意図的に作りました。
後藤:
今回の観客の方々は社員の命を預かっている方々です。ぜひメッセージをお願いします。
船長:
私が海賊の襲撃を受けた時、私の会社は家族に対して最善の努力を払ってくれました。
悪いニュースはどうしても良いニュースにはならないので、事実の情報をきちんと伝えてくれました。
情報を出したりサポートをしたりすることは企業の役目だと思います。
安心、心の平穏を保つためにどういう対応をするのか、またメディアに対して家族がどう守れるかなどですね。
事件が起こった時、妻にメディアから取材が殺到しました。妻にとっては耐えられないことでした。
その後企業はメディアから攻撃を受けないように違う場所に移動してくれました。
事件後のサポートも重要です。心、金銭的なサポート継続的に行うこと。
経験として、私の会社は非常に良くしてくれました。感謝しております。
後藤:今日はありがとうございました。
船長:ありがとうございました。