映画祭10日目の24日(金)。本日、“コンペティション”部門で正式上映されたのは、アメリカのジェームズ・グレイ監督の『ザ・イミグラント』とフランスのアルノー・デ・パリエール監督の『ミシェル・コーラス』。“ある視点”部門では2作品が上映され、“カンヌ・クラシック”部門には、フランチェスコ・ロージ監督の『コーザ・ノストラ』(1973年)、ヴァレリオ・ズルリーニ監督の『タタール人の砂漠』(1976年)が登場。


◆ジェームズ・グレイ監督の4度目のコンペ参戦作『ザ・イミグラント』のヒロイン役はマリオン・コティヤール!

 1994年の監督デビュー作『リトル・オデッサ』でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を獲得、カンヌに河岸を変えた第2作目の『裏切り者』(2000年)以降、『アンダーカヴァー』(2007年)、『トゥー・ラバーズ』(2008年)と、全監督作がカンヌのコンペに選出されているジェームズ・グレイ監督。いまだ無冠ながらインディペンデント映画の雄として名を馳せている彼は今年、招待部門で20日に上映されたギョーム・カネ監督の『ブラッド・タイズ』の共同脚色&製作総指揮を務めた(同作の公式記者会見には不参加)ことでも注目されている。
 『ザ・イミグラント』は、ギョーム・カネの現在のパートナーである仏女優マリオン・コティヤールをヒロインに据えた前世紀の物語で、ポーランドの内戦から逃れてアメリカに渡った移民女性と彼女に関わる2人の男性の姿を描き出している。
 1921年。エヴァ(マリオン・コティヤール)とマグダの姉妹は、生まれ故郷のポーランドを離れ、「約束の地」ニューヨークへと向かう。だが、結核を患っていたマグダはエリス島に到着するやいなや隔離されてしまう。途方に暮れたエヴァは、女衒のブルーノ(ホアキン・フェニックス)に騙され、バーレスクの世界に身を沈めた挙げ句、体を売る決意をする。そんな彼女の前に、ブルーノの従兄弟だという手品師(ジェレミー・レナー)が現れ、彼女に救いの手を差し伸べるが……。

 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた『ザ・イミグラント』の公式記者会見には、本作を監督&脚本&製作したジェームズ・グレイと2人のプロデューサー、プロダクション デザイナー、撮影監督のダリウス・コンジ、そしてマリオン・コティヤールとジェレミー・レナーが登壇。ジェームズ・グレイ監督作品の常連で、本作で4度目のコラボとなるクセ者俳優ホアキン・フェニックスは現在、ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作の撮影のため残念ながらカンヌ入りしていない。
 1920年代初頭に東欧から米国へ移住した自身の祖父母の歴史を本作に反映させたというジェームズ・グレイ監督は、移民について「エリス島は1920年から24年まで、全ての移民たちが到着する場所だった。40%の米国人にはエリス島を経由した家族がいる。移民が社会と文化を豊かにし、活気、柔軟性、ダイナミズムを文化にもたらしたんだ」と語り、困難をきわめたエリス島での撮影を「観光地なので1年中、開館している博物館がある。なので撮影は夜間に行うしかなく、大量のクレーンを使って照明をセットした。もし事前に諸々のことが分かっていたら、ここで撮影はしなかったと思うよ」と振り返った。
 主要3俳優の起用については「マリオン・コティヤールは顔つきが実にいいんだ。サイレント映画時代の大女優リリアン・ギッシュを彷彿とさせるね。ジェレミー・レナーは、僕の親しい監督キャサリン・ビグローから彼の話を聞いていたので起用に繋がった。常連のホアキン・フェニックスに関しては、1作目の起用時から感情面で非常に幅広い表現を持っている俳優だと気付いた。彼は僕と同じ感覚の持ち主なんだ」とコメント。
 一方、マリオン・コティヤールはハリウッド映画出演の経験も多く英語も流暢だが、「ポーランド移民の役なので、当然のことながら完璧なポーランド語を喋る必要がありました。この言語はとても複雑なので、とても大変でした。20頁ほどのセリフを日夜、何度も紙に書き出しながら覚えていったんです」と役作りの苦労を語った。


◆主演のマッツ・ミケルセンを始め、国際色豊かなキャストが集ったアルノー・デ・パリエール監督の初コンペ作!

 フランスの俊英監督アルノー・デ・パリエールのカンヌ初登場作『ミシェル・コーラス』は、18世紀ドイツの劇作家ハインリヒ・フォン・クライストの小説「ミシェル・コーラスの運命」を基にした重厚な歴史劇(フランス&ドイツ合作)だ。
 舞台は16世紀のフランス。領主に不当に馬を横領され、宮廷に訴えても相手にされなかった実直な馬商人コーラスが、徒党を組んで起こした謀反の顛末は……。主演は昨年の『偽りなき者』で見事に男優賞に輝いたデンマーク出身の国際派スター、マッツ・ミケルセン。共演者もブルーノ・ガンツ、デイヴィッド・クロス、セルジ・ロペス、ダーヴィット・ベネント、デルフィーヌ・シュイヨー、アミラ・カサール、ドニ・ラヴァンと、ドイツ、スペイン、スイス、フランス各国から実に多彩な顔ぶれが集った。

 夜の正式上映に先立ち、12時15分から行われた『ミシェル・コーラス』の公式記者会見には、監督&脚色&編集したアルノー・デ・パリエールとプロデューサー、そして俳優のマッツ・ミケルセン、デルフィーヌ・シュイヨー、セルジ・ロペス、ドニ・ラヴァンが登壇した。
 日本映画に惹かれ、黒澤明監督作品の音楽に影響を受けたと述べたアルノー・デ・パリエール監督は、本作の舞台に相応しい土地、つまり往時の面影が残る“自然”を探しまわったという。原作については、「映画の勉強を始めた若い頃に読んだ。目が眩むような衝撃を受けたが、小説の複雑さと重要性をきちんと理解していなかった。その時は、何らかの形で映像化できる能力が僕にはなかったが、やっと実行に移す時を迎えられた。自然に対して拘るのが、僕固有のスタイル。この作品では特に、“愛”を自然の一部として描いたんだ」とコメント。
 フランス語・スペインのカタルーニャ語・ドイツ語が飛び交う本作だが、フランス人である主人公を演じたマッツ・ミケルセンは、「デンマーク人にとってフランス語の演技は非常に難しい。話せるようになるまでフランス語を猛特訓したんだけど、容易じゃなかったよ。また、言語の異なる他の俳優たちとの意志疎通も容易ではなかった。作品はある時期になって、全員を個人的に感動させて終わったんだ。僕は役に命を吹き込み、彼を擁護したいと思った。主人公は合理的な男であり、正義を信じ、自分の馬たちを見つけ出したいと願うが、捜索する中で、全てを失うんだよ」と語った。
(記事構成:Y. KIKKA)