映画祭9日目の23日(木)。“コンペティション”部門では、アレクサンダー・ペイン監督の『ネブラスカ』とチュニジア出身でフランスで活動するアブデラティフ・ケシシュ監督作『ブルー・イズ・ザ・ウォーメスト・カラー』が正式上映。“招待作品”部門では、アメリカの名コメディアン、ジェリー・ルイスにオマージュを捧げた『マックス・ローズ』が登場。また、“ある視点”部門では3作品が上映されている。


◆2度オスカーを獲得した名匠アレクサンダー・ペイン監督が『ネブラスカ』でコンペに参戦!

 2004年の『サイドウェイ』と2011年の『ファミリー・ツリー』でアカデミー賞脚色賞を2度受賞し、昨年はカンヌのコンペ審査員を務めたアメリカのアレクサンダー・ペイン監督だが、今回は2002年の『アバウト・シュミット』に続いて2度目のコンペ参戦となった。
 『ネブラスカ』は、単なる雑誌の懸賞広告を“100万ドルの当たりクジ”だと思い込み、換金すべくモンタナからネブラスカへ車で旅立とうとするアル中の老父と、彼に付き添うことにした息子の道中をノスタルジックなモノクロ映像で描いたロード・ムービーの秀作だ。頑固な老父役はブルース・ダーン、父親とは疎遠だったが、渋々ながら旅に同行する息子役は<サタデー・ナイト・ライヴ>出身のコメディアン、ウィル・フォーテ。アレクサンダー・ペイン監督は名脚本家でもあるが、ボブ・ネルソンが脚本を執筆した本作では監督業に専念している。

 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた本作の公式記者会見にはアレクサンダー・ペイン監督、プロデューサー2人、出演俳優のブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、アンジェラ・マクイワンが登壇。
 自身もネブラスカ州オマハ出身であるアレクサンダー・ペイン監督は、「脚本を受け取ったのは9年前。脚本家自身の体験を描いたものなんですが、ユーモラスなのに、もの悲くて、まるで人生のようなストーリーでした。不況の時代の物語なので、モノクロにしたんですよ」と脚本を絶賛。また、クセ者俳優として知られるブルース・ダーンは、アレクサンダー・ペイン監督の演出について「俳優を指揮するのと命令するのとでは意味が大きく違う。アレクサンダー・ペイン監督は様々なテイクを見て、演技を少しずつ展開させてくれと言ってきた。ヒッチコックのような独善的な演出とは異なり、ペイン監督は常に現場にいて、支えてくれたんだ。ペイン監督は往年のエリア・カザン監督と同様、リスクを取る覚悟のある監督なんだよ」とコメント。ベテラン女優のジューン・スキッブは、彼女が演じた母親役について「この人物の素晴らしい点は、何も選別しないことです。何でも思ったことを口にする。この女性は、こうゆう風にして生きてきたのですから」と人物像を分析してみせた。


◆長編5作目の『ブルー・イズ・ザ・ウォーメスト・カラー』で初参戦したアブデラティフ・ケシシュ監督!

 長編3作目の『ラ・グレーヌ・エ・ル・ミュレ』でヴェネチア国際映画祭審査員特別賞、セザール賞監督賞を受賞したチュニジア系フランス人のアブデラティフ・ケシッシュ監督。カンヌ初参加にしてコンペに選出された長編5作目の本作『ブルー・イズ・ザ・ウォーメスト・カラー』は、女子高生アデル(アデル・エグザルコプロス)が、髪を青く染めた美大生エマ(レア・セドゥ)と激しい恋を経て、女性として成長していく姿を繊細かつ丁寧に綴った約3時間の大作。高校時代から、数年間に亘るアデルの人生に密着して描いた濃密な愛のドラマで、原作はフランスの同名コミック。昨夜のプレス向け試写では、赤裸々かつ長時間にわたる性愛描写に対する反響が大きく、まさに体を張った主演女優2人の演技を高く評価する記者が多かった。

 12時半から行われた本作の公式記者会見にはアブデラティフ・ケシッシュ監督、プロデューサー2人、主演俳優のアデル・エグザルコプロスとレア・セドゥが登壇した。
 原作を読み、非常に感銘を受けたというアブデラティフ・ケシッシュ監督は、脚色も共同で手掛けているが、撮影でクローズアップを多用したことについて「クローズアップすることで普段は見られない繊細な表情を捉えることが可能なんですよ」とコメント。ピチピチした肢体を大胆にさらし、キワドいレズシーンに挑んだ女優2人は、アブデラティフ・ケシッシュ監督と築けた信頼関係と演技について、そして彼の演出の独自性を口々に語った。また、アブデラティフ・ケシッシュ監督は、実現可能かどうかは別としてと断りながらも、物語の続きとなる新たなる章(本作のフランス語タイトルは『アデルの人生 第1章&第2章』)を構想し始めていることを打ち明けた。
(記事構成:Y. KIKKA)