●MC:
「僕と一緒に世界を救ってみませんか?」という台詞がありますが、あの言葉に対する想いを聞かせていただけますでしょうか。

●福井晴敏さん:
先ほど、リーマンショックがきっかけでという話をしましたが、「今の金融経済って何だろう」となった時、よくする例え話で、椅子取りゲームの話があります。椅子が5つがあって、そのまわりを6人が回っている。この状況だったら普通の椅子取りゲームで、何の問題もないんですが、今のマネー経済というのは、5つしかない椅子を100人が回っている状況なんです。回っている間は、大勢がぐるぐる回っているし、数字的にも上がっていくんだけれど、例えばリーマンショックのようなものが起こって、これを清算しましょう
となると、みんな一斉に群がって座ろうとする。
でも椅子は5つしかないから、95人は座れないんですよね。
でもどうにかそこに座れた5人もボロボロになってしまい、結果的に誰も幸せじゃないという構造になってしまっているんです。
そうしたら、この状態をどうしたらいいのか?

本来であれば、この映画で描いたように、5つしかない椅子というのは、動かしようがないんですよね。だったら、この5つの椅子を解体して、100人が座れる小さい椅子を作ればいいんじゃないかということなんですが、リーマンショック以降、世界がとっている施策というのは何かというと、回る際の音楽のボリュームをどんどん上げて、音楽を絶やさないようにすれば、どんどん参入者が増えて、結果リーマンショックの時よりも回る人が多くなってしまって、150人くらいがぐるぐる回ってしまっているんです。
でも、これはまた破綻するというのは目に見えているから、もしまたあのようなことが起これば、リーマンショック以上のショックが我々に襲いかかってくると思います。そこで、もう、いい加減このサイクルから脱せられないかと思ったのが、今回この映画を作るにあたり思ったことですね。

●古市憲寿さん:
こんな言葉があります。「資本主義は最悪の経済システムである。
ただし、その他の経済システムを除いては。」
つまり近代資本主義というものが生まれて、だいたい200年くらいになりますが、やっぱり、どこかおかしいなというのはみんな思ってたんですよね。
一部の人に富があり、もう片方でも貧しい人もいる。そこでどうしても階級というものが生まれてしまう中で、この200年の中で、違う社会を作ろうと
いうのは、ずっと様々な試みをされてきました。実際に、ソ連のように共産主義という違う社会制度も試みがなされてきましたが、全部失敗してしまった。
それで結局、資本主義という仕組みしかないよねとなってしまうんですが、リーマンショックのようなクラッシュを起こしてしまうというこの状況に、世界中がリーマンショック以降、悩んでいると思うんですね。

そんな中で面白いと思ったのは、解決策がラディカルな革命ではなく、この映画は“M資金”という10兆円という華々しい金額から、ちょっと落差があるような現実的な解決策を展開していくというのが、「有り得そうだな」と思ったことが印象的でした。

M資金が10兆円だとして、リニアモーターカーが8兆円くらいなんですよね。
そういった金額的なものもそうですが、この映画で描かれているのは、決して非現実的ではないんだなというのが面白かったですね。

<学生の感想コーナー>
●女子大学生;
東南アジアに1年間留学していたのですが、カペラのシーンでは、差はあれど、思い出しました。真舟が言っていた、「お金好きだけど、お金を使っていると背中に誰か張りついたように感じる」セリフは、まさに自分が日本で生きている中で感じたもので、それが嫌で留学先を選んだ経緯があるので、とても共感できました。

●女子大学生;
経済のお金周りのお話と聞いていたため、難しい内容なのだと思っていましたがコメディな部分もあり最後にはお金よりも大切なものがあると再確認させられる映画でした。映画のセリフの中で印象に残っている言葉があります。
それは『今見えてる世界は所詮作られた世界』という言葉です。
この映画を観てなぜか、日本を動かす政治家やトップの人間たちによって操られている自分に腹が立つような感情も少し湧いていました。
少し前にバレンタインデーもチョコレート会社の策略だと思ったのも思い出し、考えさせられる映画でした。

●男子大学生;
お金は或る意味虚構ではあるが、その虚構が現代において大きな変化をもたらす可能性を秘めていると思う。そして、そのことが不思議だと思いました。

●女子大学生;
全体的に難しい内容・展開でした。終始頭で考えながら、ストーリーについていく感じで、あっという間でした。戦時から現在までの歴史的・経済的移りかわりを読み取りながら、”世界の中の日本”という視点で将来のことを考えさせられました。

<学生からの質問コーナー>

●女子大学生:
福井先生に質問です。いつもの作品と比べて、今回は銃撃戦や爆破シーンなどが少なく、どちらかというと、人と人との心理戦などが多く描かれていたのが印象的だったのですが、脚本を書いていく中で、心境の変化などがあったんでしょうか?

●福井晴敏さん:
僕の作品は確かに、最後に爆発シーンとかがあるのが多いですが、特に今回、心境の変化とかがあったというわけではありませんね。
ただ、今回の作品でいうと、仲代達矢さんの「だまれ!」というシーンなどは、爆発に匹敵すると思います(笑)。おとなしめの映画かと思ったら、大間違いかと思いますよ(笑)。

●阪本順治監督:
あとは、仲代達矢さんがテーブルを叩くところも1つの爆発だと思います(笑)。

●男子大学生:
阪本監督と福井先生に質問です。お2人とも人間や社会の暗部というのを見つめられてきたと思うのですが、世界を変えるというのは、善悪の観念を書き換えていくというものだと僕は感じているのですが、作品を作ることによって、善悪の観念を書き換えていくということをどういう風に考えていられるのかというのをお伺いしたいです。

●福井晴敏さん:
善悪の観念を変えるというよりは、何が成功かという発想を変えてみてみるというところなんですよね。一体どこまで行ったらゴールなのか?
経済に関して言うと、ゴール地点がないんです。去年よりも下回ってしまったら、クビにされてしまうわけですが、その形だと限界があるんですよね。
企業が「去年よりも何をした」という成功のポイントをずらせば、幸せになるんじゃないかと思いますね。今回は善悪というよりは、そこですね。

●阪本順治監督:
そもそも何を疑って作るか、つまりつねに善と悪を追及しながら作ってきていると言えるかもしれません。
倫理とかもそうなんですが、良いか悪いかというのは、ルールを作っている人が自分に都合よく作っていることが多いので、そこに盲従するのではなく、疑うことをして、それを検証してみるというのは、僕ら作り手もしなくてはいけないことだと思っています。
政治とかに関してもこれは同じことを言えると思います。

●古市憲寿さん:
この作品もそうですが、映画や小説のノンフィクションで示すべきものは、「今ここにある世界が全てではない」ということだと思うんですね。
そのルールが当たり前だと思っているかもしれないけど、それは変えることが出来るし、変わったのもそんな昔のことではないかもしれない。そういったことに気づかせてくれる作品は、僕は良い作品だと思います。

先ほど楽屋で、この映画がアラサー女子に刺さっているというのを聞いて、とても面白いと思いました。一番遠いところにあるような方々に刺さっているというのが面白いですよね。

●福井晴敏さん:
そう感じてくれたアラサー女子の方々は、是非他のアラサー女子にも広めてほしいですよね(笑)。