本作は、旧日本軍の隠し遺産「M資金」を題材に、『亡国のイージス』の福井晴敏と阪本順治監督が再び共働した作品で、現在の社会を支配している金融資本主義に一石を投じるエコノミック・サスペンスです。

トークショーでは阪本順治監督と原作の福井晴敏、そして若くして今注目を集めている社会学者の古市憲寿氏が『僕たちは世界を変えることができる』というテーマの元、現役大学生約30名と共に歯に衣着せぬ激論、そして未来を担う人たちへのエールとなるような熱いトークを繰り広げました。

<イベント概要>
【日時】9月21日(土)15:25〜
【場所】国際フォーラム ホールC(東京都千代田区丸の内3-5-1)
【登壇者】
阪本順治監督、福井晴敏、古市憲寿、現役大学生30名

●MC:
今日は、特別に趣向を凝らし、「僕たちは世界を変えることができる」をテーマに、30人の大学生とスペシャルゲストをお迎えして、トークセッションを繰り広げていきたいと思います。
本日は、様々な大学、学部、学年からお集まりいただきました。
慶応義塾大学、早稲田大学、上智大学、明治大学、法政大学、立教大学、日本大学、東京女子大学、日本女子大学などの大学。
そして学部も、経済学部、政治経済学部、法学部、国際総合科学部、情報コミュニケーション学部、文学部、心理学部などの学生さんにお集まり頂いております。

そして、スペシャルゲストは、「人類資金」から、原作の福井晴敏さん、阪本順治監督、さらには、この映画に共感してくださった古市憲寿さんをお迎え致します。それでは、早速お呼び致しましょう!
どうぞ大きな拍手でお迎えください!

早速皆様に一言ずつご挨拶を頂戴したいと思います。
まずは原作を手掛けられました福井晴敏さん、よろしくお願いします。

●福井晴敏さん:
本日はお集まりいただきまして、ありがとうございました。
映画を公開する時は、様々なイベントを行うのですが、今日は作った人間からすると一番恐ろしいイベントですね。学生たちに我々が火だるまにされるという(笑)。めったに見れないと思いますので、皆さんどうぞ楽しんでいって下さい。

●MC:
ありがとうございます。
続いて、阪本順治監督、よろしくお願いします。

●阪本順治監督:
なかなか通常のイベントなどと違って、こうして映画をじっくり語れる機会は少ないので、今日は最後まで楽しめればと思います。
皆さんよろしくお願いいたします。

●MC:
ありがとうございます。それでは、古市憲寿さん、ご挨拶をお願いします。

●古市憲寿さん:
関係ないのに此処にお邪魔してしまいました(笑)。
昨日あるテレビ局の人に会った時に、「何で行くんだ?」と怒られてしまいましたが、先日映画を拝見させていただき、大変面白いと思い、来てしまいました。今日は大学生の方がたくさんいらっしゃいますが、僕も若いうちに観てみたかったなと感じる映画だと思ったので、今日は皆さんとお話できるのを楽しみにしています。

●MC:
ありがとうございました。
さて、そもそも「人類資金」誕生のきっかけは、33年前に、阪本監督が、高野孟さんの著書「M資金 知られざる地下金融の世界」という本に出合って、いつかM資金を題材にした映画をつくりたいと心に決め、そして「亡国のイージス」でタッグを組んだ福井さんに、話を持ちかけた。と、お聞きしました。

まず福井さんに伺います。
M資金を入口にしながらも、今の資本主義経済や、グローバリズム、国際援助といった大きなテーマへと広がっていくプロットを発想された時のお気持ちをお聞かせください。

●福井晴敏さん:
ここで皆さんにお伺いしたいんですが、皆さんは“M資金”という言葉は聞いたことがありますか?

(客席から手が上がる)

今ざっとみて、5分の1くらいですよね。
やっぱり、“M資金”というのを知らない方が大部分だと思うので、M資金の謎を解くというものだけでは、なかなか観てくれないなと思い、今のトピックと繋げないうと…というところで止まっていて、実はしばらく寝かせておいたんです。

そんな時、リーマンショックが起こり、マネー経済というものが我々の生活にとって、いかに危険で怪しいものかということを身に染みて感じたんです。それで、M資金というのは、お金ですし、上手く繋げられないかなと思ったのがきっかけです。

●MC:
阪本監督は、このプロットを受け取った時、どのように感じられましたか?

●阪本順治監督:
あらすじやプロットを持ってきてもらったのを読んだんですが、ロシアや東南アジア、ニューヨーク、国連というのが出てきて「映画化前提って言ったよね?(いったいいくらの予算規模?)」と思いながらも、それを上回る感動を覚えました。

ただの戦中戦後の時代劇に終わらせたくなかったですし、エンタテイメントにしたいとお願いしていたんですが、「亡国のイージス」でも国防の話を海洋アクションにしていただいたように、都市伝説の話ではなく、期待を上回る意表をつくようなものにしてくれました。それに、現代劇として、政治や経済を扱う以上、グローバリズムというものの中で語らなくてはいけないというのは思っており、その中で映画のスケール感やテーマ性を持たせたかったので、ロシアやニューヨークといった海外での撮影というのも納得しました。

●MC:
今回、映画と小説とが同時進行で進んでいったと思うんですが、なかなかないスタイルですよね?

●福井晴敏さん:
原作が今、順次発行となっていて、映画の公開のタイミングで全巻揃わないんですよね。こういうのは、かつてないと思ういます。
正直、ただ単に書くのが間に合わなかったというのもあるんですが…(笑)。
でも、今の時代、本を売るというのは大変難しく、映画化・テレビ化のタイミングで、バーッと売れるんですが、そのタイミングを過ぎると、コンテンツの寿命を使い果たしちゃったみたいに動かなくなってしまうんです。そんな中で、映画の公開などが終わっても、本として生き続けられるためには、どうしたらいいのか?それを考えたことも1つではありますね。

●古市憲寿さん:
いい感じでまとめられましたね。
映画で出てくる登場人物も、実はすごいバックグラウンドがあるのが、
分かるんですよね。なので、映画を観た方は是非本も読んでほしいと、
講談社の人が言ってました。(笑)

●福井晴敏さん:
今日はたまたま書籍も販売しているらしいんですよね。
なので、お帰りの際には是非お買い求め頂ければと思います。
あと、映画をご覧になて良かったと思った人は、前売り券の発売もありますので、是非あわせてお買い求め下さい。(笑)

●MC:
福井さんと阪本監督のお話を伺っていて、古市さんも、この人類資金は、いまの時代だからこそ生まれた作品だと思われますか?

●古市憲寿さん:
最初、パンフレットを拝見した時はすごい不安だったんですよね。
ほとんど渋い男の人しかでていない。(笑)
でも実際に映画を観てみたら、イメージがまるで変わりました。
社会を変えるというはどういうことか、というのをすごく真面目に誠実に考えた作品だと思いました。最初M資金の謎解きのようなものかと思ったんです。最近は、「社会を変えるにはどうするか?」というようなものが流行っていて、抽象的でなかなか中身がないものが多いですが、この映画は、その抽象的なものを現実的に、真面目に、でもエンターテインメントに作っていて、凄いチャレンジングな映画で引き込まれてしまいました。

●MC:
脚本の準備をされている時に、3.11が起こったというのをお伺いしました。
監督の中で、震災によって影響受けられたことなどがあったら教えて下さい。

●阪本順治監督:
少し違う話かもしれないですが、先日女川出身の女子大生と話をしていた時、「3.11という記号化された言葉はされたくない」と言われて、それ以来、僕は“3月11日”と言うようにしています。

先ほどおっしゃったように、ちょうど台本がまとまりかけたというところで、3月11日が来ました。その後、福井さんともすぐに会って話して、「書き変えなきゃいけない」と思いました。
2014年と設定している以上、登場人物全員がそれを経験しているわけです。
そこで何が変わったのかとか、何を軌道修正したのかとか、そういうことを1つづつ検証しなくちゃいけなくなりました。また、映画そのものを作るのかということも考えました。
でも、最終的に足踏みはして、多少福島のことも触れましたが、ブレることはなく、今世界で起きていること、格差なども含めて、3月11日を経て、その想いが更に強くなりました。