日中は青空が広がっていたが、夜半には大雨となった映画祭8日目の22日(水)。“コンペティション”部門では、気鋭監督ニコラス・ウィンディング・レフンの『オンリー・ゴッド・フォーギブズ』、チャドのマハマット=サレー・ハルーン監督の『グリグリ』が正式上映。“特別上映”部門では、ロバート・レッドフォード主演の海難サバイバル映画『オール・イズ・ロスト』など3作品を上映。“ある視点”部門にも3作品が登場した。


◆ニコラス・ウィンディング・レフン監督はバンコクの暗黒街を舞台にした怪作バイオレンス・ムービーでコンペに参戦!

 コペンハーゲン生まれで、デンマークと米国を行き来して育った異才ニコラス・ウィンディング・レフン監督がハリウッド進出作『ドライヴ』でカンヌのコンペに初参戦し、監督賞を受賞したのが2011年。彼が脚本も兼ねて監督した本作『オンリー・ゴッド・フォーギブズ』(フランス・デンマーク合作)は、『ドライヴ』に主演したライアン・ゴズリングと再び組み、全編タイでロケ撮影を敢行した異色のフィルム・ノワールだ。
 バンコックで、表向きはムエタイのトレーナー、裏では麻薬の売買で稼いでいる裏稼業の男ジュリアンが、母親から兄弟を殺した犯人に復讐するよう命じられたことから、危険な深みにハマっていき……。口数の少ない主人公に扮したライアン・ゴズリングが、ムエタイでの決闘シーンにも挑んだバイオレンス・ムービーで、ビッチぶりを全開にする主人公の猛母役でクリスティン・スコット・トーマスが、背中に隠した長刀でバッサバッサと人を切った後、必ずカラオケで熱唱する元警部役でヴィタヤ・パンスリンガムが共演。
 アジアンテイストと暴力に満ちたスタイリッシュかつミニマムな映像、呆気にとられるほど異様なストーリー展開と音楽、そして登場人物の極端なキャラが炸裂する本作は、朝の8時半からの上映時にはブーイングも飛んだ怪作であった。

 11時から行われた『オンリー・ゴッド・フォーギブズ』の公式記者会見にはニコラス・ウィンディング・レフン監督、プロデューサー、編集を担当したマシュー・ニューマン、音楽を担当したクリフ・マルティネス、俳優のクリスティン・スコット・トーマスとヴィタヤ・パンスリンガムが登壇。残念ながら主演のライアン・ゴズリングはカンヌ入りをせず、自身の監督作の撮影真っ只中で、スケジュールの都合がどうしてもつかず、現地入りを断念した旨のメッセージが会見前に読み上げられた。
 ニコラス・ウィンディング・レフン監督は、大部分を夜間に撮影したという本作を神との闘いに挑んだ男の話だとして、「実存主義者にハマった頃に、怒りっぽくなり、神について考えるようになった。そこで、自分を神だと思う男と、彼に恨みを抱く怒り狂った母と、その息子の関係を描く話を思いついた。これは精神性と神秘性についての映画なんだ。タイでしか作れなかったと思う。タイでは、みんな幽霊を信じているんだよ」と述べ、登場人物ついては、「この映画には真実が含まれている。マーシー・グレイが演じたアニタ役は、僕自身の体験から着想を得た人物なんだ。僕の家族は白人の家の使用人として働いていた。登場人物は全員、僕の人生に実在した人々だと言えるんだ」とコメント。リタイアした警官役を演じたタイの有名俳優ヴィタヤ・パンスリンガムは「実際、タイの警官はムエタイ・ボクサー出身が多いんだよ」と言い添えた。
 また、本作の音楽についてクリフ・マルティネスニは、「音楽が対話に取って代れるとは思いもしなかったが、音楽で物語を奏でようとはした。ポップミュージックとワーグナーが重要な影響力を発揮した。監督からは『ドライヴ』とは全く違う音楽をと注文されので、典型的なSFやホラー映画っぽい音楽にしようと思ったんだ」と語った。


◆マーケットに出品されているボリウッド映画『ショートカット・ロメオ』のプレス・デイに参加!

 カンヌのマルシェ(映画見本市)では各国の映画会社が新作映画のプロモーションに力を入れており、様々なイベントを行っている。バイヤーに対しては勿論だが、我々ジャーナリスト向けの売り込みが多く、期間中は様々なお誘いを受ける。だが、興味はあっても時間の融通が利かず、参加できないものが殆どなのだが、本日は目先を変えるために12時半からの『グリグリ』(2010年に審査員賞を獲得したマハマット=サレー・ハルーン監督のコンペ作)の公式記者会見を蹴って、13時から始まるインド映画『ショートカット・ロメオ』のプレス・デイに参加。場所はカンヌのランドマーク、カールトン・ホテルの陽光ふり注ぐテラス・レストラン。今回のプレス・デイの主旨は、本作の監督スーシー・ガネシュと主演した新進女優2人、アメーシャ・パテルとピュジャ・グプタが、招待したジャーナリストとテーブルを囲み、昼食をとりながら歓談するというもので、参加したジャーナリストはアルゼンチン人2名、インド人2名、日本人2名。食事はメニューの中から好きなものをセレクトできたので、筆者はスズキのソテー、温野菜添えと白ワインをチョイス。もう一人の日本人記者は話のタネ(笑)にとホテル特製ハンバーガー(日本円にすると5000円近い高額ファストフード!)を堪能!


◆『オール・イズ・ロスト』は御年76歳の大スター、ロバート・レッドフォードが身体にムチ打って大奮闘!

 14時半からは“特別上映”部門に出品されたロバート・レッドフォード主演の海難サバイバル映画『オール・イズ・ロスト』の公式記者会見に参加。全長12メートルのヨットによるインド洋一人旅の最中、遭難してしまった男の必死のサバイバルを描いた海難映画で、登場人物は1人。ほとんどセリフはなく、激しい嵐に見舞われる極限の状況下で孤軍奮闘する男の姿を活写した本作は、アメリカの気鋭監督J・C・チャンダーの長編2作目。
 公式記者会見には監督と2人のプロデューサー、そしてロバート・レッドフォードが登壇した。
 肉体的にもキツく、チャレンジングな役柄についてロバート・レッドフォードは、「独りでいること、助けも会話も言葉もないのは、大いなる挑戦だったし、俳優としても深い魅力を感じた。だが、私は監督に多大な信頼を置いていたのでリラックスできたし、監督に完全に身を委ねられたよ」とコメント。レッドフォードとはサンダンス映画祭で出会って役のオファーをし、快諾を得られたというJ・C・チャンダー監督は、本作の音楽の役割について「我々は8ヶ月間、素晴らしい音楽家と共に働きました。音楽はとても重要であり、音楽なしでは本作は成り立ちません。クレッシェンドで訪れ、観客の信頼を伴い、ストーリーを増大させる。音楽は主人公の人生を反映しており、観客は音楽のおかげで彼と結ばれるのです」と語った。
(記事構成:Y. KIKKA)