朝から晴れ渡り、徐々に気温も上昇。やっとカンヌらしい陽気になった20日。“コンペティション”部門2作品、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ監督の『ア・キャッスル・イン・イタリー』と三池崇史監督の『藁の楯』の正式上映の場に立ち会った。
 

◆ヴァレリア・ブルーニ・テデスキの『ア・キャッスル・イン・イタリー』は今年、コンペ唯一の女性監督作!

 イタリア系フランス人の中堅女優で、サルコジ元大統領夫人カーラ・ブルーニの実姉でもあるヴァレリア・ブルーニ・テデスキ。監督&脚本&主演した2007年の前作『アクトレス』が、“ある視点”部門で上映され、審査委員特別賞を獲得した彼女の監督3作目にして、初のコンペ参戦作となった『ア・キャッスル・イン・イタリー』の正式上映が16時よりリュミエール劇場で行われた。
 本作はイタリアのブルジョワ階級の実業家一家の崩壊と上流階級の没落を、ヒロインが出会った若い男性との恋愛を絡めて描いたドラマで、フィクションながらも監督&共同脚本&主演したヴァレリア・ブルーニ・テデスキの自伝的要素の濃い作品だ。新興産業で財をなした裕福な一家。だが、兄が病気になり、また母親のこともあって、イタリアの家を売らなければならなくなる。それは1つの時代の終わりであり、一家がバラバラになることを意味していたが……。
 実際にエイズで亡くなった兄のエピソードを取り上げたのを始め、かつての恋人ルイ・ガレルに本作の恋の相手役を演じさせ、実の母マリサ・ブルーニを母役に起用したことなども重なり、露悪的でキワドく、暗い作品になっているのでは……と危惧したのだが、それは全くの杞憂だった。陰気になりがちなストーリー展開を独得のおどけたユーモアで包み込み、繊細で心に染みる物語に仕上げたヴァレリア・ブルーニ・テデスキの演出力は手堅く、その飾らないあっけらかんとした佇まいにも好感が持てた。
 観客の反応も良く、監督&キャストは上映後の熱いスタンディング・オベーションに満面の笑顔で応えていたが、本作の正式上映は、プレス向け試写も兼ねて行われたマチネ上映のわずか1回のみ。もちろんドレスコード無しの上映なので観客の服装は全く問われなかったのだが、監督&キャストは着飾ってレッドカーペットを歩き、会場入りしたため、ちょっとチグハグ感があったのは否めない。


◆22時半から行われた『藁の楯』の正式上映には現地入りした3人がレッドカーペットに登場!

 朝の8時半からのマチネ上映に続き、2度目の正式上映となる『藁の楯』のソワレ上映が、22時半からリュミエール劇場で行われ、正装に身を包んだ三池崇史監督、大沢たかお、松嶋菜々子の3人がレッドカーペットに登場した。
 昨年の『愛と誠』上映時には現地入りを果たせなかった三池崇史監督だが、カンヌ入りは今回で3度目(2003年、『極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU』の“監督週間”上映時と2011年のコンペ作『一命』上映時)。大沢たかおと松嶋菜々子は、ともに初の映画祭参加だが、奇しくも2人で共演したTV番組の収録で一緒にカンヌに訪れたことがあるという。

 上映後、観客からスタンディング・オベーションを受けた大沢たかおと松嶋菜々子は感無量の面持ちで、深々と頭を下げたが、拍手が5分ほど続いたところで、三池崇史監督は照れたように切り上げる仕草を見せ、笑顔で会場を後にした。
 その後、場所を変え、日本人記者の取材に応じた三池監督は、拍手の途中で立ち去った件を「いつまでも居残ると迷惑だろうなと思って。自然の流れです」と笑いながら語り、また、今回のカンヌの印象については、「映画祭として洗練されていく部分と、まったく変わらない部分があり、その混ざり具合が心地良く、エンターテインメントに通じていると思った。まるで映画の中に自分がいるような気にさせ、緊張しつつも癒される、心地良い映画祭ですね」と余裕しゃくしゃくのコメント。 
 公式記者会見では終始固い表情だった大沢大沢たかおは、「24時間経つのが早かった。自分がまだふわふわしていて、判らないままここに来たという状態です(笑)。今日の上映に参加させてもらったことは、大きな体験。作品を受け入れてもらえたという実感がありました」と表情を弛め、上気した面持ちで語った。ウェストにピンクのリボンをあしらった水色のロングドレス姿で登場し、注目を集めた松嶋菜々子も「カンヌは映画に対する皆さんの姿勢が真剣。あの大きさのスクリーンで観ることができ、また最後に拍手を頂き、とても感動しました」と喜びを噛み締めていた。その後に行われた打ち上げパーティでは、シャンパン片手にリラックスムードの三池崇史監督と大沢たかおの両氏と歓談する機会を得て、オフレコ話も伺えた。おかげで(?)宿に戻り着いたのは朝の4時近くになってしまい、疲労困憊!
(記事構成:Y. KIKKA)