<質疑応答>
●記者:
佐藤さんに質問です。
M資金詐欺師である主人公の真舟を演じられて、気を使ったポイントなどありましたらお聞かせ下さい。

●佐藤浩市さん:
M資金というもの自体が、都市伝説化していて、僕らの世代でも詐欺の被害にあった人などは数人という中で、映画の中で明快な答えを出来るかどうかは、分かりませんでしたが、こういったM資金というものを題材にしながら、エンターテインメントにしようとしてる。その姿勢に対して、自分としては下手に構えるのではなく、そのボールに素直に乗っかろうという気持ちですね。

●記者:
出演者の3名にお伺いします。
この作品は、登場人物も非常に多彩ですし、非常に入り組んだ設定で、それぞれの人物を細かく説明するのではなく、立ち止まらず進んでいくような作品になっていると思います。だからこそ、阪本監督が信頼されている俳優の方々が集結していて、画面に映っているだけでも説得力があるように感じるのですが、説明されていない中でのお芝居のやり取りや、その人物像の見せ方など、手応えや、お心づもりなどありましたらお伺いできますでしょうか。

●佐藤浩市さん:
最初はそういう背景的な部分も描こうとしていたのですが、この映画の場合は、決してそれは得策ではないだろうということになりました。
僕が演じる真舟自身、M資金詐欺をやりながら、M資金についてどういう思いを持っているのか。刑事からは、「信じてるだろう」と言われても、信じているのか曖昧なところもあり、乖離的だったからこそ、どんどん歯車に巻き込まれていくんです。
そういった部分は、阪本監督や僕の中でも認識しているのですが、映画の中では、あえてそういう所には触れていないので、お客さん自身で感じてもらえたら嬉しいです。

●森山未來さん:
僕は謎の人物ということなので、あまり言えないですが…(笑)。
M資金というものを映画の中のキャラクターとして信じるというのは基本として、石(セキ)という人物の過去の歴史をはじめ、多くは語らずとも、Mとの関係性というものは意識して演じました。

●仲代達矢さん:
今まで演じてきた役で、企業のトップというのは初めての出会いでした。
映画の中での役柄は父親の後を引き継いで、“M資金”を“人類資金”に変えようという思いが、笹倉にはあったのではないだろうかと思います。
そうして父、私、息子と3代にわたって、このM資金というものに纏わりつかれたという非常に難しい役柄でした。
阪本監督や原作の福井さんの意図に添えたかどうかが心配です。

●MC:
阪本監督、仲代さんがこうおっしゃっていますが、いかがでしょうか?

●阪本順治監督:
とんでもないですよ(笑)。
仲代さんとは『座頭市THE LAST』で最初にご一緒させていただき、またもう一度やらせていただきたいと思いました。今では、「華麗なる一族」などのような、日本のダークサイドを描いたような映画がなくなってきた中で、今回、仲代さんには必ず入っていただきたいという思いがありました。

また、苦労話というわけではないのですが、仲代さんの社長室でのシーンは、夜中の2時までやらせていただいて、仲代さんの気力や体力を肌で感じました。

●仲代達矢さん
少し付け足させていただきますと、私もかつて、佐藤さんのお父様の三國連太郎さんと一緒にやらせていただいたことも多かったのですが、昔の映画の世界というのは、『金環蝕』のような政治を徹底的に叩いた社会派映画というのは多かったんです。それに娯楽映画と社会派と別れてもいました。
そんな中、この『人類資金』という作品は、エンターテインメントな部分も含めて社会派という意味を持っている映画だと思います。

●記者:
福井さんと阪本監督にお伺いします。
今回はお2人で脚本を作られたということですが、シナリオ作りで苦労した点を教えて下さい。

●福井晴敏さん:
一番苦労したのは、短くすることですね(笑)。
原作はこれから7〜8巻くらいになると思うのですが、それを2時間の映画にするということが、いかに無謀な行為かということですが…(笑)。
最初に私が書いたものを、そのまま映画にしたら、おそらく10時間くらいになるものからスタートし、阪本監督と一緒に切っていきました。
切るということが、何よりの苦労でしたね。

●阪本順治監督:
僕は、福井さんが切ったものを更に切らなくてはいけなかったんです(笑)。
最初に上がってきたものを、「これくらいなら2時間に収まるんじゃないか」とおっしゃるので、夜中に脚本の台詞を自分で全部言って時間を計ってみて、ようやく納得してもらいました。

言わなきゃいけない台詞と言わせてはいけない台詞というのがあるので、この選択をどうするのか、映像を言語の替わりにするのかなど、長い時間かかりました。でも、原作者である福井さんご自身が、映画と小説は違っていてもいいという意識でいらっしゃったので、僕としては気が楽でした。

●記者:
最初はマネーゲームを描いたような映画なのかと思ったら、拝見しましたら、社会的なメッセージが詰まっていて、とても魅力的だと思いました。
でも、あまり社会的な部分を全面に出してないのではないかと感じたのですが、意図してそうしてるのでしょうか?また、この映画を観てくれた方に、どう感じてほしいかもお伺いできますでしょうか。

●福井晴敏さん:
社会的なメッセージは出してるつもりなんですが(笑)。
ただ、先ほどもお話したように、この企画は非常に成立が難しかったんです。
今の観客の皆さんが好まないんのではないだろうか、という思いが、作り手側にも少しあったので、いかに敷居を下げて、入ってきてもらうかというのも考えていました。先ほど、仲代さんもおっしゃっていましたが、娯楽映画と社会派映画というものは、2つあっていいんですよね。
今の時代も、社会派映画というものがもっとあってもいいんじゃないかと思います。

●阪本順治監督:
社会的なメッセージは込めたつもりでした(笑)。
ただ、どう感じるかは、環境や年齢など観てくれたお客様自身かと思いますので、この映画を観て、何かしらを持って帰っていただけたらと思います。

僕の監督作品の『KT』、『闇の子供たち』などでは、最後に人が死ぬのですが、今回はそうではないので、希望の灯みたいなものを持って帰っていただけたら嬉しいですね。

●森山未來さん:
台詞の中にもあるんですけど、今の世間が行き詰ってるとか、限界を感じてしまう何かがあるとしたら、この映画を観ることで、そこから先の景色が見えるような作品になっていればと思います。

●仲代達矢さん:
さっき娯楽映画と社会派映画というものを分けましたが、世の中には色々な作品があっていいと思いますし、どんな社会派映画もあっていいと思います。
もう亡くなってしまいましたが、山本薩夫さんという監督がいて、社会派の素晴らしい作品を作っていながら、観るお客さんを楽しませることが出来る監督でした。また、演じる役者自身も個性があって、お客さんにも気に入られる方がいて、三國連太郎さんはそのトップでした。

●佐藤浩市さん:
観客の方それぞれに、考えていただきたいですね。どういったニュアンスで捉えるかなどもそうですが、観た方々がどう感じてくれたかが大事だと思います。

●記者:
森山さんにお伺いします。
今回、国際連合本部で撮影されていますが、空気感はいかがでしたか?

●森山未來さん:
国連の壇上にたってみたとき、キャパとしては1000〜1500人くらいなので、少ないなと思いました(笑)。
でも実際に、ニューヨークに住んでいるエキストラの方々、そしてエキストラ協力してくれた国連の方々の前で、英語で大切なメッセージを伝えなくてはならいシーンだったので、ここにいる人達にどのくらい伝わるのかなというのが一番のプレッシャーでした。

●NC:
さて、これからフォトセッションのお時間となります。
目の前にある黒い布を佐藤さんと森山さんに、引いていただきたいと思います。では、どうぞ!
さあ、現れたのは、50億円です。映画の中でも、真舟は50億を手に入れました。
真舟の50億の使い道は、映画でご確認頂きたいのですが、これが実際の50億分の面積になります。勿論、残念ながら、ここにあるのはレプリカです。
では、50億を前にフォトセッションを行います。

●MC:
では、最後に監督からご挨拶をお願い致します。

●阪本順次監督:
企画当初から、異端となる映画を作ろうとしている自覚がありました。
映画は異端が一番似合うと思ってます。どうやって楽しんでもらうかというところも苦心してきました。こういう映画が皆さんにどういう風に受け止められるかは心配ですが、どんと構えていこうかと思っています。
佐藤浩市さん出演の『許されざる者』、森山未來さんの『夫婦善哉』、仲代達矢さん出演の『日本の悲劇』、そしてこの『人類資金』。
作品はたくさんありますが、全部上手くいけばいいと思っています(笑)。
本日はありがとうございました。