韓国・富川(プチョン)市にて7/18(木)-7/28(日)の日程で開催された『プチョン国際ファンタスティック映画祭2013』の様子を紹介したい。7/20(土)、Fantastic Short Films部門で上原三由樹監督の『口腔盗聴器』が上映された。
『口腔盗聴器』は、若手女性監督の上映集団“桃まつり”が2012年に開催した「桃まつりpresents すき」の上映作品9本の中でも最も異彩を放っていた作品だ。かつて恋心を抱いていた女性の娘に青春時代の想いを投影した男が、歯科医の立場を利用して驚くような手段で彼女の生活に侵入して行く。

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まず、作品について主演の女性陣のコメントを紹介したい。

歯科医の執着の対象になる中学生の少女を演じた主演の西尾瑠夏さんは、
「監督が変態、マニアックなんです(笑)。歯のアップって普通はあまり写さないですけど、それをあえてやってしまうところが凄いですね。みなさん変態チックな楽しい現場でした(笑)。自分で観て寒気がしたけど純愛でいい作品です」(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013にて)

かつては歯科医の初恋の相手だったが、現在は中学生の娘がいる女性を演じた横山真弓さんは
「エキセントリックな内容ですが、その中でも現代人の空虚さ、人と繋がっていたい欲求などには共感いただけるように、と演じました」
と語る。
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ディープな欲望をストレートかつ繊細に描いたこの作品、韓国ではどういった反応が起こるのか?
Fantastic Short Films12のチケットは当日券がSOLD OUTとなり、『口腔盗聴器』は小谷野萌監督のアニメーション作品『My Dear Flesh』他5本の作品と共に上映された。
上映後にゲストトークに上原監督と横山真弓さんが登場。

“少女はなぜラストで倒れてしまったのか?”

2人は共通の変態性を持っていると語る上原監督。
「少女の年上の男の人に迫っていく緊張感が最高潮までいって倒れこんでしまった。変わったところで共通していると彼女は思っているので緊張したんです」

少女の気持ちについて質問が上がった。
“母子家庭でお父さんがいないから愛を求めて年上の男性に惹かれて行ったのか、それとも純粋な気持ちで片想いをしていたのか?”

「役柄の設定上では父性に欠けている少女としています。冒頭を見ていただいたら分かるように、おじいちゃんも死んでしまったのでお母さんがお葬式の後の挨拶をしているんですね。お母さんは自分に関心はないと感じている孤独な女の子を書きたかったんです」

“歯医者さんが全部の女性の愛を集めているキャラクターで、そこまで好感がもてるようには見えなかった(笑)。キャスティングの裏話が知りたい”

最初は誰からも好かれるキャラクターにしようとしていた、と上原監督。キャスティングに入る前にたまたまワークショップで知り合った中台あきおさんを思い出した。
「顔を見てそんな演技が出来そうと思ったら、どんどん話が膨らんで色々口に入れたりするシーンを思いついたんです。この人しか私の思い描く変態の役は出来ないと思いました(笑)。
もてない、ずっと彼女が居ない人が最大のモテ期が来て、そういう状況に困惑してることにしたいと思いキャスティングしました」

最後に上原監督は、
「素晴らしいプチョン映画祭に来られてとても嬉しかったです。この映画は男性と女性で頂く感想が全く違います。今回も質問をしてくれたのは女性の方が多かったんですけど、女性の方が共感したり興味を持ってくださる題材のようなので、そういったところも次の映画にも生かしたいと思います。カムサハムニダ!」
と挨拶し観客から拍手が贈られた。

映画祭の後半にはサプライズ上映(Surprise Screening)作品が決定し、ラストの3日間でスクリーンに再登場した。長編作品4本に宮藤官九郎監督の『中学生円山』。Fantastic Short Films部門61本の中から Fantastic Short Film Collection「must see」の6本に『口腔盗聴器』が選出され、プチョンファンタの最終日7/28に再上映された。
今後の上原監督の活躍に注目したい。

(Report:デューイ松田)