韓国・富川(プチョン)市にて7/18(木)-7/28(日)の日程で開催された『プチョン国際ファンタスティック映画祭2013』の様子を紹介したい。

7/20(土)、Vision Express部門で吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』が上映された。
吉田大八監督は『パーマネント野ばら』で2010年アジア最高映画賞(Netpac Award)を受賞。新作での2年ぶりの登場となった。

チケットはインターネットの先行販売、当日券ともにSOLD OUT。吉田監督は上映後のゲストトークに参加したたくさんの観客に向かって、
「この映画に興味を持ってくださった韓国の観客のみなさんと一緒に映画を体験したいと思い駆けつけました。気に入ってくださったか心配ですが、ぜひ色々な感想を聞かせてください」

女性から“桐島は実際にいたのか、出てこなかったのか、友人と意見が別れました”

「同じ映画のはずなのに、そこですでに違うものを観てしまうのが作り手側としては面白いなと。
人間関係の中で自分に一番近い人間が説明無しにいなくなった時のインパクトは計り知れないし、その人間との距離によって反応は違ってきます。その影響が学校全体に及んで行くのが象徴的で面白いと思いました」

“制作に当たって気をつけた点について”。
高校時代を思い出すと、どうしてあんなことが気になったりしたんだろう、馬鹿馬鹿しいと思うことがあると振り返る吉田監督。

「例えば友人関係で悩んでいる高校生に “卒業したらすぐ忘れちゃうから”とか言いがちですけど、まさに今高校生を実際に生きている彼らにとってはその世界が全てな訳で、僕ら大人とは出来事ひとつひとつの重みが違うんです。
ちょっとしたことで張り合ったり傷つけたり、傷つけられたり。それらを大人の基準で“些細なこと”扱いしないように、彼らにとって世界で1番大切なことなんだって常に思い出しながら作るようにしていました」

“高校時代の吉田監督には桐島がいたか?”というユニークな質問も飛び出した。

「これは初めて聞かれました(笑)。わかんなくなっちゃったんで、時間かけてよく考えます。みなさんも考えてみてください」

神木隆之介さん演じる映画部の前田が“「将来アカデミー監督になるのか」と聞かれ、「それはない」と答えるのは何故?”という質問が上がった。
吉田監督は、スポーツの場合、競技の結果という明確な答えがあるためプロになれるなれないを自覚しやすいが、文科系のクラブで例えば映画とか音楽の場合、同様の基準が無いので続けやすいと指摘する。

「でも逆に、自主映画を撮り続けながら、自分にセンスはないし、技術もないし、多分プロになるのは無理だろうと自覚しつつ好きという理由だけで続ける人が居れば、その“好き”がより強く伝わるのではないかと思い、彼にそういうセリフを言わせました」
「韓国ではみんな勉強が忙しくて、下手だけど好きだから部活を続けるいったことはあまりないと聞いたことがあるんですけど、そうですか?」
肯定するように観客から笑いが起こった。

“金曜日の同じ時間が違う視点で繰り返されるのはなぜか?”

「みんな同じ時間を過ごしていても、自分がどのポジションから見ているか、立場によって風景が違います。事実に対して、見てる人からの真実や映り方が全く違うのを出来るだけ多様な方向から見せたかったんです。あと、学校にいると金曜日って長く感じますよね。金曜日がなかなか終わらないのは学校っぽいとも思いました」

“AとBが付き合ってるとか、この人はこの人が実は嫌いという設定は、役者に教えたのか。それともあえて教えないで演出したのか?”
吉田監督は、登場人物の関係性はシナリオの段階で明かしていたが、説明が少ないシナリオに出演者は台詞に対して本心がどこにあるのか迷いながら演じただろうと語る。

「どう写るかは完全に僕に任せてもらってやりました。出演者は、つながってみて初めてこういう映画だと分かった、って言ってましたね」
「屋上で頬を叩くシーンは、もう一人の子が叩く予定だったんです。でも実際本編であったようにあの子が叩いた方がいいと気付いて、撮影の直前に変えました。そういうこともたくさんあったので、彼らも何が起こるか分からない、いい緊張感の中で仕事ができたんじゃないかと思います」

最後に吉田監督は、日本では“見終わった後で話をするのが面白い映画”という評があったことを紹介。

「観た人同士で話をするとお互い全然違うものが見えていたりします。1人で来てらっしゃる方も隣の人とお話をして帰られると面白いですよ。お友達と来た方はお友達と。映画について出来るだけたくさん話してください。どうも今日はありがとうございました。カムサハムニダ!」
舞台挨拶後、吉田監督は廊下でサインを求める観客に囲まれた。

7/26(金)に行われたプチョン国際ファンタスティック映画祭のクロージングでは、コンペティション部門の最優秀作品賞(Best of Puchon)としてエドガー・ライト製作総指揮/ベン・ウィートリー監督(イギリス)『Sightseers』、最優秀監督賞(Best Director)Anurag KASHYAP 監督(インド)『Ugly』などが発表され、『桐島、部活やめるってよ』は アジア最高映画賞(Netpac Award)を受賞。吉田監督は2作連続受賞の快挙となった。

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映画『桐島、部活やめるってよ』TV放送情報
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WOWOWの「W座からの招待状」のラインナップの1本として登場。
8/11(日)、8/22(木)、8/28(水)、9/22(日)に放送を予定している。

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吉田大八監督演出・舞台『ぬるい毒』情報
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吉田監督が初の舞台演出・脚本に挑んだ“劇団、本谷有希子”の『ぬるい毒』が、東京新宿 紀伊國屋ホールにて9/13~9/26の日程で上演される。同タイトルの原作は、吉田監督の劇場映画デビュー作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07)の原作者・本谷有希子さんの小説で、野間文芸新人賞受賞作品。主演は『GANTZ』(11)の夏菜さん、実写版「鉄人28号」(05)、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(11)の池松壮亮さん。
原作の映画化に独特の手腕を発揮してきた吉田監督。初となる舞台演出でどんな闘いを見せるか、お見逃しなく!

(Report:デューイ松田)