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●人の脚本で撮るということ
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佐藤:濱ちゃんが脚本を書いた映画と他の人が書いた映画があって、『永遠に君を愛す』とこの『不気味なものの肌に触れる』。仙台の作品は少し特殊でドキュメンタリーですね。自分で脚本を書く場合はそういう台詞を想定して書いているじゃないですか。

濱口:そうですね。巻き込まれて感情が出て来るような台詞を書こうとしている。

佐藤:この作品もお話じゃない部分を残しているけど、それは両立しますか?

濱口:それはわかんないですね。人の脚本は難しくて、自分でやっていたら脚本って演出ツールでそれ自体が役者さんが演じるための地図として書いていくんだけど、人から脚本をもらうとどういうことなんだろうというのが結構あって。
撮ってみて「ああ、こういうことなんだな」とわかった時にはもうひと切り替えしないと成立しないということがありますね。
人の脚本を撮る時は、台詞をどう立ち上げるか。わからない。やっていて思うのは、役者さんが我々より真剣に脚本を読み込んでくれていて、「そういうことなんだ」って役者さん教えてもらったり
特に今回『不気味な』で選んだ人たちは非常に信じる能力が高くて。難しい脚本ではあったと思うけど
情報が凄く少ないから、信じうるようなキャラクターを自分がで立ち上げるのは大変な作業だったと思います。例えば染谷翔太くんと石田法嗣くんが演技したら、「ああ、こういうことなんだ」って。

佐藤:僕は三つ葉のクローバーの喫茶店のシーンが一番好きなんですけど、あれは台本通りですか?

濱口:あれは前半2回あって、1回めは即興 2回めは台本通りです。今日ご覧になって肩すかしを食らった人もいると思いますが。

佐藤:ツイッターとかでこれは予告編だからと言われて(笑)。でも50何分ある。関係はあるけど話はない。40分くらいで話が立ち上がって来たら、To be continue!衝撃的でした。「ほんまや!」って(笑)。

濱口:普通はある物語を信じるか信じないか。特に今回に関しては、ふたりが信じうるものが立ち上がるかが結構キモだったんです。ダンスは砂連尾理さんに振り付けしていただいて。振り付けも即興の部分が多かったですね。喫茶店のシーンも同じように1時間くらい即興をやっています。
それぞれ一カメしかなかったから続けて撮って、「触れるのが怖い」って話をしてるんだけど、後でつなぎ治している。
最初に石田くんが飛び出したって感じがしますね。「そんなこと言っちゃうの?」って。
石田くんと染谷くんは現場で仲良かった訳でも仲悪かった訳でもなくて。ある時の二人はもの凄くお互いに対する信頼があったから、ダンスシーンの撮影が最終にあってあそこまで持って行けたような気がしますね。
ソウルメイトって関係だけど。それをどう描くか?と言うのが課題だったけども、振り付けの砂連尾理さんだとか石田くんたちのおかげで出来たんじやないかなと思います。

佐藤:喫茶店の前半部分で石田くんのリアクションは、明らかに生で、染谷くんは冷静に自分の役割を全うしていて、あの辺がいいなと思いました。現場でいい流れとなった時に、編集で残すのは最初から決めてたのかな?

濱口:いや残るかどうかは全然わからなかったですね。「触れちゃえば怖くない」って台詞で書かれていた訳ではなくて、彼らがたどり着いた結論。最後までテーマとして残る。2人の間ではお互いを怖いものと思わなくなる。特に石田くんが演じたナオヤは染谷くんの千尋を怖いと思わなくなるという流れとつながって感じられたんで

佐藤:石田くんはいい受け顏をしていると思う。

濱口:そうですね。

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●水辺が映画に出てくる訳
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ここで観客からの質問タイムとなった。

佐藤:フリスビーするのはパッションのオマージュですか。

濱口:正直どうしていいのかわからなかったんです。最初は河川事務所の所員たちが川縁を歩いている不穏なショットだったんですけど、台詞だけではわかんない。長編へと続くので一人一人の顔を撮る中で、もうちょっとだけ誰がボスで従っているのが誰か関係性が分かるようにフリスビーを僕が書き加えたんです。イマジナリーラインを視覚化したようなものじゃないですか。
つないで行ったら何某かのシーンになるだろうと。

佐藤:村上淳さんは『Playback』より今回の方が好きなんですよ。

濱口:ありがとうございます。

佐藤:何とも言えない無造作な感じが(笑)。凄くいいな。

濱口:新たなムラジュンさんという感じで。次回大活躍する予定なんです

佐藤:54分で予告編だから次回は五時間くらい?(笑) 。長編サスペンスが展開される?

濱口:そうですね。3時間13分くらい(笑)。結構なものにしたいですね。石田くんが出所するところから始まって。今は色んな状況で撮れないので。実際にあった事件なので取材したりすると何年か経つんじゃないかと。自然と三年後という設定で始められるんじやないかなと。

観客:お二人の映画は水辺が出てきますけど、何故ですか。「不穏な場所だから」でしょうか。どう捉えていますか?

佐藤:濱口くんも僕も『ミステック・リバー』をやりたかったんですよ(笑)。

濱口:水って一番近い異界というか、我々の生活に接しているけれど底に何かが沈んでいるかもしれない。『MISSING』では縦笛が出てきましたけど。最も身近な異界をお金もない我々がどう捉えるかっていう時に水辺が必然的に出てくるんではないでしょうか。

佐藤:縦笛を放り込むと横になると思ったら、立つんだ!?縦笛なんだ(笑)現場での最大の驚きでしたね。

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今後の展開について、佐藤央監督は映画で音楽におけるマイナーレーベルのような動きをプロデュースしてみたいと、他の監督&低予算で数年に渡って製作本数を決めて取り組むことを計画している。

一方濱口監督は、神戸のデザインクリエイティブセンターにて、9月から2月まで6ヶ月間に渡り『濱口竜介 即興演技ワークショップ in Kobe 』を開催する。演じるためのワークショップというより、周りの人を演じさせる演技空間自体を作ることを目的としているという。『不気味なものの肌に触れる』に出演の砂連尾理さんが身体工学の講師として参加し、3月には映画を制作する予定とのこと。

興味のある方はぜひ参加していただきたい。お問い合わせは下記リンクまで。

(Report:デューイ松田)