現在関西では、6/29(土)から7/19(金)の日程で第七藝術劇場/神戸映画資料館/京都シネマ/元・立誠小学校特設シアター/京都みなみ会館の五館を横断して、今後最も注目すべき才能を紹介すべく『濱口竜介プロスペクティヴ in KANSAI』を開催している。2012年、東京・オーディトリウム渋谷にて2週間のレイトショーで1500人の動員を記録した『濱口竜介レトロスペクティヴ』に、新作を『不気味なものの肌に触れる』を加えた特集上映となっている。

6/30(日)には、第七藝術劇場にて佐藤央監督『MISSING』と濱口監督『不気味なものの肌に触れる』の上映とトークが開催された。
自身の作品上映だけではなく、何か広がりが欲しかったと語る現在35歳の濱口監督。同い年の佐藤監督とは2011年の同時期まで東京で映画を制作。土台としている部分に共通点はあるが、演出の仕方が違っているという二人の興味深い対談となった。

<上映作品>
●不気味なものの肌に触れる(2013年)
製作:LOAD SHOW、fictive / 監督:濱口竜介 / 脚本:高橋知由 / 撮影:佐々木靖之
出演:染谷将太、渋川清彦、石田法嗣、瀬戸夏実 ほか
斗吾(トウゴ)の暮らす町に弟・千尋が引っ越して来た。その日以来斗吾の町では不穏なできごとが起こり始める。

●MISSING(2011年)
製作:神戸映画資料館 / 監督:佐藤央 / 脚本:小出豊 / 撮影・照明:四宮秀俊 /録音:新垣一平 / 音楽:近藤清明 / 制作:唐津正樹
出演:土田愛恵、きく夏海、昌本あつむ、信國輝彦、八尾寛将、堀尾貞治 ほか
小学生の学は出来心で盗んだ同級生のたて笛をなくす。探すなか辿り着いたのは、孤独な女・晧子の家だった…。

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●情緒を排した『MISSING』の演出
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濱口:『MISSING』久しぶりに観ました。古典的な演出で、アクションつなぎ、視線つなぎからなる古典的な編集を体得している。スムーズな画面連鎖と段々盛り上がるエモーション。結構似てるところがたくさんありました。

佐藤:『不気味なものの肌に触れる』は演出が安定してますね。六年ぶりくらいの佐々木靖之くんのカメラも安定しているし、編集点が凄くいい。僕の場合はここ2年くらいサボっていたけど、濱口くんは仙台に行って撮っていた訳ですから、ずっと撮って来た余裕を感じますね。

濱口:どーゆーことだ?(笑)。余裕って?

佐藤:意味のない、お話に奉仕してない俳優の演技や動きをちゃんと残しているところですね。カメラは見やすいところに置いているけど、それが全然安全なポジションではないところ。

濱口:ありがとうございます。『MISSING』を観ると凄いソリッドというか。ある種の情緒を前半はかなり排しているなと。狙ってやっていましたか?
1秒が24フレームで構成されていますが、何フレーム違うかでかなり印象は違って、人がフレーム出切る前に切っています。人がフレームが出て、入って来ると余韻があるんですけど。佐藤さんのこの時の編集は、徹底的に余韻を排除してやっているような。

佐藤:せっかちなんです。台本を読んだ時点ではよくわからなかったんですけど、現場を経て何かしらの余情はある。ただ甘ったるい余情ではないと。硬質な余情はギリギリ残るくらいにしたいということだったと思います。

濱口:人物の声の出し方が、抑揚を欠いているわけじゃないけれどかなり奪っていまるよね。特に前半は、自分なりに何か言う機会をかなり奪っています。子供もそうだし、因果に対して語るおばさんにしても、何か抑えきれないものを感じる(笑)。
基本的には硬質な映像を得るために、甘ったるいその場その場の感情表現を排している印象。

佐藤:僕は基本的にそう。今撮ると変わって来ると思うけど、例えば現場でのOKポイントは何ですか?

濱口:理想は現場で驚けるかどうかですね。実際は現場は時間がタイトなことが多くて。待てない時は削いで削いで

佐藤:何があればOK?

濱口:あるトーンですね。台詞を言うのであれば余計なトーンが入っていないもの。邪魔な表現だなというトーンが入ってきた時は、もう一回やる。それがなければ結構信じられるものになりますね。

佐藤:僕も台詞です。意味がわかるとかではなくストンと耳に入ってくればOKで。抑揚とか「こういう気持ちだからこういう台詞回しするよね」って透けて見えるような台詞回しだと入って来ない。

濱口:二つの映画には一つ共通点があって、脚本は他の人で、我々より少し上かほぼ同世代。人に書いてもらった時に、こんな台詞言わないってことがありますけど、どういう反応しますか?

佐藤:『MISSING』に関しては、プロットまで一緒に書いてシナリオはお任せしたんです。語られてない部分が脚本レベルで多いので、よくわからないところがあって。何を指しているのか、話を聞いて足してもらったり。基本的には台本通り撮りましたけど、今撮るならもう少し説明しますね。自分が信じて撮った映画でも、二年も経つと結構客観的に観られるもんだなと改めて思いました。

濱口:率直に言えば自信作だと思うけど、改めて観てどうでしたか?

佐藤:脇が甘いですね。台詞が、気持ちの込め方が違っていたみたいな。主役の男の子は演技経験がなかったんですね。気持ちを説明してもわからないから、こっち向いてこうとか。もうちょっと違う言わせ方もあったなと。カット割でもカメラ位置が違っていたかなという部分があって。現場のことを思い出すとしょうがない部分もあるんですけど。

濱口:最初は信じられないところで演じているけど、子供と母親が最終的にここまで至る。「頑張れ」って台詞も物凄く難しいですよね。それこそ余計なトーンが全くなく言えているのは驚きでした。

佐藤:ラストのシーンは現場で感動しましたね。大晦日の明け方だったんですけど。段取りだけ付けて、ああ言うのが出てきたんでこれは素晴らしいなと

濱口:それまで叩いたり削ったり細かな作業があったと思いますが、段取りだけやって出てきたというのは。脚本自体に役者が自然とそう言う声が出せるようなものがあった?

佐藤:そういうのが僕が今まで撮った中でなかったんですね。ああいう風になるとは思っていなかったけど、さすが小出豊(脚本)みたいな(笑)。もちろん俳優の二人は大きいけど、ああ成る程!というのは大きかったですね。

★(2)へ続く★

(Report:デューイ松田)