STUDIO4℃田中プロデューサー「STUDIO4℃は”大友克洋軍団”と”ジブリ軍団”が集まってできた集団」
「世界に挑戦状を叩きつけようという想いが集まっている」
窪岡俊之監督、マイケル・アリアス監督、STUDIO4℃田中プロデューサー、杉作J太郎がSTUDIO4℃作品を語りつくす!

三浦建太郎原作、全世界累計3500万部を超えるファンタジー超大作コミック「ベルセルク」を映像化した、“黄金時代篇三部作”の完結編となる、『ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨』のBlu-ray & DVDが6月19日より発売中です。本作のリリースを記念して、新宿バルト9で「「STUDIO4℃」作品オールナイト上映イベントを実施いたしました。上映前のトークショーでは、上映作品のエピソードを披露したほか、イベントには参加しなかったものの、『MEMORIES』の森本晃司監督からのメッセージも読み上げられ、スタジオ立ち上げから大友克洋氏、今敏氏とのエピソードにも話が及ぶなど、STUDIO4℃の歴史を上映作品とともに振り返る濃い内容のイベントとなりました。

■日程:2013年6月21日(金) ■会場:新宿バルト9【スクリーン⑧】(新宿区新宿3-1-26)
■登壇者:窪岡俊之監督(「ベルセルク 黄金時代篇」)、マイケル・アリアス監督(『鉄コン筋クリート』)、STUDIO4℃田中栄子プロデューサー、杉作J太郎(漫画家・コラムニスト)他予定、MC:吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)
 
『ベルセルク 黄金時代篇』三部作では、徹底した時代考証や美術設定の裏づけ、迫力満載の戦闘描写には手描きとデジタルのハイブリッド映像を追及し、日本アニメーション史上に残る表現を実現するなど、常に国内最高峰の作品を生み出し続けているSTUDIO4℃。代表作『ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨』、『鉄コン筋クリート』、『マインド・ゲーム』、『MEMORIES』の4作品を上映する本イベントでは代表でプロデューサーの田中が「STUDIO4℃はアニメーションという技術を使って自分たちの表現した映像を世界に発信したいという志の高いクリエーター集団」と表現し、「もともとSTUDIO4℃を立ち上げた頃はアニメーションはキッズやファミリー向けで大人向けの映像という価値観がなかった。自分が楽しめる映像を世界に届けたいという意識だった」と当初から海外を視野に入れていたことを明かした。

 海外からも評価を受けていることについては「海外“らしい”、ものではなく、日本が持っている個性を、自分たちが知っている表現で描きたいというのはありました」と明かし、「日本は表現に対して自由だったんです。STUDIO4℃で最初に制作した『MEMORIES』を海外に持っていったときには、『よくこんな過激な表現をアニメーションで作れたな』という反応だった。暴力さも評判になったんじゃないかと思う」と語った。

 窪岡監督は「STUDIO4℃の作品は流行りの作品とちょっと違う。業界の人間として見ても、とがった作品を作っている会社というイメージ」と話し、『ベルセルク 黄金時代篇』三部作の制作時には、「田中さんを始めスタッフの粘りも違うし、こちらがついていくのが大変だったくらい」と暴露。これを受け田中が「もちろん監督についていくという姿勢もあるが、監督と同じか、それ以上に個々のスタッフも「ベルセルク」にものすごく情熱をかけていて、現場全体がみんな暴走しているくらいの勢いだった」と話し、窪岡は「実は田中さんが知らないところで、現場がいつの間にか修正をしている場面もあった」と、通常のアニメーション制作では、修正したいと思う箇所があっても時間が足りずに手を加えられない状況もある中で、スタッフ陣の「ベルセルク」への熱がうかがえるエピソードを披露する一面も飛び出した。

 これにはマイケル・アリアス監督も「STUDIO4℃はスタッフはみな熱いし、いろいろ実験や新しい試みに挑戦しながら楽しいものを作ろうとしている。現場の温度がいつも高かった」と『鉄コン筋クリート』の制作時の印象を明かした。
 
 また、今回のイベントには参加しなかったものの、『MEMORIES』の森本晃司監督からは「今STUDIO4℃にはおりませんが、30年間苦楽を共にした仲間と過ごした最高のスタジオです。STUDIO4℃を出てつくづく思うのはSTUDIO4℃にいた人間は素晴らしく才能あるアーティスト、クリエイターが多かったのだと改めて実感しています」とメッセージが会場で読み上げられ、それに対し田中は「STUDIO4℃は森本晃司と佐藤好春と自分の3人でスタートした会社。そこに集まってきた素晴らしい才能は森本晃司を求めてきたし、森本が目指してきたものを、今も目指していると思います」と古くからの戦友である森本を称えた。

 『ベルセルク 黄金時代篇』三部作の制作について田中は、「原作者の三浦先生のコミックはすごく緻密で情報量も多いし、甲冑をアニメで描くなんて暴挙は通常ではできないだろうと。でもこを挑戦してみないかと窪岡さんに投げて、この作品で何を描けるのかを監督やスタッフと挑戦し続けていた。生きながらえて幸せだなと思う」と窪岡監督との大仕事を振り返った。また杉作J太郎は「ここまで大人向けの作品に徹底しているスタジオは珍しい」と言い、「日本のアニメはどうしても子どもに向けているものが多く、性描写を別の世界に閉じ込めてしまっている。それを逃げずにやっている『ベルセルク』はすごい。『ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨』の性描写はもちろん、ほんの数秒の細かな表情にもグッときた」と熱弁を振るった。窪岡監督は「なるべく嘘はつかないようにと思いながら作っていた」と答え、田中も「すべてのシーンをチェックしていたが、SEXシーンだけはチェックなしで窪岡監督にすべて任せていた」と窪岡監督のこだわりの賜物であることが明かされた。
 
 今回の上映イベントは上映作品4本のうち、『鉄コン筋クリート』、『マインド・ゲーム』、『MEMORIES』は35mmフィルムでの上映という貴重な機会となった。『MEMORIES』制作時のエピソードとして田中は「学校の体育館を借りて、紙に描いたセルを全部並べて1コマ1コマずつ撮影していた。1つのコマをつくるのに撮影準備に1週間、撮影に1週間、仕上げに1週間と3週間。リテイクするとさらに3週間かかっていた。デジタルの時代には自慢にもならないが、それくらい情熱をかけて作っていたと思ってもらえたら」と作品への思いを語り、「最初に、『MEMORIES』総監督の大友克洋さんが『やるなら世界一のことをやる決まっているだろう』と言い、そこからスタートした』と話した。ここでも森本晃司監督のコメントが読み上げられ、「(『MEMORIES』のエピソードの1つである)『彼女の想いで』は、劇場作品として私が初監督した作品。脚本は今敏さんで、自分と今さんはAKIRAからの流れで当時”大友軍団”と呼ばれていた。『MEMORIES』をやることになり、素晴らしい原作を超えられるアニメーション作品を作ろうと大友さんに挑戦状を叩きつける気分で制作に挑みました。『みんなで最高の作品を作って大友さんを驚かせよう!』と、今敏さんと何日も何日も朝まで話し合い、脚本を作った想い出があります」と、当時の想いが披露され、森本監督からの熱いコメントに、田中は「”大友克洋軍団”と『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』の制作を担当していた自分たち”ジブリ軍団”が集まってSTUDIO4℃という集団が出来た。世界に挑戦状を叩きつけようという想いが集まっていた」と当時を振り返りつつこたえた。
 森本監督は大友克洋らが監督を務めるオムニバス映画『SHORT PEACE』(7月20日公開)でオープニングアニメーションを務めており、「『夏の夕暮れの匂い』というノスタルジックな香りがする音世界の演出から始まり、少女の麻衣がふとした瞬間に不思議の国へ迷い込み、自分の中にある夢や憧れ、そして成長に気づく….そんなアイデアを膨らませました」と最新作への想いも語った。

 トークショーの最後には窪岡監督が「『ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨』は三部作の最終章。企画当初から本当にどうやって作るんだろう、と一番頭を悩ませたパート。スタッフ一同ひたすらがんばった成果を見ていただけたら」とコメントし、マイケル・アリアス監督は『鉄コン筋クリート』について「6年前の作品ですが今も思うのはスタッフみんなが松本大洋さんの作品を愛して一生懸命作った作品。すごくステキな映画なので、大きなスクリーンでの上映を楽しんでほしい」と語った。

 田中は『MINDGAME』について「実は幻の『マインド・ゲーム』と呼ばれていて、本作がきっかけでアニメ界や映像界、記者になったという声をたくさんいただく。今日観てもう一度感動していただけたら」とそれぞれに上映作品への想いを語った。