悪人」の吉田修一原作の同名小説を、『まほろ駅前多田便利』の大森立嗣監督が7年ぶりの主演作となる真木よう子を迎えて映画化した『さよなら渓谷』。いよいよ本日、公開初日を迎えました。公開初日を記念して行われた舞台挨拶には、主演の真木よう子さんをはじめ、大西信満さん、鈴木杏さん、鶴田真由さん、大森監督が登場!さらに、原作者の吉田修一さんからはサプライズで手紙が届き、演じた役に侵食されるという壮絶な経験をするほど、本作に入れ込んでいた真木さんは思わず感極まった様子で「やられました。この上ない幸せです。」と言葉を詰まらせる場面も。また、6月20日から開催されているモスクワ国際映画祭でのコンペティション部門出品も決定しており、海外映画祭での上映にも期待を覗かせました。

【日時】 6月22日(土)      
【場所】 有楽町スバル座 
【登壇者】 真木よう子さん、大西信満さん、鈴木杏さん、鶴田真由さん、大森立嗣監督

Q:初日を迎えていかがですか?
大森監督:緊張しますね。ただ、逆にほっとしてもいるかもしれません。撮影当時は、本当にいいものを撮ろう、という気持ちしかなかったですし、役者さんには“心”を動かしてほしい、とそうお願いしていたので、彼らのお芝居をじっくり楽しんでください。
Q:この役を演じてみてどうでしたか?
真木さん:もう公開!?という感じでドキドキしています。たくさんの人に観てもらいたいけど、怖い気持ちもありますね。女性として覚悟の必要な役でもあると思いましたが、それ以上にストーリーに惹かれて‥。この役はほかの人に取られたくない!とそう思ったのを覚えています。役に入り込んで辛い経験をしたこともありましたが、チームに支えられて演じることができました。
Q:映画をみていかがでしたか?
鶴田さん:この難しいお話を、真木さんと大西さんのお二人はどう演じるのだろう?と思っていたので、観終わった直後は本当に素晴らしい、と思ったのが素直な感想です。そこに自分も参加することができてよかったですし、たくさん考えさせられる映画だと思います。
鈴木さん:真木さん、大西さんのお二人に感動しました。こんなに密度の濃い作品は他にないと思います。この作品に携わることができて光栄です。
Q:これから作品を観る方へメッセージをお願いします。
鈴木さん:この映画は、今日からみなさんのものです。願わくば、大切にしていただけますように…。
鶴田さん:ゆっくり、どっぷり楽しんで!
大西さん:シリアスなテーマを描いている作品でもありますが、人との出会いの奇跡が感じられると思います。それによって再生できる光を感じてもらえると嬉しいです。
真木さん:去年の夏、私たちがそこに生きていた映像です。心に残る作品になると、そう信じています。
大森監督:俳優の演技から感じ取ることのできる、“愛”のようなものを感じていただければ嬉しいです。

■舞台挨拶中には、原作者の吉田修一さんから届いたお手紙を読み上げるサプライズを実施!吉田さんからの感謝の想いが詰まった手紙が読み上げられると、真木さんらは感激した様子で「やられました。吉田さんからそんな風に言ってもらえるなんて、この上ない幸せです。」と言葉を詰まらせ、「モスクワ国際映画祭が決まった時に一番喜んでくれたのが吉田さんでした。ぐっときますね。」と語る監督と、これまでの撮影を振り返り、喜びを語りました。また、「さよなら渓谷」の映画化の発端となった大西さんは「吉田さんから直々にお手紙をいただけるなんて光栄です。改めて、たくさんの人にこの映画を観てもらいたいと思います。」と本作にかける熱い想いをのぞかせ、初日を迎えられた喜びとともに舞台挨拶を締めくくりました。

■吉田修一先生からの手紙(全文) 
映画「さよなら渓谷」が無事に初日を迎えられましたこと、心よりお祝い申し上げます。

 大森監督、覚えていらっしゃいますでしょうか? 初めてお会いした時、私は「この作品を海外の映画祭に出品できるような映画にしてほしい」とお願いしました。口で言うのは簡単ですが、それがどれほど大変なことか分かっていながら、原作者としての大きな夢を語ったのだと思います。
 しかし、監督は、モスクワ映画祭のコンペティション部門出品という、期待以上の形でこの大きな夢を叶えてくれました。
 今日、初日を迎えるに当たって改めて思うのは、大森立嗣という映画監督の作品リストに、この「さよなら渓谷」が並べてもらえることが、本当に誇らしいということです。

 大西信満さん、元はといえば、大西さんが原作を読み、これを映画にしたいという大きな夢を持って下さった所から、ここまでの道ができたんですね。
 大西さんからこの話をうかがった時、まだ真っ白なパソコンの画面に「さよなら渓谷」の一行目を書き始めた時のことをなぜか思い出していました。
 決して楽ではない道を前にして、その第一歩を踏み出して下さった大西さんの勇気に、心から感謝しています。

 そして、真木よう子さん、まずは今回「真木よう子」という女優に出会えて、本当に良かったと思っています。
 あるインタビューで、「去年の夏に女優として映画を撮影したというよりも、自分自身が本当に過ごした夏のことのようになっている」と応えられているのを聞き、改めて去年の夏、真木さんは凄まじい体験をされたのだと思いました。
 主人公のかなこという女性を作り出した原作者だからこそ分かるのですが、このかなこという女性は、そう簡単には捕まえることができません。優しく抱きしめようとしてもするりと逃げ、強引に捕まえようとしても全力で抵抗してきます。
 そんなかなこという女性と、去年の夏、あの美しい渓谷で、真木さんは必死の形相で向かい合い、互いに歯を食いしばり、それでも抱き合おうとしたのだろうと思います。そして私には、その場所にもうひとり少女が立っているのが見えるんです。その十五歳の少女は中学を卒業したばかりです。女優になるという大きな夢を抱きながらも、心細く、それでも歯を食いしばり、ゆっくりと歩き始めたばかりです。彼女もまた、去年の夏、あの渓谷にいたのではないでしょうか。
 もしも今、私がこの少女に会えるとしたら、「あなたは本当に頑張ってきたんですね」と声をかけたいと思います。そして「最初は大きすぎる夢だったかもしれないけれど、それでもあなたが勇気を出して歩き出してくれたおかげで、今日『さよなら渓谷』という素晴らしい映画が初日を迎えることができたんですよ」と。そして、「今、目の前で拍手を送ってくださっている観客のみなさんの顔が、あなたにも見えますか?」と。
 真木さん、本当にお疲れ様でした。そしてかなこを演じてくれて、本当にありがとうございました。