この度、作中でナオミ・ワッツが演じる主人公マリアのモデルとなったスペイン人女性、マリア・ベロンさんが来日いたしました。

ご自身が経験したありのままの真実と思いを伝えるため、スタッフ、キャストと共に、脚本の段階から撮影まで映画製作に関わったマリアさん。
映画づくりにあたり、被災地のタイを訪れ、実際に被災された方々ともたくさんの言葉を交わされました。

【イベント概要】
映画『インポッシブル』マリア・ベロン氏トークイベント

日時:5月18日(土) 17:30〜
場所:チネ・ラヴィータ仙台
登壇者:マリア・ベロン(本作主人公モデル)

■『インポッシブル』マリア・ベロン トークショー(上映後)
5月18日(土) @チネ・ラヴィータ

Q:
「この物語を映画にしたい」とオファーがあったとき、どのようなことを感じましたか?

マリア:
とても責任が大きいと思いました。この物語は私たち家族だけではなく、被災された多くの方の物語でもあるからです。
だからこそ、この映画は正直に作られるべきだと思いました。
それは非常に苦痛を伴うものでもありますが同時に、この映画であの出来事をきちんと説明する必要もあると思いました。

Q:
脚本にも参加されていると思いますが、どれくらいが真実なのでしょうか?
 脚色されている部分もあるのでしょうか?

マリア:
演出的に強調されていることはありません。エピソードを追加といったこともありません。ただ、全てを見せてしまうというのは見ている方にとって刺激が強すぎる部分もあるので、どこまでを見せるか、というのは非常に難しい部分もあったと思います。

特に、家族5人の話に関しては、私たちの知りうる、本当に真実のみが描かれています。会話一つ一つも実際の言葉通りです。
ただ、唯一違うのは、劇中に出てくるボールの色です。
あれば実際は黄色だったのですが、映画の中では赤色になっていました。
あとは全て真実です。

在った物、それがどのように在ったかも事実と同じです。
もちろん私たちの話にはもっともっと色々な細部がありましたが、この映画を作るために何かを足すといったことはありませんでした。

Q:
日本でも2年2ヶ月前に東日本大震災を経験しました。
ここにいるほぼ全ての方が何らかの被害を受けました。
スマトラ島沖地震と一括りにはできませんが、マリアさんは被災後初めてこの撮影でスマトラ島沖を訪れたと伺いました。
現地の方とも対話されたそうですが、それはどのようなものでしたか?

マリア:
タイに渡ったことは私たち家族にとって、とても大切なことでした。
特に、実際に被災した村に戻ったことは本当に大切なことでした。
その村で生き残った方や、孤児の方にも会って、彼らが大丈夫だ、ということも見届けたいという思いがありました。

彼らは、この映画をこの土地で撮る、ということに関してとても誇りに思っていると言ってくれました。
あの時と同じ場所、同じ病院で撮っているところを見て、彼らはスタッフに対して「ありがとう」と言ってくれました。この映画で、実際に何が起きたのかを示してくれることに誇りに思っていると。

そして、脚本の他にも、撮影している場所が全く同じ事だということに驚き、忠実に撮影していることに感謝していると言ってくれました。

Q:
被災者の方と会って、どのような感情を持ちましたか?

マリア:
現地では津波に飲まれた方の話しを聞くこともできました。
私と彼らとは言葉が違うのですが、お互いに抱き合って、泣き合って、慰め合って、気持ちを共有することができました。
彼らが、未だに行方不明の方々のことを話してくれるのを聞くのは非常に辛かったですし、その辛さはこの後の人生にも抱え続けていくと思います。

「自分だけが生き延びてしまい申し訳ない」と言う方もいましたが「そんなことはない」と伝えました。
そして私たちはこれから協力して生き合っていこうと話しました。

Q:
この映画はスペインでは興行収入歴代2位の記録を残しています。
スペインではどのように受け止められたのでしょうか?

マリア:
この映画は、スペインだけでなく、多くの国で興行収入の上位に入りました。
私は、この物語が語ることに国籍の壁は無いと思っています。
多くの方の心の中にあるものが共通することがあるから、多くの国で支持を得られたのだと思っています。

この映画を見ることで、津波の被害を直接的に受けていない人でも、自分の人生の色々なものを照らし合わせることによって、人生を考える、自分の心の中にあるものを考える、そういうきっかけになると思っています。

【一般・マスコミからの質問】

Q:
今回の映画を作るにあたって、(あなたの役を演じた)ナオミ・ワッツさんに特にお話された点があれば教えて下さい。

マリア:
ナオミさんとは撮影中もその前もずっと一緒にいました。
当初、彼女には私の助けはいらないんじゃないかと話していました。
でもナオミさんは「全てを知りたい」と言ってくれました。

それで私たちは、非常にたくさんのこと、本当にたくさんのことを話し合いました。人生観から何から、全て共有したわけなのですが、何回も何回も彼女に伝えたのは、ナオミさんが演じる役割はマリアではない、ということです。津波で苦しんだ全ての“お母さん”を演じて欲しいということを何度も伝えました。

Q:
マリアさんの勇敢なお子さんは元気ですか?

マリア:
三人とも元気に暮らしています。
小さい子供でしたし、被災後に悪夢も見ましたし、PTSDにもなりました。

しかし、耐えて頑張ってくれました。時間が癒してくれたようにも思います。
私の子どもたちは、毎日を楽しむ、ということを心がけています。
人を助けるために何ができるのか、ということを考えています。
そして、人を助けるために無駄にする時間はない、と言っています。

長男のルーカスは医学の勉強をしています。次男トマスは勉強をしながら、放課後はライフガードのお手伝いをしています。もうすぐ中学を卒業する三男のサイモンは、人を助けるためには何をすれば良いのか、いつも私に聞いてきます。

Q:
素晴らしいヒーローですね。

マリア:
ここにいらっしゃる全ての方がヒーローだと思います。

Q:
東日本大震災では、ここ宮城でもたくさんの方が被害に会いました。
あれから2年と三ヶ月が経ちましたが、本日は何を伝えたいと思っていらっしゃいましたか?

マリア:
皆さんのために、具体的に何かができるというわけではないです。
私が直接何かを癒せるわけではありません。

ただひとつ言えることは、皆さんのことを愛しているということです。
東日本大震災の映像を見た時、とても辛かったです。
被害に遭われた方の人数ではなく、一人ひとりの子どもであったり、お父さん、お母さん、彼らのことを思うととても辛い気持ちになりました。
何かをしなければならないと思いました。

自分の痛み、辛かったという思いを持ち続けるだけではなく、何かをしなければと。
今私ができることは、ここに来て私が皆さんのことを思っている、皆さんのことを愛している、と伝えることだと思いました。

Q:
あなたの場合、スマトラ島沖地震ということで、映画化に際して時間が経っていますね。時間が癒してくれる、という話がありましたが、被災地の方に伝えたいメッセージがあれば。

マリア:
痛みが癒えるのには時間がかかると思います。
「人の痛みが分かる」という言葉がありますが、これはなかなか想像できるものではありません。
私の場合、2日半の間、家族を失った状態でした。
辛いものでしたが、ここで家族を亡くされた方にとってはもっともっと辛い思いがあったと思います。

私自身は二年間、様々な手術を受けて元の状態に近づいて来ましたが、その体と同じように、感情も、時間はかかりますが、時が癒してくれると思います。

そのためには、色々な耐えなければいけないこともありますが、「愛」が癒してくれるものだと思います。
気持ちの面で、最も癒しになるのは「愛」だと思います。

Q:
心情を伺いたいです。劇中では弱音を吐くシーンもあったと感じました。
自分が肉体的・精神的に弱い立場にあるとき、家族や大切な人が身近にいた時、それが励ましになって生きる力になったのか、ほっとしてこれで思い残すことはなく死ねると思ったのか、それともそんなことを考える余裕はなかったのか、教えてください。

マリア:
難しい質問です。本作を見て、お母さんが死ぬかもしれないという恐怖を感じるかもしれませんが、死ななければいけないのであれば死ぬし、生き残るであろうという時であれば生き残る、そういうものだと思っています。

人によって様々なケースがあると思います。私も非常に苦しみましたし、これ以上苦しむのは嫌だと思ったこともありました。
でも、「家族がそばにいるから」助かったわけではないと思います。
もしそれで助かるのであれば、全ての人が生き残るはずです。

でも、家族が近くにいたことで、私の人生の意味のようなものが見つけられたような気がしています。