映画『小さいおうち』山田洋次監督が直木賞受賞作を映画化!監督・豪華キャストが本作への熱い想いを初披露!(2/2)
●MC:
続きまして、平成パートにご出演されるお二人に質問させていただきます。
まず妻夫木さんにお伺いします。いよいよ5月より本格的に撮影に入られます。現在ロングラン上映中の「東京家族」に続いて、2作連続・2年連続でのご出演です。前回も、とても和やかな撮影現場だったと記憶しておりますが、今回の山田組での撮影への意気込みや、二作目ということで楽しみにされていることがあれば、教えていただけますか。
●妻夫木聡さん:
2年続けて山田監督の作品に出演させていただける事はすごく光栄です。
前回、厳しくも温かい愛情たっぷりの演出を受け、人間的に成長する事が出来たと思っています。今回も山田監督の愛情を受け、成長したいと思います。青年役と言う事なので、若作りもしなきゃなと(笑)。
前回、山田監督に教えて頂いた感じる事はとても大切だという事を胸に、今回やっていけたらと思います。
●MC:
ありがとうございました。最後に、倍賞さんにお尋ねします。
いよいよ来月より山田組の撮影に入られますが、先日、昭和パートの撮影風景をご見学され、黒木さん演じるタキの様子などをご覧になったそうですね。60年後の平成へとつながっていくことになる、赤い屋根のおうちで繰り広げられるシーンを見られて、どのような印象、想いをお持ちになられましたか。
●倍賞千恵子さん:
本当に短いシーンなんですが、松さんと黒木さんがトマトを持って、吉岡さんのお家に行く玄関のシーンをずっと見させて頂いて、山田監督は、こういう風に演出されていくんだなという事を、初めて知った気がしました。
来月からの撮影では、ほとんど妻夫木君と2人のシーンなので、山田監督にどうやって演出していただけるか、とても楽しみに思っています。
<記者からの質疑応答>
●記者:
先日山田監督の撮影現場を見せて頂いて、非常に細かい演出をされているなと感じたのですが、今までの映画と毛色の違うこの作品の演出のポイントはどちらにありますか?
●山田洋次監督:
俳優さんは色々な仕草や手、足の動きをするのですが、大事な事は俳優さんの持っているはずの思いやムードをカメラでキャッチすること。
それが一番大事だなと思いながら、1カットずつ撮っていくんですが、中々見えにくいものなので、空気のようなものを感じ取るように意識しています。全体のムード、匂いをつかみ取れるような撮影の仕方をしていきたい。良い作品には、艶、香りが出ています。
自分もそういう作品を撮りたいと思いながらも中々難しくて、ため息ばかりついている毎日です。
●記者:
監督はこの小さいおうちのセットで今の世の中に何を伝えたいと思ったのか。また、昭和パートの皆さんにこのセットで演技をされる際にどのような感情で演技をされているか伺えますでしょうか?
●山田洋次監督:
戦前の昭和は暗黒の時代。
日本の大都市が全部焼け野原となり、むごい時代でした。
しかし、東京の郊外の小市民家庭はささやかだけど、かわいいような、身の丈にあった暮らしをしながら生活をし、気持ちの良い文化をつくりあげた時代があった。そういうかわいらしい暮らしがあった時代を大事に見つめて表現してみたいと思いました。
そして、そういう文化が、大きな歴史の中にガーッと塗りつぶされていくような物語だと思ったので、あの時代の資料もたくさん残っていましたので、ずいぶん調査もしました。昭和10年を挟んだ時代には、東京郊外のモダンな文化住宅、赤い三角屋根の家がずいぶん流行ったみたいですね。
そういう建物、生活、文化を調べた結果、あのお家にたどり着きました。
60年前、70年前くらいの僕自身の小学生くらいの頃の記憶もあるわけで、そんな記憶をまさぐったりしながらの映画作りです。
●松たか子さん:
最初にセットを見たときは、立派なお家だと思って驚きました。
でも、すごくかわいらしくて、「小さいおうち」というタイトルもとても好きで、いつもスタジオに入って、自分たちのお家を見る度に、幸せな気持ちになっています。
このお家の中にあるささやかな幸せとか、ちょっとしたさざ波や秘密・・・、
特に私は罪深い事にのめりこんで行ったりと、色々な事がこの家で起こるのですが、それらの出来事は全て、一つのおうちで起きた、ささやかな出来事で・・ささやかな“小さいおうち”なんだなと毎回感じます。
この完璧な舞台の中で生活出来ているのがすごいです。
ほとんどが室内劇で、お家の中の色々な部屋でお話が進んで行くんですが、家の中もすごくモダンでオシャレで、キッチンもオシャレで、豪華とは言い切れないけど精一杯のモダンを感じる中でお芝居が出来るのはとても幸せですし、やっぱりこの映画は〝小さいおうち”がテーマなんだなと思っています。
●黒木華さん:
本当に素敵なお家で、お家自体もそうですし、揃えてあるものなどもそうなんですが、生活感があるというか、毎日ここで奥様の手伝いをしたり、坊ちゃんと遊んだりしてるんだなと思う事が出来て、置いてある小道具とか、そういうものから自分の事や皆さんの事をすごく想像が出来て良いなと思います。
自分の女中の部屋も小さいんですけど、どういう生活、どういう気持ちになったのか感じられて、すごくかわいいし、幸せです。
●片岡孝太郎さん:
本当に赤い屋根が印象的で、入ってすぐ応接間なのですが、置いてあるものもすごく生活感がありますね。僕は着替えのシーンが多かったり、怒ってばかりいるのですが、自分で移動するにしても良く出来ている家だなと思っています。赤い屋根を黒く塗っていれば、空襲の的にもならなかったのかなともよく考えます。
●吉岡秀隆さん:
楽しいシーンを撮っていてもどこかこの小さいおうちは空襲で焼けてしまうのだなとか、目の前にいる美しい時子さんも空襲で亡くなってしまうとふと思うとますます愛おしくなったり、寂しくなったりする。
板倉は、そういう風な大事に思う優しさを持っていたんじゃないかなと、小さいおうちのセットの中で感じています。
●記者:
今フィルムで撮影するという事に関して改めてその思いを聞かせて頂ければと思います。
●山田洋次監督;
その問題については、この1〜2年どんなに悩んだかわかりません。
フィルムがデジタル化していく、してしまったと言っても良い状況なんですが、それにより映画の表現が豊かになったのか?という問題ですね。フィルムの色がついたり、フィルムがカラーになったりという次元の発展じゃない、むしろこれは合理化なんじゃないかと思っています。デジタル化によりスタッフが減っていく、どんどんデジタルになってフィルム生産が減っていく、というのをフィルムで育った人間としては、腹立たしく思うんでしょうね。
僕自身が生きている間は、編集技師、録音技師達と共に、フィルムで進める努力をしていこうと思っています。
以上。