本日3月30日19時より、代官山 蔦屋書店にて、映画『かぞくのくに』DVD/ブルーレイ発売記念イベントとして、ヤン・ヨンヒ監督と、監督の知人であり、民族問題に詳しい作家・木村元彦氏(『オシムの言葉』著)によるトークショーが開催されました。

木村:去年の夏以来の再会ですね。あの時は、この映画がベルリンで賞を取ったという話をしましたが、その後1年程で受賞ラッシュですね。北朝鮮への帰国運動を描いた作品でありながら、日本の観客に受け入れられた。ロングランで今も上映されてる。
監督:しらふで会うのは久しぶりですね(笑) 受賞はもちろん、観客動員も全くの想定外。私が1番びっくりしていますが、素直に喜んでいます。木村さんに会った時は、お客さんが観に来てくれるかが本当に不安で、ポスターとチラシの束を持って飲み屋で肝臓と財布に無理しながら宣伝してました(笑)
木村:初めて撮った劇映画で、キネマ旬報ベスト・テン第1位を取った作品は今まで他になかったですよね。
監督:この映画は北朝鮮や在日の家族を描いた、変わった映画として捉えられるけど、日本で暮らしている家族の話。まだ知られていない日本の一部を世界に発信する気持ちで作りました。個人の人生や歴史、時代、住んでいる地域・コミュニティに直結した題材を、具体的な生活の中で見せてくれる作品が好きで、私自身もそのような作品を作りたいと思っているんです。
木村:アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品としても選ばれたし。
監督:前作『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』は、アジア映画、韓流映画のジャンルに入れられたけど、本作『かぞくのくに』で日本映画の仲間入りができたのはうれしいです。

木村:海外での反応はいかがでしたか?
監督:アメリカでも北欧でもドイツでも、「うちの家族とそっくり!」と言われた。バックグラウンドは違っても、家族の話としては共通点がある。日本と違って、他人との共通項を早く探し出す人達が多いなと思いました。他国の歴史をよく知っていて、共感してくれました。
木村:僕は、監督自身が大きなモチベーションを持って、個人と国家の関係性、しかもタブーに取り組んだ映画が大好きなんです。ポーランドのアンジェイ・ワイダ監督や台湾のホウ・シャオシェン監督のような。ヤン監督も『ディア・ピョンヤン』を発表した後、北朝鮮に入国できなくなったけど、映画を通して、一家族の話から国家へと向かって行った。
監督:「南(韓国)出身なのに、なぜ北(北朝鮮)を選んだのか?」「なぜ、お父さんは北朝鮮をあそこまで信じたのか?」「なぜ兄たちは北朝鮮へ行く決心ついたのか?」という質問はよく受けました。 
木村:今では北朝鮮の核実験が問題になっていますが。
監督:帰国運動が盛んだった1959年当時は、核実験反対、亡命賛成だったんですけどね。それと、日本では本国より政治色が強く、北と南の対立が激しかった。北はパラダイス・楽園と言われ、共産主義を信じるかよりも、思想闘争・活動の勝ち負けにこだわった。一種のプロパガンダでした。

〜トークがひと段落し、観客から次回作について聞かれた監督〜
監督:この1年間、『かぞくのくに』のPRで、海外・国内を過密スケジュールで走り回ったので時間がなく、今は何の企画も進めていません。でも構想はあって、次も劇映画。私個人についての話ではないが、在日も日本人も登場する、自分がディテールに詳しい題材にしようと思ってます。
観客:次回作の時代設定は? 
監督:いい質問ですね。本当は昔の時代を描いてみたいけど、あまりに遡りすぎるとお金が…。『かぞくのくに』でも、シーマ(車)や昔の携帯を揃えるのにお金がかかったんです。もっとキャリアを積んでお金を集められるよう頑張ります!投資も大募集中です!(笑)