2007年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した武富健治による原作を基に、どこにでもいそうな平凡な教師が、どこにでも起こり得る問題について過剰に悩みつつ、独自の教育理論によって解決していく様を描き、各方面で波紋を呼んだドラマ「鈴木先生」が、遂に映画化!
制作陣による特別講義が実現! 本日12月5日、原作者の武富健治先生・河合勇人監督・山鹿達也プロデューサー(テレビ東京)が大学に登壇して特別講義を行いました。講義が行われたのは、上智大学文学部の碓井広義教授が教鞭を取る《大衆文化論》。TVドラマをテーマに、ドラマにおけるストーリーを軸にしながら文化論・社会論など幅広く考察していくもので、他学部生徒による受講も多い人気講座だそう。碓井氏は、昨年春のドラマ「鈴木先生」のオンエア開始直後にいち早く新聞で紹介。最も早くドラマに注目をした“一番最初のファン”とも言え、ギャラクシー賞の審査員も務める縁から、その呼びかけにより、約100名の大学生を前に特別講義が実現しました。

日時:12/5(水)13:30〜15:00
場所:上智大学 四谷キャンパス(東京都千代田区紀尾井町7−1)
登壇者:武富健治(原作)、河合勇人(監督)、山鹿達也(テレビ東京プロデューサー)、碓井広義(上智大学文学部教授)

〜原作漫画・TVドラマ誕生について〜
学校という社会をリアルに描いたドラマ「鈴木先生」を観て、碓井広義教授がまず感じたのは“原作者は教師の免許を持っているのか?”ということだったそう。その問いに、武富健治先生は、「(鈴木先生と同じく)中学の国語の免許は持っています。しっかりとした内容を求められる青年誌で漫画を書くにあたって、自分にはそれしか持ちネタがなかったんです(笑) 先生を探偵役に据えてみたら面白いかもしれないということに端を発して、単発から始まり、連載が始まりました。シリーズ化するにあたって、鈴木先生の欠点として、生徒に妄想してしまう要素を付け足していったんです」と、漫画家になっていなかったとしたらやってみたかった第2の職業が国語教師であったことを明かしつつ、原作漫画誕生当時を振り返った。
漫画がTVドラマになるプロセスについて、河合勇人監督は、「2009年に、本屋でたまたまこの漫画を手に取って、先生や生徒がとにかく熱くて。自分の状況を重ねて、キャラクターが沢山汗をかいている感じに共感したんです。これをぜひ映像化したいと思って、ROBOTの守屋圭一郎プロデューサーに持ちかけたら意気投合できました」と振り返る。もともと映画化を目指していた「鈴木先生」だが、濃厚な原作の世界を約2時間という映画の枠に収めるのは難しいため、まずはTVドラマを作ることになったという。そこでドラマを手掛けることになったテレビ東京・山鹿達也プロデューサーは、「2010年、テレビ東京として10年振りにドラマ枠を再開させるに当たって、“社会派エンターテイメントを作ろう”というテーマがありました。「鈴木先生」が描くのはヘビーなテーマではあったけど、企画会議では全会一致でした」とコメントすると、「そういえば当時は、“エッジの利いた”という言葉をよく耳にしました」と河合監督。
武富先生は、「漫画の過激な部分は、ドラマになる時はなくなるんだろうと思っていたんですが、そこが残っていて、ソフトな部分はほとんどなくなっていました(笑)」と振り返ると、「過激な部分を描くことが“スズセン”をやることでしょ?というのは前提としてありましたね」と河合監督。さらに、武富先生は、「脚本を担当した古沢良太さんが、原作のテーマをしっかり理解してくださっていました。
枝葉は違うものになったとしても、観客の元に届いた時に原作と同じテーマが届いてくれればいいと思っていたら、まさにその通りになっています」とドラマの世界観を絶賛した。

〜出演者・スタッフなどについて〜
山鹿プロデューサーによると、キャスティングで一番難航したのは鈴木先生だったそうで、「チャレンジングな作品なので、余りにも有名な方が演じてしまうと、“あの役のあの人だ”という印象を持たれてしまうのはマイナスだと思っていました」と、当時「セカンドバージン」で注目を集め始めていた長谷川博己さんを起用した理由を振り返る。1000人以上によるオーディションにより選ばれた緋桜山中学の生徒達について、河合監督は「子供たちが主役の作品でもあるから、彼らと一緒に取り組む事前の稽古に一番時間がかかりました」と振り返る。また、鈴木先生の実験教室に不可欠なスペシャルファクター・小川蘇美を演じた土屋太鳳さんについては、「オーディションを大分やった中でもイメージに合う子が見つからずに焦っていました。最後の方に彼女がやってきた時は、“あ、来たな”と思いました」と語り、オーディション風景をDVDで観たという武富先生も、曰く「一発でいいな、と思いました」と太鼓判だったそう。ドラマの人気キャラクターである足子先生を演じた富田靖子さんについては、河合監督が「一番ノリノリでやってくださいました。相当内容に惚れ込んでくれていて、“私ならこうやる!”と口紅の色まで指定してきたり(笑)」と語ると、武富先生も「実際に足子先生がいたとしたらこういう感じだろうな・・・というイメージはあったけど、まさにお湯をかけて元に戻してもらった感じです(笑)」と揃って絶賛。
鈴木先生のトレードマークであるループタイについて、武富先生は、「僕の祖父がやっていて、ずっとカッコいいなと思っていたんです。今でこそ若い人たちも使うようになってきたけど、昔は年配の方しか使わないもので・・・。学生の時に1人でループタイを着けて流行らせようと頑張ったけど、誰も付いてきてくれませんでした(笑)」と語り、生徒たちの笑いを誘った。

〜TVドラマから映画へ〜
ドラマの視聴率は、連続ドラマとしては歴代2番目の低視聴率で、碓井教授の言葉を借りると“この視聴率だとプロデューサーの首が飛ぶ”レベルにも関わらず、最終話まで放送され、さらに映画化が実現した。そのことについて、山鹿プロデューサーは、「TVドラマで好評を博したら映画化されるというルールのようなものがあります。このドラマは視聴率の面では振るわなかったけれど、熱烈なファンの方が応援してくれて、インターネットでの書き込みもすごかった。そういう人達のためにもやめられないという想いでした」と映画化への想いを語った。
ドラマから発展形としての映画を作るにあたって、河合監督は、「機材からスタッフまでドラマと全部一緒。映画だから肩に力が入って・・・ということもありがちですが、今回は、ドラマでは描けなかった事件も多いから、それをどう盛り込んで、2年A組を掘り下げていくかというドラマの核を映画でも踏襲したかった」とコメント。

碓井教授は、これまでの講義でドラマの第1話・第2話をフルで生徒に見せているという。講義の途中で、『映画 鈴木先生』の予告編が上映されると、貴重な機会ゆえそれまで真剣な面持ちで話に耳を傾けていた学生たちからどよめきが上がり、笑顔も見られるように。質疑応答の場面では、“生徒たちが抱える問題はどこから来ているんですか?”という質問が武富先生に向けられた。武富先生は、「20歳を過ぎてから30代半ばまでに体験したことを元に、それを中学校に置き換えています。観ている人の心に直接刃を当てたいと思ったから、あくまでも大人の問題として描いています」と説明。その他、“原作者・監督・プロデューサーの3人のうち、誰に一番お金が入るんですか?”といったメディアを志す学生ならではのストレートな質問も相次ぎ、和気あいあいとした講義となった。
最後に3人から学生たちに一言ずつメッセージが語られました。
武富先生「普通のドラマでは味わえない、あえてきめ細かく描くエンターテイメントがドラマになって映画にもなって、より広がりを持ちました。若い頃は、周りの誰も知らないものを自分だけが好きでいる優越感のようなものも持っていたけど、今は、自分がいいと思えるものを皆と共有できたらと思っています」
河合監督「ドラマにはないスケールアップしたアクションシーンも観てみらいたいと思いつつ、セリフをしゃべってない子も細かく演じてくれているから、“今後はこの子を見てみよう”といった風に、何度も観て欲しいです」
山鹿プロデューサー「今の時代、TVは決して安定した業界ではありませんが、ドラマは後の時代にもずっと残っていくもの。予算や時間といった理由で妥協はしたくない。挑戦していくことを改めて教えてもらった作品です」