『家族』、『幸福の黄色いハンカチ』、『息子』、『学校』シリーズ、『おとうと』、そして『男はつらいよ』シリーズで、その時代、時代の家族を見つめ続けてきた山田洋次監督。
監督作81作目となる新作は、日本映画界の巨匠小津安二郎監督に捧げる作品。家族の絆と喪失を描いた『東京物語』から60年—。
山田洋次監督が映画『東京家族』で、今の日本、そして私たち家族の物語を描きます。本作は、2013年1月19日(土)に公開いたします。

そしてこの度、先日発表された本年度の文化勲章で、黒澤明氏、新藤兼人氏に次いで、映画監督として3人目の受章となった山田洋次監督が、Apple Store, Ginzaにて行われるトークイベント「Meet The Filmmaker」に登場致しました。
更に、「オランジーナ」のCMなどを始め、山田監督とも親交の深い電通のCMプランナー・?崎卓馬氏がモデレーターとして出演、山田監督と興味深いトークを行いました。

会場には多くの映画ファンや、将来、映画業界で働きたいと思っている若い学生が詰めかける中、最新作『東京家族』の撮影秘話や山田監督の映画に対する熱い思いが語られました。

【「Meet The Filmmaker」概要】
■日時12月1日(土)15:00〜16:00
■場所:Apple Store, Ginza/アップルストア銀座
(東京都中央区銀座3-5-12 サエグサビル本館)
■登壇者:山田洋次監督
■モデレーター:高崎卓馬(CMプランナー)
※高崎さんの「高」は、正しくは“はしごだか”となります。
文字が環境により表示できないため、「高」を代用文字としています。

【トークショー概要】

高崎さん:山田洋次監督とは、オランジーナのTVCMで『男はつらいよ』のリメイクをしたいというきっかけで知り合ったのですが、最初はコマーシャルは好きじゃないかと思い、相当構えて会いました。
でも、実際には全然壁がなくて驚きました。

山田監督:コマーシャル出身の映画監督も今ではたくさんいるから、僕も興味がありました。ストーリーボードを見て、僕がアイデアを出すと彼がすぐ絵にするので驚きました。僕にとっても楽しい仕事でした。

高崎さん:テスト撮影を行ったのですが、監督は演技も実際に人が動く動きの延長線にないと駄目だとおっしゃられた。ストーリーを作る人の都合ではなく、リアルをつかまえて人を動かしていくというのを勉強させていただきました。

山田監督:出来るだけこの登場人物だったらどうするかというイメージを広げながら、登場人物にいつも質問をしながら作っていかなくてはいけないと思っています。

高崎さん:監督はとても多くの映画を撮られていますが、作り続けるモチベーションはどこからやってくるのでしょうか?

山田監督:僕も監督生活50年と言われて驚いたのだけど、豆腐屋は豆腐を作るのが生業で、僕は映画を作るのが生業だから、本や新聞を読んでいても常に映画の事を考える仕組みになっているんです。豆腐屋が、いい豆腐を作りたい、お客さんの喜ぶ顔を見たい、求めてくれるお客さんに変わらない味を届けたい。変わらない一方で、いつも新鮮なものを味わえるようにしたいと思いながら豆腐を作るのと同じように、映画作りにおいても同じ事をいつも心に言い聞かせています。

高崎さん:撮られた映画の多くが、“家族”がテーマになっているように感じるのですが?

山田監督:意識はしていないのですが、自然と同じテーマを選んでいます。
僕も小さい頃の家族を再生したいという、家族への憧れが強くあるから、結果として“家族”の映画になっているという事じゃないかな?

高崎さん:監督は自分自身を映画の中に投影されているのでしょうか?

山田監督:登場人物一人一人に自分を投影しているわけではないですが、映画の中には結果として僕が入っていると思います。

高崎さん:なぜ今、小津安二郎監督の『東京物語』を基に、『東京家族』を撮られたのですか?

山田監督:『東京物語』の地方で暮らす両親と東京で暮らす子供達というフレームを使うと、今の家族を描けるのではないかと思いました。
「ロミオとジュリエット」のフレームもあれば、「ハムレット」のフレームもある中で、僕は『東京物語』のフレームを使ったという事です。

高崎さん:『東京物語』と『東京家族』は違う印象を受けましたが、作る時にどこをポイントにしていたのでしょうか?

山田監督:『男はつらいよ』では寅が突然戻ってきて家族に騒動が巻き起こる、『東京家族』でも両親が地方から上京してきて、東京で暮らす子供達にとっては日常と違う事が巻き起こる。そうすると家族が描けるのではないかと思いました。

高崎さん:実際には、ドキドキする話題というものは日常にあるものなのかもしれないですね。

山田監督:何か特別な大きな出来事にドキドキするよりも、日常にあるような小さな事でドキドキするのを描く方が好きです。

高崎さん:その感覚はどこで学んだんですか?

山田監督:松竹の撮影所で学びました。当時撮影所では、小津監督が指揮されていて、家族を描くという社風があった。それが自然と今の『東京家族』にも反映されているという事でしょうね。

高崎さん:最後に皆様にメッセージをお願い致します。

山田監督:僕が青年の頃は、映画で勇気づけられたり、人生を学んだり、そういう気持ちを感じながら映画を見ていました。今、全ての皆さんがそういう思いで映画を見ているとは限らないですが、そういう映画を作れたらいいと思います。

そして、劇場がもっと活気が溢れた状態であって欲しいと思います。
スクリーンと観客の気持ちが行き来するような、隣の人と笑い合い、涙し合う事を確認して喜べるような、そんな映画を作りたいと思っているので、出来れば映画を映画館で見て欲しいと思います。