本作は、3.11以降、様々な形で語られてきた<震災>を、より“子供”と“女性”に寄り添う形で、ひるむことなくわたしたちの「これから」を語る物語。同じマンションに暮らす2組の家族を通して、誰もが感じている、情報や放射能といった「目に見えないもの」への不安や苛立ちを掬い取り、絶望のうちに希望を見出す姿を鮮烈に描いています。 『歓待』につづいてプロデューサーも務めた杉野希妃と『苦役列車』等の篠原友希子が、葛藤しながらも強くなっていく2人の女性をしなやかに演じきります。
 さて、このたび開催されました第13回東京フィルメックス映画祭に本作監督の内田伸輝とキャストの杉野希妃、篠原友希子、山本剛史、渡辺杏実が登壇し、舞台挨拶とQ&Aをおこないました。

11月29日(木) 有楽町朝日ホール にて
登壇者/内田伸輝監督、出演:杉野希妃、篠原友希子、山本剛史、渡辺杏実

●上映前舞台挨拶●

Qまず、皆様から一言ずつご挨拶をお願いします。
内田伸輝監督(以下、内田):様々な、本当に色々な想いがあってこの映画を作りました。
杉野希妃(以下、杉野):この作品はテーマがテーマだけに悪戦苦闘して作りました。
今、日本は転換期を迎えていると思います。この映画を見終わった後で、好き嫌いに関わらず、色々と議論していただけたらと思います。
渡辺杏実:監督さんが優しかったです。
篠原友希子(以下、篠原):重いテーマですが、楽しんでもらえたらと思います。
山本剛史(以下、山本):この作品は始まりから終わりまで、内田監督の叫びが詰まった作品です。みなさんにそこを感じ取ってもらえたら、これ以上幸せなことはないと思います。

Q篠原さんは今回、ユカコというとても繊細な女性の役柄を演じられましたが、どこかご自身を重ねあわせるところはあったのでしょうか?
篠原:この話をいただくまでは放射能を気にしたり、自主的に調べたりはあまりしていなかったのですが、監督から情報をいただいたり、自分でPCや本などで調べ始めてからは、どんどん気になりだしました。撮影が始まったときと終わった後の自分が全然違っていて。だんだんユカコと自分が分からなくなっていきました。

Q山本さんは沢山の映画でとても個性的な役柄を演じてこられましたが、今回は一転してシリアスな役どころを演じられて、大変だったところはありましたか?
山本:今回は優柔不断な旦那さんの役なのですが、そういった役を演じることが今までほとんどなかったものですから、そこは大変でした。篠原さん演じる妻役のユカコが、けっこう感情爆発型の人間なのですが、私生活に於いてあまりそういう人と喋った経験がなかったので戸惑ったのですが、内田監督に上手く修正してもらいつつ演じられたかなと思います。

●上映後Q&A●
Qまず、内田監督からみなさんに一言お願いいたします。
内田:この映画は、僕自身が3.11を東京で経験し、「このままで大丈夫なのだろうか?」という不安感を抱き、この映画を作らないと次の映画は作れない。どうしてもこの映画を作らないといけないという思いから出来上がりました。今まではプロットのみの即興演技を撮影していましたが、今回はプロデューサーの杉野さんと話しあい、脚本を第10稿まで重ね、それを撮影段階では即興で演じるという方法で撮っていきました。

Q杉野さんは、この映画は内田監督からオファーがあってプロデューサー兼女優として参加することになったそうですが、内田監督とのコラボレーションについてお聞かせいただけますか?
杉野:2011年のロッテルダム国際映画祭で監督と初めてお会いしたのですが、その2ヶ月後に震災が起こり、6月に私の製作会社にお話をいただきました。最初にいただいたプロットではユカコとタツヤ、2人だけのお話だったんですね。何に惹かれたかというと、福島ではなく、東京を舞台にしたところ。そういった作品はこれまでなかったですし、私自身、被災地や原発から微妙な位置にある東京は、人としての在り方を問われる場所だと感じていましたので、東京でフィクションを撮る意義はあると思いました。

Q最初はユカコとタツヤの話だけだったと伺いましたが、どういった経緯で最終的に2組の夫婦の話になったのでしょうか?
内田:僕自身、それまで胸の中にあった「子供を持つお母さんの話」を描かないと、この映画は成立しないんじゃないかと思っていたのと、東京で杉野さんと打ち合わせをした際に、杉野さんに「どういう役がやりたいですか?」と聞いたところ、彼女も「お母さん役をやりたい」とおっしゃってくださったことから、サエコとノボルというキャラクターが生まれました。

Q「脚本があって即興」という演技とはどのようなものだったのでしょうか?
内田:僕は脚本というのはキーワードだと思っているので、脚本上ではセリフをきちっと書いてあるのですが、現場で役者さんには、セリフは一度すべて忘れて、自分の感情のまま即興で喋ってくださいと指示しました。テイクワンが一番良い可能性が高いので、リハーサルもまったくおこなわず、いきなり本番で撮影していきました。

Q9日間での撮影、またリハーサル無しということで、緊張感のある現場だったと思いますが、テイクワンですぐに役柄に入っていけたのでしょうか?
杉野:自分で演じていてもテイクワンが一番良かったりするんですよ。ナチュラルな気持ちで演じられるので。監督は長回しをされていて、たとえば、サエコがユカコの部屋に突然現れるシーンは5シーン1カットで撮っています。内田監督のやり方というのは、シナリオはあるんだけれどそれを破壊して、同じようになぞっていくんだけれども即興が入る、というものなのですが、私としてもすごく挑戦的な体験でした。

Q震災や放射線は賛否両論を巻き起こす問題だと思いますが、この映画によってこの問題に関心を持ってもらうこが、この映画を作られた一番の目的なのでしょうか?
内田:あるお母さんが「未来を奪われた」とおっしゃっていたのですが、この映画は未来を取り戻すための映画だと思っています。コミュニケーションのないまま先に進むのではなく、未来を取り戻すためにどうするか。そういう想いでこの作品を作りました。