10月20日(土)公開『希望の国』の園子温監督が、10月13日(土)早稲田大学にて文化構想学部表象・メディア論系主催の<原発映画をテーマに監督と語る!
早稲田大学 学生試写会>に参加しました。

近未来の日本社会で再び原発事故を含む大震災が起こった時、日本の人々はその後の社会をどう生きようとするのか。老夫妻、妊婦、若い恋人たちなどの様々な生き方が描かれている『希望の国』を題材に早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系の若い学生の皆さんからの熱い質問に園監督が答えました!

──『希望の国』の試写と園監督のトークが行われた教室は、満杯の生徒の熱気でもはや酸欠寸前の状態! 映画鑑賞後、学生たちからは、この映画を作るに当たって園監督は何を目指したのか、今までの映画との違いは何なのか? 映画館から出た後に日常に戻り映画で描かれたことを忘れてしまう観客に対して、社会問題を映画で描くことの虚しさはないのか? などなど矢継ぎ早に質問が飛び交った。非日常は映画にしかないと、虚しさを語る女子学生に「映画だけでなく本を読んでもその後に虚しくなることはあるし、いつでも虚しさはある。

映画で非日常を描いても描かなくても同じで、非日常というのは自分が、気づくか気づかないだけなんです。そういう鈍感さは怠惰な日常に潜んでいる。非日常は自分で引き出さないといけない。今日から『恋の罪』を実践すればいい」と語りかけた。予定時間をオーバーするトークイベントの最後に男子学生が、スクリーンに映る2匹の犬のことを話すと、園監督は思わぬ秘話を語りだした。「実は、犬のオーディションを行った時に、ものすごいオーラを放つ1匹の犬がいて、なんとそれがソフトバンク犬だったんです。

僕は思わず駆け寄って『会いたかった』と握手して2ショット写真も撮りました。でも隣の家の犬ペギーの役がソフトバンク犬では、ちょっと目立つと思ったので今回はやめにして、次回きっと君を映画に出す、一緒に映画を作ろうねと約束したんです。でも最後に犬が映り込むシーンで、白い犬が映ったので、あれだけ映画に出たがっていたソフトバンク犬かなと思ったんです。でも一緒に映画を作ろうと言ったので、その約束は守らないとね」と秘話を披露し、学生たちの爆笑を誘った。

この映画でマーラーの音楽に感動を突き付けられた学生からの「この映画には、感動と胸をえぐられる気持ちが同時にあります。感動と問題提起の両方をやっているんですね」という話に、園監督は「感動にはいろいろあって、今の日本映画ではなぜか泣けるということが感動ということになっています。でも黒澤明さんや今村昌平さんらは泣かせる映画を作ってはいなかった。昔、巨匠は泣かせるために映画を作ってはいないんです。僕は、2012年に原発のことを少し考えるという感動を引き起こしたかっただけです。

もし自分が福島に住んでいたらこういう気持ちになるのだ、という感動を感じてほしかった。マーラーの音楽は曇り空にうっすら陽がさしてくるイメージです。でも、スクリーンはあなたの気持ち次第。観る側によって希望にも絶望にもなる。僕は、映画は巨大な質問状だと思っているんです」と語り、メディア論を学ぶ学生たちは神妙に聞き入っていた。