薄曇りから晴れ間が広がり始めた映画祭終盤の25日。今年も世界中から映画祭に集ったジャーナリストと、長編コンペティション部門の審査員たちをカンヌ市の市長が招待し、野外で南仏の伝統料理を饗する“プレス・ランチ”が開催された。

◆カンヌ市長がジャーナリストを招待する恒例の“プレス・ランチ”が好天の下で開催!

 “プレス・ランチ”の会場は、市内を一望できる旧市街地の高台にあるカストル博物館前の広場。毎年、地方色豊かな伝統衣装に身を包んだ市民たちが立ち並んで音楽を奏でる中、市長自らが参加者を会場入り口でお出迎えするアットホームな雰囲気の催しで、長テーブルがずらりと並ぶ様は壮観ですらある。メイン料理は魚のタラとゆで野菜のアリオリ(ニンニクソース)添えというプロヴァンス地方の伝統料理。ロゼと白のワインは飲み放題だし、前菜やデザート&コーヒーまでもが振る舞われる。その上、お土産として映画祭のラベルが張られた特製オリーヴ・オイルが配られるという太っ腹なイベントで、ハードスケジュールをこなさねばならぬ報道陣にとっては、一息つける楽しい場になっている。また、この催しには長編コンペティション部門の審査員たちも招かれており、ランチに参加した報道陣に対して写真撮影時間も設けられるので、審査員たちのカジュアルなサマー・ファッションを捉えられる貴重な場でもある。
 さて、天候が心配された今年のランチだが、この時ばかりは好天に恵まれ、主催するカンヌ市長も安堵の表情。ナンニ・モレッティ審査委員長率いる審査員たちが顔を揃えるや笑顔で出迎え、審査員たちもリラックスしたムードで談笑していたのが印象的であった。

◆若松孝二監督の『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』が登場!

 “ある視点”部門の上映作は、通常マチネと呼ばれる昼の上映と正式上映となるソワレの2回、上映されるのだが、若松孝二監督の『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』はマチネは14時から、ソワレは、またもやぐずついた天気の下、22時からの上映となった。
 『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(6/2より公開)は、「仮面の告白」「金閣寺」「憂国」など、数々の名作を執筆し、文豪として確固たる地位を築きながらも、民族派の学生たちと民兵組織“楯の会”を結成した三島由紀夫が、1970(昭和45)年11月25日に、防衛庁内で壮絶な割腹自殺をするにいたるまでの道のりを映画化した作品だ。
 学生運動全盛期の1968年、文筆業の傍らで“楯の会”を結成し、有事の際には自衛隊と共に決起しようと訓練に励んでいた三島由紀夫だが、警察権力の前に自衛隊は出動の機会すらないことを知った“楯の会”の若者たちは落胆する。苛立ちを募らせた三島由紀夫は、防衛庁内に籠城し、自衛隊にクーデターを呼びかけるも失敗。三島は側近の森田必勝と共に自決し、その事件は日本中を震撼させた。
 アバンギャルドな映画監督して知られ、1971年に自作が“監督週間”部門に招待されてから、実に41年ぶりのカンヌ出品となった若松孝二監督は、出演俳優の井浦新(三島由紀夫役)、満島真之介(森田必勝役)と共にカンヌ入りし、ソワレの上映前に舞台挨拶を行った。深夜におよぶ上映にも立ち会った3人は上映後、日本人報道陣向けの囲み取材に応じてくれた。
 “三島事件”について若松孝二監督は、「現代で腹を切るっていうのは、やっぱりすごいよね。俺には出来ない。だから、映画を撮った」とコメント。本作の出演を機に芸名をARATAから本名に戻した井浦新は、「三島さんを演じた役者の名前が、最後にアルファベット表記で出てくるのを、僕がお客さんだったら見たくないと思ったんです」と述べ、新境地に挑んだことを明かした。
(記事構成:Y. KIKKA)