映画祭10日目の25日(金)。“コンペティション”部門では、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『コズモポリス』とウクライナのセルゲイ・ロスニツァ監督作『イン・ザ・フォッグ』が正式上映。“招待作品”部門では、脚本家としても名を馳せる名匠フィリップ・カウフマンが、有名作家アーネスト・ヘミングウェイと彼の妻マーサ・ゲルホーンの関係をクライヴ・オーウェンとニコール・キッドマンの共演で描いた『ヘミングウェイとゲルホーン』が上映された。また、“ある視点”部門には、若松孝二監督の『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』が登場。監督第1作目&2作目を対象とする併行部門の“批評家週間”は、本日で開幕!

◆現代アメリカを代表する作家ドン・デリーロの同名小説を鬼才監督が映画化した問題作『コズモポリス』!

 カンヌの常連監督であり、1999年には“長編コンペティション”部門の審査委員長を務めたカナダの巨匠デヴィッド・クローネンバーグの4度目のコンペ作となる『コズモポリス』(フランス・カナダ・ポルトガル・イタリア合作)は、格差が広がり、富裕層と貧困層に二極化したニューヨークのマンハッタンを舞台に、28歳にして億万長者となり、巨大な白いハイテク・リムジンの車中から相場のチェックを秒単位で行う投資家の青年エリック(ロバート・パティンソン)が、24時間で凋落する姿を通して“現代社会”の危うさをエキセントリックに描き出した近未来SFサスペンス。主演は、世界中のティーンを熱狂させている『トワイライト・サーガ』シリーズの人気俳優ロバート・パティンソン。共演にはジュリエット・ビノシュ、サマンサ・モートン、サラ・ガドン(巨匠の息子ブランドン・クローネンバーグの監督デビュー作『アンティヴィラル』にも起用されたカナダ期待の若手女優)、ポール・ジアマッティ、マチュー・アマルリックと、実に国際色豊かな顔ぶれを配した意欲作だ。
 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた本作の公式記者会見にはデヴィッド・クローネンバーグ監督、原作者のドン・デリーロ、出演俳優のロバート・パティンソン、ポール・ジアマッティ、サラ・ガドン、エミリー・ハンプシャー、製作者のパウロ・ブランコとマーティン・カッツが登壇したのだが、絶大な人気を誇るトップアイドル、パティンソン目当ての記者が殺到し、満員御礼状態に。司会者が逸る報道陣に対して「吸血鬼関係の質問はお断りですよ(笑)」と異例の釘をさしてから、会見が始まった。
 原作者であるドン・デリーロは「脚本に関して、私は一切ノータッチだった。だから映画がここまでの良い仕上がりになったんだと思うよ」とコメント。一方、脚色を自ら手掛けたデヴィッド・クローネンバーグ監督は、「パウロ・ブランコが送ってくれた原作をトロントで受け取り、2日後には映画化に関わりたいと思った。自分としても最短記録である6日間で脚本を書き上げることができたのは、原作の美しいセリフのおかげ。原作は構造も素晴らしく、会話も完璧だったからね」と原作小説を絶賛。また、多くのシーンが密室ともいえるリムジン内で展開し、哲学的会話が繰り出される本作における役作りについて問われたロバート・パティンソンは、「ホテルの部屋で15日間、不安な気持ちを抱え、自分がどんな状態なのかさえもう分からなくなってしまったよ。で、監督のところへ話をしに行ったら、“まずは始めよう、やってみれば分かるさ!”と言われ、吹っ切れたんだ。セリフは感情あふれる詩的なモノだったので、まるで歌を歌っているような印象だったね」と返答した。
(記事構成:Y. KIKKA)