映画祭9日目の24日(木)。“コンペティション”部門では、アメリカのリー・ダニエルズ監督の『ザ・ペーパーボーイ』、メキシコのカルロス・レイガダス監督の『ポスト・テネブラ・リュクス』が正式上映。“特別上映”部門では、共同監督3人によるドキュメンタリー映画『ザ・セントラルパーク・ファイヴ』を上映。“ある視点”部門には、フランスの女性監督カトリーヌ・コルシニによる『ラヴリー』が登場した。また、夜の浜辺で寝転びながら屋外スクリーンで名作映画を無料で鑑賞できる“シネマ・ドゥ・ラ・プラージュ”がやっと楽しめる天気になった今宵は、あのスティーヴン・スピルバーグ監督の大ヒット作『ジョーズ』が21時半から上映!

◆『プレシャス』の気鋭監督リー・ダニエルズの『ザ・ペーパーボーイ』には豪華キャストが集結!

 長編第2作目の『プレシャス』を2009年の“ある視点”部門に出品して脚光を浴び、オスカーレースでも高い評価を得た気鋭監督リー・ダニエルズのコンペ初参戦作『ザ・ペーパーボーイ』は、ピート・デクスターの小説を映画化したクライム・サスペンスで、原作者自身とリー・ダニエルズ監督が共同で脚色。1960年代末期の世相を背景にした爛れた人間模様を描き出し、時代の気分と風土色を見事に掬い取って見せた異色の人間ドラマだ。
 1969年のフロリダ。魅惑的な女性シャルロットの依頼を受け、友人を伴って帰郷した新聞記者ウォードは、弟のジャックとともに、保安官を殺害した死刑囚ヒラリーの調査を開始するが、やがてシャルロットの妖しい誘いにはまった兄弟は……。
 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた公式記者会見にはリー・ダニエルズ監督、ザック・エフロン(ジャック役)、マシュー・マコノヒー(ウォード役)、ニコール・キッドマン(シャルロット役)、ジョン・キューザック(ヒラリー役)らが登壇。
リー・ダニエルズ監督は、「この映画には真実が含まれている。マーシー・グレイが演じたアニタ役は、僕自身の体験から着想を得た人物なんだ。僕の家族は白人の家の使用人として働いていた。登場人物は全員、僕の人生に実在した人々だと言えるんだ」とコメント。
 放尿シーンを始めとする数々の過激シーンに果敢に挑み、堂々たる体当たり演技を披露したニコール・キッドマンは、「これほど生々しく演じるには、役と強く一体化しなければならなかったわ。自分自身の感情を殺し、役に向きあうのが私の仕事なの。どの場面の撮影に対しても、探求し続けたわ。コントラストと多様性を求め、自分の想像力を駆使して表現するのが好きだから、私は女優になったのよ」と貫禄の発言。また、ニコール・キッドマンと激しい濡れ場を演じたザック・エフロンは、「ニコール・キッドマンとの共演は最高で、夢のようだった」と述べ、自身の役については「僕が演じた役は世間知らずの若い男で、世の中をちゃんと理解することを学んでいく。僕は監督が好きに使えるまっさらな紙だったんだ。今後もこのような作品に関わりたいと願っている」と脱アイドル宣言。そして、当時、特にアメリカ南部で白眼視されていたゲイの男性を演じ切ったマシュー・マコノヒーは、「全てがミステリアスな映画なんだ。表面上に現れることも沢山あるが、それぞれの登場人物は自身のアイデンティテに苦しんでいる。エロティックな一面もある映画だが、リー・ダニエルズ監督は行間にあるものを見せることが得意なんだ」と語った。

◆ウクライナのセルゲイ・ロスニツァ監督による『イン・ザ・フォッグ』は、コンペ作の中で唯一のロシア語作品!

 19時半からはプレス向け試写でコンペ作の『イン・ザ・フォッグ』(正式上映は25日)を鑑賞。セルゲイ・ロスニツァはドキュメンタリー畑出身の監督で、2010年の初長編劇映画『マイ・ジョイ』がカンヌのコンペに初選出。続く本作で2度目の参戦となったロシアの気鋭監督だ。ドイツ、オランダ、ベラルーシ、ロシア、ラトビアの合作映画である『イン・ザ・フォッグ』は、ベラルーシ出身の作家ワシリー・ブイコフの小説を映画化した秀作で、第二次世界大戦中にナチス協力者の濡れ衣を着せられ、2人のパルチザンに追われる羽目になった鉄道員の物語だ。
 1942年、ドイツ軍の占領下にあるソ連の西側国境近くの寒村。パルチザンと共にドイツ軍に捕らえられるも、たった1人だけ無傷で釈放された鉄道員は、レジスタンス組織のパルチザンから裏切り者と見なされ、村八分状態に追い込まれる。やがて深い森の中に連れ込まれて殺されそうになった彼は……。自らの道徳心に従って生きようとした主人公の苦渋の決断を先の読めない謎めいた展開と独得の映像美で描き出した作品で、“諦観の境地”を見事に表現した主演俳優の演技にも引き込まれた。
(記事構成:Y. KIKKA)