映画祭7日目の22日(火)。期間中、一番の寒さながら、天気は回復傾向に! “コンペティション”部門では、アンドリュー・ドミニク監督のアメリカ映画『キリング・ゼム・ソフトリー』とイギリスの名匠ケン・ローチ監督の『ザ・エンジェルズ・シェアー』が正式上映された。特別上映部門では、3本のドキュメンタリー映画が上映され、“ある視点”部門には、ベルギー&フランスの合作映画2本が登場!

◆ブラッド・ピットが主演したコンペ作『キリング・ゼム・ソフトリー』の公式記者会見場前は、黒山の人だかりに!

 8時半から上映された『キリング・ゼム・ソフトリー』は、ニュージーランド生まれの俊英オーストラリア人監督アンドリュー・ドミニクの3作目にしてカンヌ初参戦となるクライム・サスペンス。本作は監督の前作『ジェシー・ジェームズの暗殺』でタイトルロールを演じ、ヴェネチア国際映画祭男優賞に輝いたブラッド・ピットと再びタッグを組み、ジョージ・V・ヒギンズの犯罪小説「コーガンズ・トレード」の映画化に挑んだ意欲作だ。
 原作は1970年代のボストンの物語だが、映画は2008年のハリケーン・カトリーナ上陸後のニューオリンズに舞台を移し、実際の政治&経済ニュース映像を随所に織り込みながら、シニカルな味付けを施した快作で、ブラッド・ピットは、ギャングが仕切るポーカーゲームの賭場から大金を強奪した連中を追い、その落とし前をつけるビジネスライクな闇の仕事人ジャッキー・コーガンをクールに演じている。
 朝の上映に引き続き11時から行われた公式記者会見には予想通り報道陣が殺到。なかには朝の上映をパスして1時間以上も前から会見場前に並ぶ記者もおり、それでも入場できなかった記者たちからは怨嗟の声が上がった。
 会見には、アンドリュー・ドミニク監督、ブラッド・ピット、スコット・マクナイリー(フランキー役)、ベン・メンデルスゾーン(ラッセル役)、レイ・リオッタ(マーキー役)らが登壇。現在のアメリカの経済的、政治的危機を風刺的に描いた本作について、アンドリュー・ドミニク監督は「原作の登場人物たちが素晴らしいと思った。この小説は犯罪の特質を描いているんだよ。そして映画化に取り掛かった時、この物語は経済危機、そして資本主義の物語でもあると気が付いたんだ。それは永遠の物語なのさ」と語り、問題視されがちなバイオレンス描写については「映画の中でのバイオレンスは好きだよ。バイオレンスなくして、どうやったら悲劇を描写できるんだい? グリム兄弟の童話における“残酷さ”が、子供たちにメッセージをちゃんと伝えているのと同じことだよ」とコメント。
 一方、映画では黒革のジャケットを羽織り、髪をオールバックにして登場する始末人を飄々と演じたブラピは、自身の役柄について、「人種差別主義者を演じるよりは殺人者の方が苦痛を感じないね。それに、ジャッキーは殺す相手が苦しまないように、より優しい方法で殺そうとする。どうせ人はいつかは死ぬわけだし……。この視点は、情け容赦ないビジネスの世界に呼応しているんじゃないかな」とコメント。また、4月に正式に婚約し、今回は新作の準備でカンヌ入りしていないアンジェリーナ・ジョリーとの結婚式の日取りを聞かれると、「色々な噂が出ているけれど、まだ日取りは決まっていない。どの州で結婚許可証をもらうかにもよるからね」と、笑顔で返答した。
 当然ながら、19時半からの『キリング・ゼム・ソフトリー』の正式上映(ソワレ)時のメイン会場付近はものすごい黒山の人だかりに。大物スターのオーラはさすがで、天気さえも味方につけたブラピ(晴れ男?)は、大歓声が沸き起こる中、スマホ片手に余裕の笑みを見せつつレッドカーペットに登場。フラッシュの大洪水を浴びる中、監督のアンドリュー・ドミニクとともに周囲にカメラを向けて撮影合戦を繰り広げていた。
(記事構成:Y. KIKKA)