先日 8 月 30 日現地時間 12:00 よりヴェネチア国際映画祭の特別招待部門にて正式出品された黒沢清監督作の『贖罪』の記者会見及び公式上映が無事終了、今年のヴェネチアで開催一発目の日本人監督による作品の登場に、ヨーロッパから集まった映画人達が 4 時間半の”黒沢マジック”を堪能しました。

今回、ヴェネチアにて上映された本作は、WOWOW で 2012 年 1 月 8 日からオンエアされた全 5 話からなる連続ドラマを 270 分の長編映画として再編集した、インターナショナルバージョン。
主演の小泉今日子を始め、蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴らの豪華女優陣が各エピソードで見事な競演を果たしている。今回は、このドラマの評判を聞いた世界各国の映画関係者らの強い要望により映画としての再編集が実現、ヴェネチアでのワールド・プレミアとしての公式出品をはじめ、現在もなお各国の映画祭からのオファーが後を絶たない。

今回の記者会見には、単身でヴェネチア入りした黒沢清監督が登壇、製作の経緯をこう述べた。「湊かなえさん(原作者)の作品はとても女性的で、主な読者も女性なんだと推測しますが、男性の私にとってはあまりなじみもない原作と思いながらも、とても愉しんで作ることができました。特に前作の『トウキョウソナタ』でご一緒していた小泉さんと香川さんの再競演など、その二人が演じてくれているそのエピソードにも思い入れがあり、この映画は私自身の過去作品の”その先”を探り出すような思いで作ることができました。」

また、この作品をテレビドラマとして製作されたにも関わらず、映画として再編集した経緯については「撮影をした当時は、テレビや映画を意識してとってはいなかったので正直、このように映画として世に出ることになったことはとても嬉しく思っています。本作を正式出品作としてこの長尺にも関わらず選んでくれたベネチア国際映画祭は寛大で冒険的な映画祭だと、改めて懐の広さに感激しています。」と述べた。

記者会見場では、外国のメディアから「個人と社会を対立させるということが軸になっている小説を元に作られていると理解しているが、何故日本の社会ではこの映画のように個人の存在が社会と対立するような事件がおこるのか」という質問が挙がり、黒沢監督は「日本に住んでいる自分でもわからない日本の社会構造は、新聞や報道で見えてくる報道とは異なるものが隠れていると思う。」とこの映画の醍醐味と重ね合わせて記者会見を締めくくった。その後、14:30(現地時間)からは、約 1,700 人が収容できる映画祭期間中だけの特別施設で上映され、上映後には会場内にいた黒沢清監督に大きなスタンディング・オベーションがおきるなど、海外の映画祭経験が豊富な黒沢監督も、今回の上映には大きく心を揺さぶられたようだ。

本作は 8 月 24 日より DVD のセル&レンタル中。