映画祭4日目の19日(土)。時折の雨に見舞われた今日も肌寒く、まったくカンヌらしくない。本日、“コンペティション”部門で正式上映されたのは、アメリカ映画の『ローレス』とルーマニア映画の『ビヨンド・ザ・ヒルズ』。“ミッドナイト・スクリーニング”部門では、イタリアの鬼才監督ダリオ・アルジェントの3D映画『ドラキュラ』が、“ある視点”部門ではブランドン・クローネンバーグ監督の『アンティヴィラル』などが上映されている。また、著名な映画人が講演を行う“マスタークラス”にはアレクサンドル・デプレーが登場した。

◆ジョン・ヒルコート監督の小気味よいコンペ作『ローレス』に出演した旬の人気スターたちが揃ってカンヌ入り!

 『ローレス』は、禁酒法時代のアメリカ南部の町を舞台に、密造酒の製造販売を行いながら、腐敗した警察に立ち向かった実在の伝説的3兄弟を姿を描いた西部劇タッチのクライム・ムービー。英国出身で人気急上昇中の俳優トム・ハーディが扮した長男のあまりにもの“不死身っぷり”に、会場から拍手が沸き起こった快作だ。朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた公式記者会見にはジョン・ヒルコート監督、有名なシンガー・ソングライターで、本作の脚色と音楽を手掛けたニック・ケイヴ、3兄弟を演じたトム・ハーディ、ジェイソン・クラーク(次男役)、シャイア・ラブーフ(三男役)、さらには共演のジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、ガイ・ピアース、デーン・デハーンが出席。
『ザ・ロード』で脚光を浴び、カンヌ初参戦となるオーストラリア出身のジョン・ヒルコート監督は、「当時のアメリカのこの地域がいかなるものだったかを理解したいと思ったので、セルジオ・レオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』と『俺たちに明日はない』を少しばかり参考にした。特に映画製作の技術面と物語の両面においてね」と語り、原作本の魅力を問われたニック・ケイヴは「本の雰囲気が好きだね。そして恋愛と過度なバイオレンスが織り交ざった点に強く惹かれた」とコメントし、愚問に対しては声を荒げ、気炎を吐く姿が印象的であった。また、奇妙に撫でつけた髪型で登場する悪役を怪演したガイ・ピアースは、その人物像を「すべてを嫌う、虚栄心が強い男なんだ。世間に対しても暗いビジョンを持っている。その外見も同様で、彼は周囲を軽蔑の眼差しで見つめている人物なんだ」と、鮮やかに分析してみせた。

◆クリスティアン・ムンジウ監督のコンペ作『ビヨンド・ザ・ヒルズ』はルーマニアとフランスの合作映画

 昨晩のプレス向け試写で観た『ビヨンド・ザ・ヒルズ』は、2007年に『4ヶ月、3週と2日』をコンペに出品し、ルーマニア映画初のパルムドール受賞という快挙を成し遂げた気鋭監督クリスティアン・ムンジウ待望の新作で、実話を基にしている。かつて、同じ孤児院で育ち、友情以上の感情で結ばれていた若い女性2人が再会する。出稼ぎ先のドイツから戻ったアリーナは、今や修道女となり、信仰に生きるヴォイチタの心を取り戻そうとするが……。今回も若い女性2人の心理の微妙な変化を見事に捉えて描写した痛々しい作品だが、『4ヶ月、3週と2日』ほどのインパクトを感じなかったので、12時半から始まる公式記者会見はパス。昼食時間を確保して、14時からの『アンティヴィラル』を鑑賞することに。

 『アンティヴィラル』は今回、『コズモポリス』でコンペに参戦しているカナダの巨匠デヴィッド・クローネンバーグの息子で、32歳になるブランドン・クローネンバーグの監督処女作! 病気になった有名人のウィルスを培養してファンに売ることがビジネスとして成立している近未来社会を舞台に、売り手の立場にありながらも自ら変死した女優のウィルスを体内に取り込んで変調をきたす青年の運命をスタイリュッシュな映像で描いた異形のSFスリラーで、監督デビュー作とは思えない出来映え。父親のDNAを見事に引き継いだ、まさに“親子鷹”で、今後の活躍が実に楽しみである。

 夕方は原稿の執筆に追われ、19時半からはプレス向け試写でコンペ作の『ザ・ハント』(正式上映は20日)を鑑賞。1998年のドグマ映画『セレブレーション』で審査員賞を受賞したデンマークのトマス・ヴィンターベア監督による人間ドラマで、主演はマッツ・ミケルセン。これが期待に違わぬ秀作だった。物語を丸く収めない監督のセンスに感服しつつ、その余韻を引き摺りながら向った先は、メイン会場近くの高級ホテル、マジェスティック・バリエール。22時から催された”ジャパンナイト”パーティの取材で、主催は東京国際映画祭とTIFFCOM2012。このパーティの席上では、今年で25回目を迎える東京国際映画祭と、新会場で催されるマーケット(TIFFCOM)の基本方針、開催概要が依田チェアマンより説明された。
(記事構成:Y. KIKKA)