映画祭3日目の18日(金)。“コンペティション”部門では、イタリアのマッテオ・ガローネ監督作『リアリティ』とオーストリアのウルリッヒ・サイドル監督作『パラダイス:ラブ』が正式上映。“招待作品”部門では人気アニメシリーズの第3弾『マダガスカル3』が、“特別上映”部門には2人の映画作家、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督とドイツのファティ・アキン監督が撮ったドキュメンタリー2本が登場。“カンヌ・クラシック”部門では、デジタル・リマスター化された名作2本、木下惠介監督の『楢山節考』とセルジオ・レオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』が、そして“ある視点”部門では気鋭の若手監督2人の作品が上映されている。

◆2008年の前作『ゴモラ』でグランプリに輝いたマッテオ・ガローネ監督は今回、意表をつくブラック・コメディでコンペに参戦!

 イタリア映画界の期待の星マッテオ・ガローネ監督の前作『ゴモラ』は、イタリアのナポリに拠点を置く巨大犯罪組織「カモッラ」の実態を赤裸々に暴き、5つのエピソードで綴った衝撃の社会派ドラマだったが、今回の『リアリティ』は、ナポリの市場で鮮魚店を営む中年男(アニエロ・アレーナ)がアメリカのTV番組を模したイタリア版“リアリティ・ショー”に出演することを熱望した挙げ句、常軌を逸した行動に走り、やがて妄想に取り憑かれて壊れていく姿をシニカルかつ生々しく描いたブラック・コメディだ。
 22時半から始まる夜の正式上映に先立ち、午前11時から行われた公式記者会見には、製作・監督・脚本を兼任したマッテオ・ガローネ、『ゴモラ』でも組んだ3人の共同脚本家、作曲家、出演俳優のナンド・パオーネとロレダーナ・シミョーリらが登壇。
 ナポリを舞台に選んだ理由を問われたマッテオ・ガローネ監督は、「ナポリという場所は様々な矛盾を孕んでいる街だからです。そこで、俳優を選ぶ際にもこの特徴を考慮しました。なので、俳優たちの顔にもコントラストが見られるでしょ」と語り、TVの人気者エンゾを演じた俳優が、刑務所内の劇団に所属する服役者で、撮影に参加した後は刑務所に戻り、現在も収監中であることを明かした。また「光と音楽を散りばめることで、夢と現実の接点を見出し、寓話的に描きたかった」と述べた監督は、“ころうぎ”を登場させたのは『ピノキオ』への目配せであるとコメント。

◆“招待作品”部門で3D上映されたハリウッド・アニメ『マダガスカル3』の公式記者会見には声優を務めた豪華キャストが集結!

 『マダガスカル3』はCGアニメの賑やかな快作だ。ニューヨークの動物園を逃げ出し、マダガスカル島に漂着した4頭の動物が、NYに戻ろうと決意。だが、辿り着いたモンテカルロで騒動を巻き起こし、指名手配されてしまう。追手を逃れ、移動サーカス一座に加わった彼らは、ヨーロッパ公演を隠れ蓑に大逃走劇を繰り広げていった末に……。
 12時からのマチネ上映に続き、14時半から催された本作の公式記者会見には、3人の共同監督(エリック・ダーネル、トム・マクグラス、コンラッド・ヴァーノン)と大挙してカンヌ入りしたハリウッド・スターたちが登壇、作品に負けず劣らずユーモアたっぷりの返答が続出する爆笑会見となった。その声優陣の顔ぶれは、シリーズの顔であるベン・スティラー(ライオンのアレックス役)、クリス・ロック(シマウマのマーティ役)、デヴィッド・シュワイマー(キリンのメルマン役)、ジェイダ・ピンケット=スミス(カバのグロリア役)の4人と、新規キャラのマーティン・ショート(サーカス一座のお調子者、アシカのステファノ役)とジェシカ・チャステイン(サーカス一座の花、ジャガーのジア役)。主演の4人は会見でも息の合った掛け合いを見せながら、本シリーズに参加する事の楽しさを語り、実に見事なイタリア語訛りを披露したマーティン・ショートは、現場でのクリエイティブな経験を、ジェシカ・チャステインはオーディションに挑んで役をゲットした旨などをコメントした。
 また、本作『マダガスカル3』の日本語吹替版において、シマウマのマーティの声優を務めた柳沢慎吾もカンヌ入りを果たし、フォトコールに参加している。

◆デジタル・リマスター化した木下惠介監督の名作『楢山節考』(1958年製作)が“カンヌ・クラシック”部門で上映!

 『喜びも悲しみも幾歳月』や『カルメン故郷に帰る』(日本初のカラー作品)、『二十四の瞳』などで知られ、現在、再評価が進んでいる巨匠・木下惠介監督の生誕100年を記念し、深沢七郎の同名小説を監督自ら脚色して映画化した名作『楢山節考』の音質&画質が最新技術で修復され、そのデジタル・リマスター版のワールド・プレミア上映が、パレ・デ・フェスティバル内にある中規模会場ブニュエルで行われた。
 本作は姥捨山の伝説を浄瑠璃や長唄で彩った歌舞伎の様式美で幻想的に描いた時代劇で、出演は田中絹代、高橋貞二、望月優子ら。現代(製作当時)の駅のホームを映し出すラストシーンも鮮烈な印象を残す秀作である。上映前には、ベルリン映画祭フォーラム部門創設者で、映画史家でもあるウルリッヒ・グレゴール氏が登壇し、本作の紹介役を務めた。
(記事構成:Y. KIKKA)