8月4日(土)全国ロードショーとなります『トガニ 幼き瞳の告発』の公開を目前にファン・ドンヒョク監督が初来日!本作に感動し支持いただいている監督と同世代の放送作家・鈴木おさむ氏と、唯一、日本と韓国で活躍されている韓国の弁護士・朴寅東(パク・インドン)氏をゲストに迎え、「映画を見た観客の憤りと行動が社会を動かし法律まで改正させた」「ひとつの表現が民衆を動かし、果ては政府までをも動かした」ことなどその事実について、韓国と日本の時代を牽引する同世代のクリエイターによる熱いシンポジウムが行われました。

鈴木:ある日、映画の試写状が届いて、何か非常に惹かれるものがあり何も知らないまま観に行って、すごく衝撃を受けた。
映画を観て感動したり、喜びや悲しみなど涙を流すことがあると思いますけど、こんなにも(試写場内で)「怒りの涙」を観たのは初めてでした。映画を観終わって、韓国で公開されてからの事実を知って、映画の力を強烈に感じて、多くの人に知ってほしいと思いました。

—映画を監督するきっかけ
鈴木:韓国映画は事実を基に描かれた作品が多く作られているが、正直ただ残酷でがっかりすることも多い。そんな中『トガニ〜』を撮るきっかけはなんだったのですか?
ファン・ドンヒョク監督(以下、監督):最初は事件もコン・ジヨンさんの小説も知らなかった。映画化の依頼を受け、小説を読み始めたが衝撃を受け何度も涙が溢れ、なかなか読み終えることが出来なかった。読み終えて(自分には)自信がなく無理だと思った。しかし、この事件が何年も昔の話ではなく、最近起こった事件で、映画化する事で、世の中に「こんな事件があった」と知ってもらう最後のチャンスだと思い引き受けました。

—事件について
パク弁護士(以下、パク):2006年に裁判があって、起訴された担当の教師ら4人の中2人は実刑判決を受けたが(残り2人は執行猶予判決)、その刑罰が本当に軽かったので、世に知られなかった。

—映画の内容について
鈴木:もっと淡々とした内容に作ることができたと思いますが?
監督:(映画で表現するにあたり)原作と映画では色々と違う部分があります。とても悩みましたがクライマックスが最も違います。
鈴木:まるで(自分が主人公の)美術教師になっている気分になった。完全に入り込んで双子の校長が超ムカついた!(そんな風に見せる)監督の演出はうまいなぁと思った。
監督:校長役を演じた人は(公開後)しばらく家を出られなかったそうです。(笑)

—映画公開後、通称「トガニ法」と呼ばれる法律が制定されました
パク:トガニ法の正式名称は「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法の2011年10月28日改正法律」です。この映画の影響で改正された主要内容は3つ。まずは刑罰が重くなった。特に障害者に対する性暴力は元々3年以上の懲役だったが、無期または7年以上の懲役に変わった。13歳未満の子供に対する性暴力の場合は、無期懲役又は10年以上の懲役になった。そして、障害者保護施設や障害者学校の職員が障害者に性暴力を行った場合、その法定刑の1/2まで加重することができるようになった。また、障碍者の女性、13歳未満の女児に対する性暴力犯罪の公訴時効が廃止されたということです。
鈴木:この映画を作るにあたって、被害者や加害者の方と話しましたか?
監督:彼らを知りすぎると演出の邪魔妨げになってしまうと考え、あえて会いませんでした。原作に取材した内容が盛り込まれていたので。
鈴木:公開後、被害者からの声は届きましたか?
監督:直接会ってはいませんが、公開して2〜3カ月、ものすごい速さで全てが変わった。しかし被害者と支援者たちの活動が5〜6年かけて(訴えても)何も変わらなかったのに、映画によって全て変わったのは嬉しい半面、ほろ苦くもある。

鈴木:前から訴えていたのに変わらなかったのはなぜなんですか?
パク:(この事件で発覚したような)悪い施設もあるがいい施設もある。したがって、このような事件があってもすぐに法律を変えるわけにいかないのが一つの理由だと思います。
鈴木:それでは法律が変わった一番のきっかけは?
監督:この映画を観た観客たちがSNS(ツイッター)で「絶対観るべきだ!」と書きこんでくれ、それが大きな国民の声になった。世論の声をマスコミが取り上げ、もう無視できないものにした。大統領は映画へのコメントをだしているが、特に何もしていません。

—主演のコン・ユについて
鈴木:コン・ユですが、徴兵制度の時に原作を読んだのがきっかけだとか?
監督:上司からのプレゼントとして、(原作を)もらったそうです。除隊を前にマネジメント会社と話して是非映画化したいと。
鈴木:(コン・ユは)怒りを広げたかったんですよね?
監督:そうです。
鈴木:人気俳優が世に広めたいと言って、法律を変えてしまうようなことは日本にはないのですごいですね。顔もいいし性格もいい、そりゃもてるわ!(笑)
鈴木:監督が今後作りたい作品はこういう社会的な作品ですか?
監督:デビュー作も実話で重かったし、『トガニ〜』も重かったので、次は違うものが作りたいと思っています。
鈴木:次は『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいなものだとビックリするけど!(笑)  僕もツイッターなどでも書きこんだりします!

—最後に一言
監督:この映画で扱った似たような事件はどこにでもあります。台湾やアメリカでも似たような事件があったと聞いています。日本でも起こりうるかもしれない。自分の周りで起こっていたら、勇気を持って手を差し伸べて下さい。この映画がその勇気を持ってもらえる力になればと思います。(了)