7月23日、韓国・富川(プチョン)市で開催中のプチョン国際ファンタスティック映画祭にて『くそガキの告白』の上映と舞台挨拶が行われた。東京・新宿テアトルで公開時におなじみとなった映画のポスターを背負った宣伝マンルックで会場のロッテシネマに登場した鈴木太一監督。「アンニョンハシムニカ!」と韓国語で挨拶。頭には韓国語タイトル“『ネ モッテロ ヘラ!』の鈴木太一監督 This is my style”と書かれた韓国仕様のプレートをつけている。

鈴木「30歳過ぎて映画監督になる男の話で、自分自身に近いキャラクターです。僕は映画学校を卒業して10年。この映画で初めて長編を監督することになり、僕にしか出来ない物語を考えて、こんな話になりました。自分のパッとしない人生をぶつけた作品です」

観客からは、キングオブコメディの今野浩喜さんが演じる主人公・大輔の独特な声のトーンについて質問が出た。
鈴木「声は彼の地声ですが、少しどもったりするしゃべり方は撮影を進めるうちに僕に似てきました。映画を観終わった知り合いからは、段々太一に似てきたって言われます」

おとなしい観客に向けて「僕は20日の舞台挨拶には居なかったんですが、キャストが登壇した時はいっぱい質問が出たと聞きました。おかしいな」と積極的アピール。

「好きな俳優や監督は?」の質問に『息もできない』のヤン・イクチュン監督、ソン・ガンホ、ペ・ドゥナ、ポン・ジュノ監督の名前を挙げた鈴木監督。
鈴木「ヤン・イクチュン監督は、自分の話を自分で撮っているのに刺激を受けました。『くそガキの告白』は、僕の半自伝的な話で元々は自分で演じようかと思っていたくらいです。主役は日本のコメディアンで不細工芸人として有名な人。僕より格好悪い人にやってもらおうとキャスティングしたんですが、撮影を進めるうちに“こいつオレより格好良いな!”って思うようになりました」

日本ではなかった「大輔のキャラクター、人物背景をもっと教えてほしい」という質問も飛び出した。
鈴木「物に当たったり、女の子の部屋にズカズカ上がり込んだり感情移入しづらい男ではあります。格好つけているけど、どこかピュアなところがあって、小さい頃から映画が好きで、純粋に自分の映画を撮りたいと思い続けて生きて来た男です。最後に虚勢が剥ぎ取られて、撮りたいものが見つかる。告白の見本を見せるシーンでは、乱暴だけど優しいところも垣間見えて、少しだけ僕に近いかも」

逆に、日本でも多く寄せられた質問がこの場でも出た。「ホラー要素の解決の仕方に疑問を感じます」

鈴木「一番伝えたかったのは、桃子の人間的な悩みです。女優になりたいがなれない。好きな人に気持ちを伝えられない。うまく接することが出来ない。それが、最後で映画として吐き出される。日本でも指摘があったけど、ホラー的要素が全部まやかしだった訳じゃなくて、彼女の思いがあんな現象を生んだとも言えるんです。“幽霊”ということで言うと、彼女自体が幽霊的で、監督や周りの人、誰からも気付かれない。そんな存在です」

質問に答えた後は、しきりに“これで伝わっている?”“大丈夫ですか?”と気遣う鈴木監督の姿が印象的だった。最後に観客の方々との記念撮影が行われた。

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舞台挨拶後、鈴木監督に韓国上映の反応について伺った。
——日本での反応と比べていかがでしたか?

鈴木「東京公開時にはお客さんのノリのいい反応を見ていたので、笑いのリアクションはやや小さかったですね。20日にキャストが登壇した日は受けていたらしいので、たまたまだったのかもしれませんが…。一人ひとりの顔を見ると笑っていたので少し安心しましたが、劇場一体となって笑わせることが出来なかったのはちょっと悔しい…!客層は違うと思いますが、別の日に『宇宙兄弟』を観て、小栗旬が何をしてもお客さんが笑っていたのはうらやましかったですね」

——舞台挨拶以外でお客さんの具体的な反応を聞くことはできましたか。

鈴木「韓国語ができないから、サインや写真を頼まれたお客さんに対しても、直接感想が聞けなくて凄くもったいなかったです。日本では毎日劇場に行ってお客さんと話したり、時にランチ行ったり、ツイッターなどで感触が確認できました。韓国ではみんなの反応がまだよくわからない、というのが正直なところです。でも、何人かがとてもアツく映画を支持してくれたので、もっともっと韓国の人たちにこの映画を見てほしいという思いは強まりましたね」

——韓国語のタイトルが『ネ モッテロ ヘラ!』で“勝手にしやがれ”になってましたね。

鈴木「韓国に来て知って驚きましたね!台詞の応酬が結構重要なので、どう訳されたのか不安になりましたが、そこは翻訳してくださった方を信頼するしかないですね」

——海外に出たことで何か気がついた事はありますか?

鈴木「当たり前のことですが、言葉の重要性、言葉が分からないければ何も通じないということ。同時に、言葉を超えて分かりあえる瞬間もあって、人間同士のつながりも少し感じています」

——韓国に来て街や人の印象はいかがでしたか?

鈴木「映画祭のスタッフで日本語が話せる女性が付いてくれたんですが、日本語を話しているときはゆっくりおっとりしているのに、韓国語になると早口で勢い良くまくしたてるので、同じ女性とは思えずビビりました(笑)。 あと、OL風のきれいな女性が屋台でてんぷらを立ち食いしている姿は妙でしたが、そそられました!それから、コンビ二にゴミ箱がなくて、煙草やガム、ごみを道に捨てているのに驚きました。言語だけでなく、文化や生活、細かいところで色々違いがあるんだなあと日々発見があって、とても楽しいですね!」

『くそガキの告白』はこの後、名古屋・シネマスコーレにて7月28日(土)〜8月3日(金)より公開。 鈴木監督は28日のクロージングまでプチョンに滞在。韓国から名古屋に直行し、全日舞台挨拶登壇予定とのこと。
8月3日(金)にはヒロイン桃子役・田代さやかさんの登壇も予定されている。

(Report:デューイ松田)