認知症の父親と、その娘の絆を描いた映画『「わたし」の人生 我が命のタンゴ』の8月11日の公開を前に、都内の介護施設でダンスリハビリイベントが行われ、施設居住者30人以上が参加した。

最初は恥ずかしそうに見学していた参加者たちだったが、最後には笑顔でステップを踏んでいたのが印象的だった。ダンスイベントに参加した方からは、「昔踊ったことを思い出した」「久しぶりに体を動かして楽しかった」など声が上がるなど、今回のイベントを機に施設ではダンスレクリエーションが定例化される予定。
また、ダンスレクリエーション後には本作の監督を務めた和田秀樹さんと日本大学教授でタンゴセラピーを研究する八木ありさ教授の対談が行われ、「なぜダンスが認知症をはじめとする老化予防になるのか」ということをテーマに話した。

本作は、介護により家族が崩壊していくなか、父親が認知症に良いとされるタンゴを始めることで絆を取り戻していく物語。実際に海外では認知症やパーキンソン病の治療に「タンゴセラピー」が用いられており、症状が改善されるという結果も出ている。「タンゴセラピー」とは、もともとアルゼンチンの病院で取り入れられ、今ではイタリアやオーストラリアなど多くの国に広まっており、イギリスでは、タンゴの複雑なステップがアルハイマー型認知症の記憶力向上にも使用されている。

<和田秀樹監督×八木ありささん 対談内容>

<認知症とダンス(和田監督)>
認知症の患者さんの特徴として、機嫌が良い時に症状ができるわけではなく、調子があまり良くない時にトラブルを起こすなど、その症状が表に出るのです。ダンスや音楽を通じてみんなが笑顔で入れればいいなという思いから、ダンスセラピーを映画の中に用いました。橋爪功さん演じる頑固な父親が、ある施設で松原智恵子さん演じる施設の患者さんに「一緒にダンスを踊りましょう」と誘われて、そこで行われているタンゴダンスのイベントに参加し心を開いていくのですが、このようにこれまでずっと一人で閉じこもっていた人が外に出ることで元気になることが実際にあります。劇中に出てくるタンゴは心を開くきっかけであり、それによってずっと一人でいるのではなく、誰かと触れ合ったり意識を外に向けることがいつまでも若々しくいられるんだと思います。

<ウェルエイジング(八木さん)>
誰でもが歳を取りますし、年齢に逆らうことはできません。ならば、うまく歳を重ねることを受け入れてみる、付き合っていくというように考え方を変えることができればよいのではないでしょうか。アンチエイジングというよりかはウェルエイジングということですね。ダンスの種類もたくさんあるので、いろんなダンスを楽しんでもらいたいなと思います。

<ダンスと文化(八木さん)>
文化特有のダンスに様々なものがありますが、日本では手を取り合って踊るペアダンスなどは海外から入ってきたものとしての認識を持たれる方が多いのではないでしょうか。例えば私が研修を受けたヨーロッパでは中学生や高校生がダンスの授業を取っていてペアダンスを踊るなど、日本人の盆踊りのような感覚でダンスを取り入れています。ドイツのアルツハイマー協会というのがあるのですが、そこでは「ダンスカフェ」というのを開いていて、通常の生活を送ることが難しくなった方なども、ダンスを踊るときだけは元気になるなどということがよくあるようです。やはり小さいころから身についてきたものが出るんだと思います。日本の盆踊りにしても同じだと思います。ダンスを見て、「きれい」だとか「素敵」だとか、そういった前向きな気持ちになることが何よりも大切なんだと思います。

<映画について>
苦しい中から笑顔を取り戻していく映画を撮りましたが、ご老人や介護をされている方、そのお孫さんまで、年齢は関係なく楽しい時間を共有し、それぞれが元気でいてほしいという想いを込めました。