昨年9月に韓国で公開されるや多くの人々が衝撃を受け460万人以上もの観客を動員、その影響で法律が見直されるなど、まさに国家をも動かしたセンセーショナルな話題作『トガニ 幼き瞳の告発』の公開を記念して、映画の原作者コン・ジヨン氏と、児童虐待の現状にお詳しいジャーナリストの小宮純一氏のお二方をゲストにお迎えし、明治学院大学ご協力のもと、映画『トガニ 幼き瞳の告発』試写会&シンポジウムを開催致しました。上映終了後には、学生・一般の参加者からの質疑応答の時間もあり、予定時間を越えて熱のこもった密度の高いシンポジウムとなりました。

■日程 6月22日(金) 19:30〜21:00 ■会場 明治学院大学 白金校舎 
■登壇ゲスト  原作者 コン・ジヨン氏 、ジャーナリスト 小宮純一氏  

司会(秋月教授):『トガニ 幼き瞳の告発』は去年韓国社会に大きな衝撃を与え、様々な問題がそれによって動き出したという話題作であります。今日は二人の方にゲストに来ていただいています。

小宮:皆さん、この作品をご覧になっていかがでしたでしょうか。お隣の国のことではない。日本でもこういった映画と同じような事件はずっと前から日本では起こっているのです。そのことを今回『トガニ』の取材をしてきたコンさんご本人がご存知でしたでしょうか?

コン:今回『トガニ』の本と映画が日本でも公開されることになって、日本へプロモーションへ行くという話を韓国の友人や周りの人間に言ったら、「それは韓国の恥を外国に広めるようなことだ」と言われて、そうかもしれない、と自分の良心の呵責のようなものもありました。ただ日本に来てから色々なインタビューを受けて、話を聞く過程の中で、日本でも実はこういう事件があったということも知りましたし、欧米でも、人々の目が届かないところにいる存在にこういったことがあることを聞きました。これはもしかしたら韓国だけの問題ではなく、こういった世界や社会ではどこでも起こることなんだなと思いました。

小宮:コンさんは『トガニ』の取材を続けていて、どうしてこのようなことが起きたと思いますか?

コン:私もこの小説を書くことになったきっかけは、「なぜこういうことが起こるのだろう」そこが知りたいということでした。社会の中で権力を持った者たちがお互いに不条理について目をつぶりあうことによって、こういった問題が明るみに出ることがなくなります。やっぱり人というのは莫大な権力を与えられて、何の監視体制も無いと、だれでも悪魔に変わりうることがわかりました。今後も権力というものには、それをちゃんと制御するシステムというものがなければならないと思います。

小宮:日本ではこういった遮断された空間での子供の虐待に対して措置を持ったのはたったの3年前です。
コンさんがおっしゃるシステムとしては、韓国の方が一歩先を行っているなぁという気がしました。通称「トガニ法」の法律の改正に対しても、映画化されたことがきっかけとなったと伺っています。コンさんは、ご自身の小説が映画となり、ソーシャルな力を持ったこの作品との関係についてはどう考えてらっしゃいますか?
コン:私の作品が、韓国の法律改正の背景となったことは、光栄に思っていますし、すごく自分の責任が重いということも実感しましたね。90年代に法律が整備されたにもかかわらず、韓国の地方都市、それも人の目が届かないところで、障害を持っている子供たちに対していまだに起きていたということに私も改めて驚きました。
法律関係者たちがそれらを守っていくという意識が無いと、いくら良い法律があっても意味がないということもよくわかりました。法律は整備も大事ですけども、それを運営する人たちの心持ち、弱者への配慮がもっと大事だということを、皆さんに強調したいですね。

【質疑応答】
質問者A:なぜこのような深刻な性的虐待の問題をテーマとして取り上げられたのでしょうか。
コン:この小説を書くきっかけになったのは、ある小さな新聞記事でした。法廷の最終判決で主文が読み上げられた後のシーンを記事化したものだったのですが、本当に不可解で理解できなかったので、これはぜひ調べてみないといけないと思いました。

質問者B:映画の最初と最後の場面が霧の風景だったのが凄く象徴的だと思いましたし、原作本を読んだ時にも「霧津(ムジン)紀行」が出てきたので、その場所を使った理由を教えてください。
コン:この小説の背景になっているムジンというところは、キム・スンオクという作家の「霧津紀行」から借りてきています。実際この事件が起きた光州というのは韓国の現代史の中で、重く複雑な意味を持つ都市なので、その名前を持ってきてしまうとこの問題からずれてしまうかもしれない、また実際にある都市の名前を持ってきてしまうと、市民に対して失礼だということもありました。作家の見習い時代に「霧津紀行」がすごく好きで何度も読みましたので、キム・スンオクという作家へのオマージュとしてあの小説の中で3か所使いました。

質問者C:実際にあったことがどのくらい含まれているかということと、主演のコン・ユさんから映画化の要望があったそうですが、どういう話をされたのですか?また、翻訳者の蓮池薫さんとのやり取りがあれば教えてください。
コン:実際の事件を全部小説に盛り込むと話が大きくなりすぎるので、登場人物を圧縮しています。その代わりに、この問題を第3者の目を通して伝えたかったので、カン・イノやソ・ユジンといった人物は私が作りました。その他の事件や裁判過程などはほぼ実際に起きた事件に則して書いています。コン・ユさんについてなんですが、私はテレビや映画を見ないので、俳優のコン・ユを私は知らなかったんですね(笑)。友人へ伝えたら、「彼にこんな役が演じられるわけがない!」と言われましたけど、軍隊にも行ったし、いろんな苦労をしたから、ちゃんとこの役ができるという感じがしました。蓮池さんはこの作品の前にも私の小説を翻訳してくださいました。彼は本当に私の良き理解者です。(了)