只今ヒューマントラストシネマ有楽町にてノルウェー映画「孤島の王」が絶賛公開中の運びとなっております。
本作はノルウェーのバストイ島にかつて存在した、少年向けの矯正施設で勃発した凄まじい反乱事件をベースにした実録ドラマ。このノルウェー本国でもほとんど知られていない事実を基に、マリウス・ホルスト監督が尊大な大人たちにあらゆる自由を剥奪され、理不尽な重労働や虐待にさらされた少年たちの運命を、圧倒的なリアリティと詩情に満ちた映像美で描出。外界から隔絶された厳寒の孤島で、いったい何が起こったのか?
少年たちの命懸けの友情と葛藤の物語に胸を衝かれ、極限の生存闘争と脱出サスペンスに息をのまずにいられない、心震わす〈魂の叫び〉がこもった必見の問題作です。
本作の公開を記念いたしまして、【知られざる北欧・ノルウェーの魅力】と題してトークショーを行いました。

≪『孤島の王』公開記念 知られざる北欧・ノルウェーの魅力 トークショー 第三回≫
日時:5月3日(木)
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町   ※16:40の回終映後に実施
ゲスト「ノルウェーの刑務所事情について」/本間 龍(ほんま・りゅう)さん(作家)
昭和37年生、東京都出身。大手広告代理店で約18年間勤務後、平成18年同社未公開株売買における知人への詐欺容疑で逮捕・有罪となり、栃木県の黒羽刑務所に一年間服役。その顛末を綴った『転落の記』を1月に発売。他に『懲役を知っていますか』『名もなき受刑者たちへ』などの著作がある。
現在、刑務所や受刑者の現状についての講演、ドラマの設定監修、新聞・テレビへのコメントなどで幅広く活動中。

●ご自身の経歴となぜ刑務所に入ることになったのかを簡単にお願いします。
全部本に書いてあるので隠すことないですね(笑)
大手の広告代理店で、売掛金の未回収がありまして、上司に報告すればよかったのですが、『左遷されたらいやだな・・・』といったサラリーマン根性もあり、それを埋めるために友達から金を借りて、結局返せずに告訴をされることになり、栃木の黒羽刑務所に入りました。現在は作家として活動しています。

●実際刑務所を体験して本作をご覧になっていかがでしたか?
日本の刑務所なので映画とは違いますが、映画はノルウェーだし本当に寒いだろうな・・・と思いました。北海道の網走刑務所だと寒いと思われていますが、実は日本で一番暖かいのは網走で、暖房が入っているんですよ。日本の刑務所で暖房が入っているのは北海道だけで、東北の青森も秋田もありません。もちろん東京も暖房はありませんから、部屋の中は真冬だと5度くらいで布団に包まっています。
あとは外での作業は日本の刑務所ではないので、映画ではすごいことをやっているなぁと驚きましたね。でも日本の刑務所も100年前はもっとすごかったではないかと思います。

●日本の刑務所のご飯はどうなんでしょう?
今は栄養士がついていて一日2600カロリー以下と決めれられています。献立も栄養士が考えていて非常に美味しいです。
栄養バランスは若い独身のサラリーマンよりも高いんじゃないでしょうか?でもごった煮系が多いんですよ、八宝菜ですとかカレーですとか、野菜と一緒に煮込んだものが多く生野菜や生魚はほとんどないですね。甘いものなどお菓子がでるのは休日ですね、土日ですがそれも出るときと出ないときがあります。好きな時に好きなものが食べられないのも罰ということですね。

●映画の舞台になったノルウェーの現在の刑務所事情については教えてください。
ノルウェーは世界で一番受刑者に優しい国と言われていて、死刑もなく最高刑は禁固21年です。無期懲役もありません。受刑者の人権をかなり重視していますね。
今回の映画に見られたように、抑圧された環境というのはなく、ナチスの侵略も経験されているので人権を抑圧された側にはならないと、固い意志があると思います。
ノルウェーで一番有名なのはベルゲン刑務所です。これはネットで検索しても出てきますが、最新鋭の設備で外から見ると刑務所にはとても見えません。美術館の様で、図書館や運動場もあり服装も私服で、拘束しているのは自由だけです。

●ベルゲン刑務所には軽犯罪者のみが入るのですか?
いえ。重犯罪である性犯罪者や殺人罪もいますが、殺人罪だからもっと厳しい刑務所にいれようとかそういうことではないんです。去年77人が無差別に射殺されるという事件がノルウェーで起きましたが、その犯人も刑が決まればベルゲン刑務所に入ると言われていますね。

●77何人を射殺しても死刑にはならない?
死刑にはなりません。この事件が起こった後ノルウェーの大学の校長の話を聞く機会がありました。そこで聞いたのは「その犯人に死刑を適用すべきかどうか」という世論調査をノルウェーで行ったのですが、9割がするべきではないと思っているという結果が出たそうです。そこにいた共同通信の記者が「77人も殺しても?」と質問したのですが、「我々は彼(犯人)ではない。私たちは人殺しをしません」と言いました。彼が人を彼を殺しても、私は人殺しをしませんよと、胸を張って発言をされてました。

●21年経って出てきたときの再犯の可能性は心配ではないのでしょうか?
ノルウェーでは平均して刑務所に入っている期間は1年以下で、傷害罪はほとんどが1年未満です。
なぜかというと犯罪者を社会の中で変えていくんだと。周りにいる人や住んでいた地域の人が集まって二度と事件を起こさせないようにしていくという仕組みを作っているんです。
日本の場合ですと二度と帰ってくるなと言われますが、考え方が違いますね。

●本間さんもやはり大変でしたか?
大変でしたね。日本の場合は就職もできないですし、年間3万人の出所者がいますが、仕事もなくその半分が再犯を起こして戻らざるを得ないというのもあります。そこをなんとか変えていきたいと思っています。
ノルウェーでは、そういったことに対して確固たる信念があり、『孤島の王』で描かれている歴史的事実が大きな役割を果たしているのもあると思います。人間は抑圧し過ぎると反発し、それはノルウェーだけではなく人間なら必ずあると思うんです。

●それでは最後に一言お願いします。
少しでも出所した人達のその後に関心を持っていただければ、活動をしている自分としてはありがたいなと思います。今日はありがとうございました。