本作の公開を記念いたしまして、【知られざる北欧・ノルウェーの魅力】と題してトークショーを開催しました。

日時:5月2日(水)
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町   ※16:40の回終映後に実施
ゲスト「北欧映画について」/渡辺芳子さん(北欧映画専門家)

東京都生まれ。明治学院大学英文科卒。サンケイスポーツ新聞社(現:産經新聞)記者を経てフリー。
88年よりスウェーデン短期留学を含めて北欧へ頻繁に渡り、映画、音楽、ライフスタイル取材活動を行う。
スカンジナビア政府観光局のキャンペーン「アップタウンヨーロッパ」(94~98)、ノルウェー・リレハンメル冬期オリンピックPRの文化イベント「ノルウェーの響き」(93)、COP15協賛イベント「エコ・コンシャス・デンマーク」
(2010)などのイベント・コーディネイト。スサンネ・ビア監督のデンマーク映画「アフター・ウェディング」「未来を生きる君たちへ」など北欧映画の日本語字幕。著書に「北欧映画完全ガイド」(新宿書房)ほか。

●北欧映画のお仕事を始めたきっかけは?
サンケイスポーツで芸能記者をやっていまして、そこでの経験がきっかけで北欧映画や音楽に詳しくなりました。
10年くらい勤めて北欧に行く機会があり、スウェーデン語を学び、北欧の映画や音楽を紹介する仕事が増え、字幕の仕事もやらせてもらうようになりました。

●普段はどのような活動をされているのでしょうか?
スカンジナビア政府観光局絡みのイベントや、デンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15(コップフィフティーン)のエコイベントのコーディネートなどをやってきました。
映画だけでなく色々な方面から北欧に関わっています。

●『孤島の王』はどちらでご覧になったのでしょうか。感想は?
去年、ボルボの本社のあるスウェーデンのヨーテボリで開催されている「ヨーテボリ国際映画祭」で見ました。
良い映画ですが、硬いし地味なので日本では公開できないと思っていたので、公開されてびっくりしました(笑)
でもラストシーンなど印象的でしたし、厳しい映画ではありますが景色が美しいですよね。
最近、ノルウェーはこういう若い人たちのアンサンブル映画が得意なんですよ。

●『孤島の王』はノルウェーでヒットしたそうですが?
この映画に関わらず、ノルウェー人は自分たちの埋もれた歴史を掘り返して、良いところも悪いところも映画化するという傾向があり、08年にも若いキャストのアンサンブルで「Max Manus」(未)という第二次世界大戦中のレジスタンス運動をしている若者の実話ものがあり大ヒットしました。
社会的な映画が好きみたいですね。自分たちのアイデンティティに誇りを持っている人たちで、教育水準も高く、悪いところは悪いところでちゃんと見せようと、歴史を重んじて変えていこうと思っている人たちですよね。
また硬いところだけではなく、ゲイの歴史などもきちんとフォローしてるんですよ。

●ノルウェーにはどれくらい劇場があって、どれくらい映画が作られ、公開されているんですか?
実は北欧の人たちは映画がすごく好きなんです。
1週間がひと段落した木曜日に見に行くことが多いですね。
金曜、土曜は飲み専門で、木曜に映画を見に行くのが習慣になっています。
ノルウェーの首都オスロの人口は45万〜50万弱と横浜市よりも小さいです。
そこには8館、32スクリーンあります。全国だと245館、420スクリーン、大体去年で40本の新作(長編)が作られ、前年だと36本、前々年は27本、段々作品が増え、良い作品も増えています。
ご存知の通り、石油と天然ガスで儲かっていますから、製作費にはこと欠かなくて。
作り手の部分でも、94年に国立映画学校が開校され、もう20年近く経つので、段々卒業生が育ってきていて、良い作り手も出てきているので、うまい具合に旬を迎えだしていますね。
みんな勉強家で、毎日毎日勉強しているみたいです。本当に大変だからバイトもできず、学費はタダですが、奨学金で住むところや生活費を賄って勉強していますね。
先生や講師が実際の映画人なので、無駄なく勉強できていると思います。
そういうところは人口の少ない国ですから、効率が良いですね。
最近だと、『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督、『ぼくのエリ』、『裏切りのサーカス』のトーマス・アルフレッドソン監督もアメリカに進出していますね。
本作で院長を演じたステラン・スカルスガルドもハリウッドでも活躍していますよね。
彼の息子たちアレクサンダー、グスタフ、ビルも俳優でアレクサンダーはご存じの通りハリウッドでも活躍していますし、三男のビルは今本国ですごい人気です。これからお兄さんたちのようにハリウッドに進出していくと思いますね。

●色々お伺いしましたが、ずばり北欧映画の魅力とはなんでしょう?
イングマール・ベルイマンの呪縛が解けて、若いクリエーターたちが自由に作る時代になっていますね。
本作のような史実に基づいた映画も多いですが、ファミリー映画も熱い。
特に、結婚するしないに関わらず、7年ごとにパートナーを変えているような国ですから、
離婚や片親が多く、そういう部分を描いた映画も得意ですね。
もちろん普通のコメディーやラブストーリーもあります。
あと、今年のヨーテボリ国際映画祭でも賞を獲って話題になったのが「Kompani Orheim(カーパニーオファイツ)」(12・未)という作品で、
本作で寮長ブローテンを演じたクリストッフェル・ヨーネルが出ています。
崩壊した家族の中で子供が成長する話で、クリストッフェル・ヨーネルはアル中の父親を演じています。
あと、「ミレニアム」「ドラゴン・タトゥーの女」で日本でも北欧ミステリーが話題になりましたが、これから注目して欲しい作家がジョーネスボ。50歳くらいの作家で元々はミュージシャンだったのですが、この人の「Harry Hole(ハリーホール)」という刑事シリーズものです。
このシリーズのうちのひとつ「The Snowman(スノーマン)」の映画化権をマーティン・スコセッシ監督が購入したそうなので、日本でも観られる日が来ると思います。日本での知名度はいまいちですが、世界的には注目度の高い作家です。
そして去年ノルウェーで大ヒットした「Headhunters(ヘッドハンターズ)」(11・未)も面白いですね。
ドイツでも大ヒットしたそうです。ドイツでは今、北欧ミステリーが大変人気があるんですよ。
日本での公開は未定ですが、配給してくれる会社があるといいですね。

●最後に一言お願いします。
ハリウッド映画が最近つまらないと思いませんか?だから今、北欧映画や北欧原作をリメイクしていると思うんです。
ぜひ北欧の映画にも目を向けて頂いたいですね。
映像も景色も綺麗なので、もし北欧に行く機会があったら、ぜひ映画館に立ち寄ってください。
言葉が分からなくても、映画は情報量が多いので十分楽しめると思いますよ。