映画『少年と自転車』海南友子さんを迎えトークショーを開催
本作の公開とダルデンヌ監督過去作品の特別価格のDVD発売にあわせ、“ダルデンヌコーナー”が展開されている代官山蔦屋書店にて、4月14日(土)にトークショーを実施致しました。
ご登壇頂いたのは、ドキュメンタリー映画監督の海南友子さん。
ドキュメンタリー映画、そして劇映画における表現の可能性について、また、昨年一児の母となった海南さんに、本作の題材である“里親”や“家族の絆”についても語って頂きました。
場内では熱心にメモを取りながらお話に聞き入るお客様もいて、さながら講義のような、充実のトークイベントとなりました。
『少年と自転車』公開記念 トークショー概要
日時:4月14日(土)20:00〜20:30
場所:代官山蔦屋書店 1号館2階 映像フロア(渋谷区猿楽町17-5)
登壇者:海南友子さん(ドキュメンタリー映画監督)
MC:本作をご覧頂いてのご感想をお聞かせ下さい
海南監督(以下、海南)
私事ですが、昨年末に息子を出産したばかりでして、母と息子の関係を、自分が命を授かったことになぞらえて見ていました。
状況だけで言うと、主人公の少年・シリルは父親に捨てられるという、とても歪な環境で育っています。しかし、親に捨てられた子供は世界中にいるわけだし、昨年の震災でも親を失ってしまった子供たちはたくさんいるので、世界中の人が母と息子の絆を共通で感じることが出来る内容だと思います。
そして、シリルの瞳がとっても印象的で、吸い込まれるようでした。
男の子は女の子に比べるといつまでもやんちゃで、自分の感情に直線的になる瞬間がありますが、それがこのシリルの親を求める気持ちとすごく繋がって描かれていると思いました。
MC:サマンサはシリルと出会い、自分の母性に目覚め家族を作っていくわけですが、
海南さんご自身はご出産されて変化はありましたか?
海南:
私自身、子供を授かったのが41歳で遅かったこともあり、これまで子供のいない人生を生きていくつもりでいましたし、いなくても幸せだと思っていました。しかし子供を持ってみて、これほど無条件で愛せる者を他に見たことがなかったし、これまでと全然違う喜びを日々感じています。
アラフォー女子として、サマンサがどういう気持ちで難しい年頃のシリルを養子にしたのか、その背景が描かれていない分、そこを母からの視点で空想する余地がありました。
改めてダルデンヌ監督の凄さを実感しました。
MC:ダルデンヌ兄弟も海南さんと同じくドキュメンタリーの出身で、社会問題を多く扱っています。
ドキュメンタリーだから出来ることとは何なのでしょうか。
海南
ドキュメンタリーは行き先のわからない舟に乗り込むようなもので、この先どこへ行って何が起こるかわからないけれど、そこに乗ることによって新たな出会いや発見があります。それが楽しいし、喜びでもあります。
ドキュメンタリーでは偶然が重なってドラマチックになる瞬間はありますが、そのテーマをどうしたらもっと効果的に描けるか、悩むこともあります。
扱うテーマをもっと効果的に伝える方法、可能性が劇映画にはあると思います。
それに、ダルデンヌ監督のこれまでの作品で描かれている“最後の希望”は、絶対的な失望の中で終わってしまうことがあるドキュメンタリーでは表現できない部分です。
どんな状況でも希望を失わないで生きていけるか、というのは生きる上の意味でもあると思います。ドキュメンタリーを突き詰めていく中で、ダルデンヌ監督がたどり着いたこのような劇映画には共感を持てます。
彼らの作品は語りすぎず、観る人の判断に委ねられる“余地”のある作品だと思います。
カンヌで賞を獲っているから良い作品というわけではなくて、温かなまなざしが紡がれている作品だと思います。
●海南友子 (かなともこ)さんプロフィール
ドキュメンタリー映画監督。
大学在籍中に是枝裕和氏のドキュメンタリー出演がきっかけで映像の世界へ。
NHK報道ディレクターを経て独立。『マルディエム 彼女の人生に起きたこと』(01)でデビュー。
『にがい涙の大地から』(04)で黒田清日本ジャーナリスト会議新人賞を受賞。
07年劇映画シナリオ『川べりのふたり(仮)』がサンダンスNHK国際映像作家賞受賞。
09年『ビューティフルアイランズ〜気候変動 沈む島の記憶〜』(プロデューサー 是枝裕和)で釜山国際映画祭アジア映画基金AND賞受賞。本年は『いわさきちひろ〜27歳の旅立ち〜』 (エグゼクティブプロデューサー 山田洋次)が公開予定。
東日本大震災の直後には、福島第一原発4キロまで取材。その後、妊娠が発覚し、男児を出産。
自身の出産と放射能をテーマに短編ドキュメンタリーを製作中。