●審査員賞は、子役出身のフランスの女優マイウェンが監督した『ポリス』が受賞!

 カンヌ国際映画祭便り4で既にお伝えした通り、13日(金)に上映された『ポリス』は、パリの少年非行防止・保護対策課に勤務する警察官たちの日常をリアルに描いた群像劇で、監督業に進出したフランスの女優マイウェン(リュック・ベッソンとの結婚歴があり1女をもうけた。異父姉妹は女優のイジルド・ル・ベスコ)の長編第3作目。授賞式では息を弾ませながら喜びを語ったマイウェン監督だが、受賞者会見では「私は両親とはあまり仲が良くありません。ですが、おかしなことに、カンヌ映画祭への選出を知った時、両親にそこにいて欲しいと思いました。自分の結婚式でさえ招待しなかったのに。両親が私をサポートしたり援助してくれたことはなく、私はたった1人で成長しました。精神的、肉体的虐待についての映画を撮ったのは偶然ではないのです」と、いささか衝撃のコメント!

●男優賞は、無声映画時代のハリウッドスターを見事に演じたフランス人俳優ジャン・デュジャルダンが受賞!

 男優賞は、15日(日)に正式上映されたモノクロ&サイレント映画『アーティスト』に主演したフランスの人気俳優ジャン・デュジャルダンが獲得。日本で公開された出演作にシリアスなフィルム・ノワール『ブルー・レクイエム』(2004年)があるが、本国ではコメディ俳優として認知され、『アーティスト』の監督ミシェル・ハザナヴィシウスとは抱腹絶倒のスパイ・コメディ「OSS 177」シリーズ2作品でタッグを組んだ仲。字幕や“音”の使い方も機知にあふれた本作『アーティスト』が監督との3度目のコンビ作となるジャン・デュジャルダンは、ハリウッドの無声映画スターの“栄光と転落、そして再起”をセリフに頼らず(サイレント映画だから当然だが)、ニヒルさと哀愁を漂わせながら実に表情豊かに演じ、観客と審査員たちを魅了した。
 授賞式において、賞を受け取る前に審査員たちの前で大仰に跪いてみせたジャン・デュジャルダンは、受賞者会見で「この賞をロバート・デ・ニーロから渡してもらえ、子供のように嬉しかった」と述べ、「脚本を読んだ時は、編集不可能なんじゃないかって思ったよ。『アバター』などの3Dの時代に、全く信じられないほど大胆な映画だよね」と作品を讃えた。ちなみに今年の“パルムドッグ”は、本作でジャン・デュジャルダン扮する主人公の愛犬に贈られている。

●女優賞は、マリッジブルーの花嫁役を熱演したキルスティン・ダンストが獲得!

 女優賞は、18日(水)に正式上映され、監督のラース・フォン・トリアーが映画祭から追放された『メランコリア』に主演したハリウッドの人気女優キルスティン・ダンストが受賞した。エキセントリックな言動はともかく、圧倒的な映像美に定評のある異才ラース・フォン・トリアー監督は、前作『アンチクライスト』のシャルロット・ゲンズブールに続き、起用した女優に“カンヌの女優賞”をもたらすこととなった。キルスティン・ダンストは授賞式で、「なんという1週間だったんでしょう! 審査員の皆さん有り難うございます。受賞は、この上ない名誉です。映画祭の皆さんにも、この映画をコンペティションから外さないでもらえ、感謝いたします。そして、私が自由に演じることを可能にしてくれたラース・フォン・トリアー、ありがとう!」と喜びを語ったが、その後の受賞者会見への出席は避けている。

●脚本賞は、『フットノート』で自ら脚本を手掛けたイスラエルの監督ヨセフ・シダーが受賞!

 脚本賞は、14日(土)に正式上映された『フットノート』のヨセフ・シダー監督が獲得。イスラエル映画界の新しき潮流を担う気鋭監督の4作目となる本作『フットノート』は、ともに大学教授で競争相手でもある父と息子の嫉妬心を通して人間の深層心理を浮き彫りにしている。

 長編コンペティション部門以外の各賞の受賞作は以下の通り。

●短編コンペティション部門:パルムドール
『クロス』:マリナ・ヴロダ監督(ウクライナ)

●短編コンペティション部門:審査員賞
『スイムスーツ46』ワンネス・デストープ監督(ベルギー)

 審査員はフランス出身でハリウッドでも活躍する奇才監督ミシェル・ゴンドリー(審査委員長)、フランスの女優ジュリー・ガイエら総勢5名。

●カメラドール(新人監督賞)
パブロ・ジョルジェリ監督『アカシア』(アルゼンチン)

 オフィシャル部門、併行部門の垣根を越えて、監督処女作を対象とする“カメラドール”に輝いた『アカシア』は、ブエノスアイレスとパラグアイの1500キロを結ぶ高速道路を舞台に、赤ん坊連れの若い女を運ぶ羽目となったトラック運転手の姿を描くロード・ムービーで、“批評家週間”部門で上映された作品。審査員を務めたのは韓国の映画監督ポン・ジュノ(審査委員長)ら総勢7名。

●国際批評家連盟賞(FIPRESCI)
『ルアーヴル』(コンペティション部門)/『ミニスター』(ある視点部門)/『テイク・シェルター』(批評家週間部門)

 また、高等技術院(CST)が技術者を対象にして選出する“ヴァルカン賞”は、『ザ・スキン・アイ・リヴ・イン』のホセ・ルイス・アルカイネ(照明)、『ウィー・ニード・トゥ・トーク・アバウト・ケヴィン』のジョー・ビニとポール・デイヴィス(編集と録音)が受賞した。この他にも映画学校の学生作品を対象とするシネフォンダシオン部門では1位〜3位までの賞が決められたほか、全キリスト教協会が選ぶエキュメニック賞なども選出された。また、併行部門の“批評家週間”(初長編作品もしくは監督第2作目が対象で、長編部門の審査委員長は韓国のイ・チャンドン監督、短編部門の審査委員長はポーランドのイエジー・スコリモフスキー監督)と“監督週間”でも、それぞれに賞を与えている。
(Report:Y. KIKKA)