映画祭9日目の19日(木)。“コンペティション”部門では、スペインの鬼才ペドロ・アルモドバル監督が朋友アントニオ・バンデラスを久々に主役に起用したサスペンス映画『ザ・スキン・アイ・リヴ・イン』と三池崇史監督の『一命』の正式上映が行われ、“ある視点”部門では韓国のホン・サンス監督の『ザ・デイ・ヒー・アライヴズ』などが上映された。

◆三池崇史監督が3Dフォーマットによる本格時代劇『一命』でカンヌのコンペに初参戦!

 日本で最も多作な映画監督として知られ、ヴェネチア映画祭には馴染みのある(前作の『十三人の刺客』も昨年のコンペに選出された)三池崇史監督だが、カンヌの“コンペティション”部門は今回が初選出。監督のカンヌ入りは“監督週間”部門で『牛頭』が上映された2003年以来となる2度目だ。
 江戸時代初頭を舞台に、切腹という行為を通して武家社会に立ち向かった2人の浪人武士、津雲半四郎(市川海老蔵)と千々岩求女(瑛太)の誇りと家族愛を描いた『一命』は、1962年に『切腹』(仲代達矢主演)のタイトルで映画化された滝口康彦の「異聞浪人記」の再映画化で、時代劇初の3D映画。共演は満島ひかり、竹中直人、青木崇高、新井浩文、役所広司ら。ちなみに小林正樹監督の『切腹』はカンヌで審査員特別賞を受賞している。
 残念ながら謹慎中の市川海老蔵はカンヌ入りしなかったが、昼の12時半から行われた公式記者会見には三池崇史監督、瑛太、脚本家の山岸きくみ、プロデューサーのジェレミー・トーマスらが出席し、海外プレスからも盛んに質問が飛んだ。アクションシーンの多い前作『十三人の刺客』ではなく、なぜ『一命』を3Dにしたのかと問われた三池監督は「答えは簡単ですね。もし『十三人の刺客』を3Dで撮っていたら、3Dカメラに支配されてしまい、今でもまだ撮り終ってなかったかも知れないからです。でも、この映画では襖が開いたときの奥行きなど、時代劇ならではの映像を3Dで見せることに挑戦しました」と返答。三池監督と組んだ感想を聞かれた瑛太は、「すごく迫力と緊張感のある現場だろうと思ってたんですが、それは杞憂に終わりました。実際には監督はとても優れたユーモアの持ち主で、現場でも楽しく過ごぜました。そして僕の中の最もいい部分を引き出してくれました」と語った。

 22時半からの『一命』の正式上映(ソワレ)時には、上映会場の“リュミエール”が満席となり、正装した観客たちが3Dメガネをかけて鑑賞。瑛太の壮絶な切腹シーンではどよめきが巻き起こり、上映後は約5分間のスタンディングオベーションが続いた。その後に行われたカクテル・パーティも実に和やかな雰囲気。シャンパンを片手にリラックスする三池監督とざっくばらんに話をする機会を得たので、幾つか質問をした。小林正樹監督の『切腹』では三國連太郎が扮し、今回は役所広司が演じた家老の斎藤勧解由について、監督は「勧解由の足が悪いという設定にしたのは脚本段階から。彼の経歴と性格を考えると、きっと戦場で活躍しただろうし、そこで負傷したことも頷けるってね」と語り、勧解由が常に抱いている猫と浪人家の痩せ猫の対比についても詳しく言及してくれた。午前3時過ぎまで行われたパーティに最後まで残ってくれた三池監督に感謝だ!
(Report:Y. KIKKA)