映画祭も後半戦に突入した17日(火)。“コンペティション”部門では、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督作『ルアーヴル』とフランスのアラン・カヴェリエ監督作『パテール』が正式上映。特別上映部門では、ジョディ・フォスターが監督した『ビーバー』と名優ジャン・ポール・ベルモンドにオマージュを捧げたドキュメンタリー『ベルモンド、道のり…』が上映。また、“ある視点”部門には、シンガポールの俊英エリック・クー監督が日本の漫画家・辰巳ヨシヒロの自伝的な物語をアニメ化し、別所哲也が声優を務めた『Tatsumi』が登場!

◆監督3作目の『ビーバー』を携えてカンヌ入りした才媛女優ジョディ・フォスター』

 ハリウッドの人気女優ジョディ・フォスターが監督&出演した『ビーバー』の1回目の上映が11時から行われ、13時から始まった公式記者会見には、監督のジョディ・フォスターと脚本家が登壇した。本作は成功したビジネスマンだったが鬱病で精神的に不安定となり、妻から家を追い出された中年男性が、偶然見つけたビーバーの人形に執着。自分の心情を操り人形に託して吐露していく姿をコミカルに描いた家族ドラマで、DV問題で映画界から遠ざかっていた大物スター、メル・ギブソンにフォスターが手を差し伸べ、主演に迎えたと言われる作品だ。「メルが私の側でノビノビと演技してくれることは分かってました。彼は役を非常に良く理解し、“闘い”に対して身をさらすことを承諾してくれました。彼にとって、この作品の撮影は大変重要でした。彼が作品に強い誇りを持ってくれて本当に嬉しいわ」と語ったフォスターは、自らの監督作に出演することに対しては「良い面は登場人物と作品の方向性を完璧に理解していること。でも、全くサプライズがないことがマイナス面ね」とコメント。また、心理分析への関心を問われた彼女は「私たち俳優は心理分析が大好きなの。この仕事に就いているのは、その為なんです。映画製作は私にとって自分の内面的危機と向き合う方法であり、自分の人生を押し進めるための治癒のプロセスなのよ」と打ち明けた。
 19時半から行われた正式上映(ソワレ)には主演したメル・ギブソンとジョディ・フォスターが連れ立ってレッドカーペットに登場。ビッグスターを一目でも観ようとする大勢のファンが集まり、海岸沿いの目抜き通り・クロワゼット通りは普段よりも激しく交通規制が敷かれ、歩行もままならぬほどごった返していた。

◆人気実力派俳優が共演した『メランコリア』は、
ラース・フォン・トリアー監督が自らの鬱病体験を投影

 映画祭8日目の18日(水)。“コンペティション”部門では、デンマークのラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』と河瀬直美監督の『朱花(はねづ)の月』が正式上映。“ある視点”部門にはナ・ホンジン監督のフィルム・ノワール『黄海』が登場。“監督週間”では、園子温監督の『恋の罪』が特別上映された。

 1996年に『奇跡の海』でグランプリを、2000年に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でパルムドールを受賞したデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』の公式記者会見が、8時半の上映に続き、11時より行われた。本作は巨大惑星衝突による地球滅亡の危機に直面した、ある姉妹の葛藤を2部構成で描いた荘厳な叙事詩で、2009年の前作『アンチクライスト』と同様に冒頭のイマジネーションあふれる甘美かつ官能的な映像美は圧倒的だ。記者会見には監督と妹ジャスティン役のキルスティン・ダンスト、姉クレア役のシャルロット・ゲンズブールらが出席した。
 監督は「この映画は世界の終わりを描いた映画ではなく、それに対峙した人間の精神状態に焦点を当てたもの」と語り、さらには「人生において、僕は“うつ”の様々な状態を体験してきた。そして、この言葉が含み持つ苦しみと罪悪感の概念が好きなんだ。憂鬱さは僕が好む芸術の中に存在し、最も傑出した芸術形態には不可欠な要素だと思うよ」とコメント。また、キルスティン・ダンストは「うつ状態は、自分がどんな人間なのかを如実に映し出します。うつを経験し、それを乗り越えた人は、より強くなる。それは私が演じた人物にも言え、彼女は映画が進行するにつれ力を取り戻していくんです」と語った。
(Report:Y. KIKKA)