13日(金)は日本人記者にとって大忙しの一日となった。加瀬亮が出演した『永遠の僕たち』の記者会見に続き、17時からは“カンヌクラシック”部門でドキュメンタリー映画『黒澤、その道』が招待上映され、22時からは東京国際映画祭とTIFFCOMが主催する”ARIGATO(ありがとう)NIGHT”の取材へ。これは東日本大震災の発生以来、世界の映画人から受けた多くの励ましの言葉や支援に感謝し、10月に開催される第24回東京国際映画祭の決意表明を発信するため、高級ホテルのマジェスティック バリエールで催されたパーティである。そして、その合間を縫って翌日に上映される長編コンペティション作品のプレス試写に駆けつけるという慌ただしさだった。

◆世界各国の映画監督11人が黒澤明監督とその作品への想いを語ったドキュメンタリー映画『黒澤、その道』

 1980年に『影武者』がカンヌ映画祭のコンペティション部門に出品されて以来、長年、黒澤明監督の日本語通訳を務めたフランス人女性カトリーヌ・カドゥ(1990年の黒澤監督作『夢』では洗濯女に扮して登場!)が、11人の個性的な監督にインタビューを敢行し、新しい切り口で巨匠・黒澤明にオマージュを捧げた『黒澤、その道』には実に錚々たる監督が登場する。その顔ぶれは、ベルナルド・ベルトルッチ、ジュリー・テイモア、クリント・イーストウッド、テオ・アンゲロプロス、マーティン・スコセッシ、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、アッバス・キアロスタミ、ジョン・ウー、ポン・ジュノ、塚本晋也、宮崎駿! 黒澤映画を初めて観た時のインパクト、お気に入りの作品についてなど、各々の監督が黒澤作品への熱い想いを語った本作は52分の中編ながら、上映された中規模会場ブニュエル(パレ・デ・フェスティバルの5階)はあっという間に満席となり、上映後は大きな拍手が沸き起こった。実に見応えがある作品なのだが、日本では権利問題の関係で上映が難しいらしいのが残念だ。

ナンニ・モレッティ監督の『ハベムス・パパム』は、
フランスの名優ミシェル・ピコリを主演に迎えたコメディ!

 イタリアのウディ・アレンと称され、2001年の『息子の部屋』でパルムドールに輝いたナンニ・モレッティ監督が久々にカンヌに参戦してきた。新法王に選ばれてしまった枢機卿の孤独と苦悩をユーモアと皮肉たっぷりに描いた『ハベムス・パパム』は、ベールに包まれたヴァチカンのローマ法王庁の内側と法王選出の選挙(コンクラーベ)の模様を詳らかにし、大胆に描いた意欲作だ。タイトルは、バルコニーからサンピエトロ広場の民衆に向け、新しい法王が決まったことを伝える第一声のことで、法王就任という重責とプレッシャーに耐えきれず、逃げ出してしまう枢機卿を名優ミシェル・ピコリが好演。監督自身も事実を隠したたまま収拾策を探る枢機卿たちに呼ばれ、新法王のカンセリングを行う精神分析医役を飄々と演じている快作だ。
(Report:Y. KIKKA)