来年2月25日(土)より全国順次3D公開となる『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』が、本日10/25(火)に第24回東京国際映画祭の特別招待作品として上映され、5年ぶりの来日を果たしたヴィム・ヴェンダース監督が上映前の舞台あいさつを行いました。また、続けて行われた記者会見にはピナ・バウシュと永年の友人でもあるタレントの楠田枝里子さんも来場し花束とともに来日した監督に言葉を捧げました。

1985年に初めてピナ・バウシュの舞台を観た瞬間にこれほど美しいものはないと感銘を受け、「あなたの映画を一緒につくらせて」とピナにお願いしました。その頃からずっと、理由もなく心からこの映画を創りたいと思っていました。ピナも熱心に創ろうと言ってくれていたが、どうすればピナのダンスを映像化できるのか、その術がなかったため、ずっと模索していました。ピナの舞踊は観る者にその美しさがどんどん広がり蔓延するものだと感じていたので、映像化したい私の気持ちと、実際の映像化の間に大きな溝が出来てどうして良いか分からなかった状況でした。

60年代に3D技術が現れたもののすたれていき、その存在を私は忘れていました。しかし、4年半くらい前に新しい3Dのデジタル技術が登場し、私はこれがこの映画を撮るための秘密兵器だ、これが答えだ」と感じました。ピナと二人でやっと映画を創れると思った矢先、彼女が突然の死を遂げてしまい、私はもっと早く映画創りをスタートすべきだった、3D技術の到着は遅かったと思い、私はそこで一度映画を創ることを一度断念した。しかし、ダンサーは彼女の死後も踊り続け、私も撮ろうと思ったのです。ピナ無しではこの映画は創れないと思っていましたが、ピナのために、私はダンサーたちと一緒にこの映画を創ることが出来るのだと思いました。

実際私自身もダンスや踊りに興味は無く、クラッシックバレエやモダンバレエを観ても心に触れることがなかった。しかし、約25年前、ピナの舞踊「カフェ・ミュラー」を初めて観た時に私の人生を変えました。踊り始めて5分で私は泣き、そしてその後もずっと泣いていました。新しく、そして圧倒的で、心を揺さぶるものがあった。脳ではなく、肉体が感じているのは確かでした。ピナの作品は人間とはどういうものか、少しずつ理解を深めるものであり、他の舞踊、ふりつけと全く違う点は舞踊が彼女自身の言葉であるということです。「私のダンサーたちがどう動くかには興味がない。何が、ダンサーたちをどう動かすのかには興味がある」というのがピナの言葉です。

ピナはカメラの前には立ってくれなかったが、ピナの視線に立って描くことは出来ると思い創ってきました。ピナをどう撮るかということは、全てダンサーたちの中にありました。20年、30年、ダンサーたちはピナの目となり気持ちを表現してきました。ピナはダンサーたちに質問をし、その答えを言葉ではなく踊ることで答えてきた。ピナは人間とは、魂とは何かを探り、そして掘り下げていました。ダンサーとは、私たち一人一人であり、ピナが投げかけた質問にダンサーたちが反応することは、人間性を表現しているものだと思っていました。

この映画はダンスに興味が無い人に観てもらいたい。自分もそうでしたから。この映画は3D技術が無かったら創らなかった。ダンサーたちの舞台には私は入れないと思っていたけれど、3D技術のおかげでその中に入り作品に出来ると考えられたのです。

−−3Dの可能性について
何かもっと良いことが出来るかもしれないと思わせてくれる技術だと思います。3D技術こそ、ダンスに合っていると思うし、3Dにはダンスが、ダンスには3Dが、それぞれ必要だと考えられる本当に素晴らしい出会いだと思います。手探りでやってきて、この作品はまだ第一段階です。3D技術についてはもっと探って行きたいし、これからももっと3D技術を使っていくと思います。映画作家として3D技術を使っていく責任があると思うのです。大手の映画会社は3Dをアトラクションとして捉えていると感じます。スペースや深みを表現していないと思うのです。技術は限度だと私は思っているので、使いこなしてこそ成長すると思っているのです。そのため、あのまま3D技術を手渡してしまうと壊されてしまうと感じています。我々が映像作家として3D技術を使いこなさなくてはならないのです。アニメーションの場合はイマジネーションを駆使して3Dの利点を活用しているため例外だと思いますが、実写作品の場合は別だと思います。これまであまり活用されていませんでしたが、ドキュメンタリーにとってこそ3D技術は素晴らしいコンテンツだと感じました。

今回、3D技術によって、人間の身体の圧倒感、存在感、そこにあるものが今までと全く違うものとして撮影することができました。今まで撮れなかった人間とはこういうものだ、という表現です。
ドキュメンタリー映画は他の人の世界に入り込める体験だと思いますが3D技術がもたらした存在感や表現力はドキュメンタリーのような没入型の映像には一番ふさわしいと思いました。ドキュメンタリー作家もこれから3Dを使っていくべきだと思います。

ピナ・バウシュ、そして本作にはヒーリング力、癒す力があると思います。
今回、東京で一足先に本作を上映出来ることになって、私はそれなら福島でも是非、とお願いしました。その願いが叶い、福島を訪問出来ることとなりました。訪問の際は、福島の方とお話したり、車で実際に現地を回り、実際に現地の様子をみたいと思っています。
自国ドイツは今回の震災の件から、原発を廃止する決意をいたしました。今回の震災は、未来にとって大変な教訓になったと思いますし、みんながそう思ってくれていたらと思います。

−−楠田枝里子さんメッセージ
私は、ヴェンダース監督と同じくピナ・バウシュの大ファンで、彼女の講演を追いかけて世界中をまわるほど夢中でした。それは自分自身の人生の歩みといっても過言ではないです。ピナが2009年に亡くなった時、私はピナなしの人生を想像できずに深い悲しみに暮れました。
しかしこのヴェンダース監督の作品を見て、「ピナにまた会えた!」という気持ちがこみあげてとても嬉しく思いました。ピナは土や石、水など自然界のさまざまなものを舞台に持ち込んで表現をしました。それを今度は、ヴェンダース監督がヴッパタールのダンサー達をその自然界そのものの空間に連れ出しています。本当に感動的な映像です。
この作品は、ピナ・バウシュやダンスに全く興味がない方でも、楽しめ、そして新しい何かを発見できる作品です。ぜひたくさんの人に観てもらいたいです。