10/1(土)大阪市の十三にある第七藝術劇場にて行われた『終わらない青』の公開初日トークショーの第2弾をお届けします。登壇したのは緒方貴臣監督と主演・水井真希さんです。(司会:劇場支配人/松村厚氏)

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虐待の経験者との出会い
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緒方:虐待に関しては、制作前に当事者の方に実際にお会いすることはできなかったんですけど、2年前にゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映されたときに、お客さんの中に昔虐待を受けたことがある方がいて。過去をフラッシュバックさせたみたいで過呼吸になって、旦那さんに怒られたりしました。
その方が後に「時間がたって改めて考えると、自分が逃げてきた過去から向かい合うきっかけになったんで、ありがとうございました」って言ってくださって。今日、その方が楓を描いてくださった絵が僕宛に届いたんですね。公開中はこちらの映画館に飾っていただくことになったんで、もし良かったら見てください。
元々は虐待に無関心な人達に向けた作品だったんですが、そんなことがあって、当事者の方たちにも何か救いになることもあるのかもと考えるようになりました。最初は東京での上映しか考えてなかったんですけど、大阪でも上映して欲しいって声が多くて今回実現できたんです。

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何故フィクションにしたのか
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観客女性:ドキュメンタリーで描くという手法もあったのでは?

緒方:ドキュメンタリーだと盗撮になってしまうし、描けないものがたくさん出てくるんですよ。当事者や被害を受けた方に迷惑がかかる。それに、人ってカメラを向けると本当の姿を見せることができないんです。人によっては自分を大きく見せようとしたり、逆に自分を隠そうと小さくしてしまう人もいる。本当のリアルはそこに存在しないと思っているんです。
だから劇映画だけどなるべく現実に近いタッチで、音楽も使わずにやりました。テンポ良く観られないように黒い画面を入れたり。断続的にすることで彼女たちの生活を切り取って見せたいなって。盛り上がったり感情移入を避けたかったんです。

水井:ドキュメンタリーを信じたらダメだよー。お友達のリストカッターの子と私にもドキュメンタリーの話が来たのね。結局その子が撮られたんだけど、ミッションが与えられて、その通りにやらなきゃいけなかったって。

緒方:ドキュメンタリーにも台本はありますし、監督がいる時点で演出がありますからね。

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劇場支配人が語るアート系映画館の現状
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観客男性c:僕は1年ほど前にオーバードーズで入院した経験があって、高校時代の友達の1人はリストカットをして行方不明になった上に亡くなって、もう1人は学校でいじめられてたんですけど、家では逆に親に暴力を振るって最後に親に殺されたんですね。そういった友達がいたから違和感なく観ることができました。劇場側にお伺いしたいんですけど、こういう映画って、重たくて面白いとは中々いい辛いし、答えが出る訳ではないですけど、経験者としては心動かされるものがあるんです。
こういう映画こそロングランでやって欲しい。

松村:そこはぶっちゃけて言えば映画の内容の良し悪しじゃないんですね。劇場は運営していくことが大前提。悲しいかな、東京主導なんで、東京で興行的に当たってない映画が地方で入ることはないんですよ。大阪より地方に行くと更に人が入らないし、アート系の映画館は瀕死の状態なんです。東京でそれほど当たらなかったドキュメンタリーや作品を上映しないという選択もあるんです。ナナゲイでは、ドキュメンタリーを結構多く上映していて、過去に木村茂之監督の『私を見つめて』っていう拒食症の関西在住の女の子を撮ったドキュメンタリーや、『アヒルの子』っていうお兄さんから性的虐待を受けた小野さやか監督のドキュメンタリーもやりました。例え1週間でもお客さんに観てもらう機会を作るために上映しているのが現実ですね。

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映画の先に続く現実に対して
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松村:最後に私から質問ですが、ラストは監督として、演じられた水井さんとして救いなのか、それとも絶望なんでしょうか。

緒方:僕の中では救いです。ハッピーエンドです。

水井:例えば、知り合いにリストカッターの子が居たとして、「助けてあげたい」「何とかしてあげたい」って思ったときにどうするのが幸せかって話に通じると思うんですね。私はもう切らないで生きていけるし、通り過ぎちゃったから答えを言うのは簡単なんだけど、言っちゃっていいのかな(笑)。
目の前に切ってる子がいる。その子を否定しないためにリストカットを否定しないとか、無理やりにでも手を掴んで止めるとか、それはその人が自分にとって正しいことをやっているにしか過ぎないんですよ。
手首を切ってる子の本当の幸せっていうのは、リストカット無しで普通にニュートラルに生きて行けるようになったときじゃない?でもそれって凄い難しくて。実際血を出すと体に負担が掛かるから、切らないのが正解だと思う。私が他の子たちに「そうなれたらいいね」って言うのは簡単だけど、言わないの。私が言ったら味気ないじゃない。
物語では描かれてないけど、彼女がこの後どうなるか。その日を境に彼女が切らなくなるのか、自殺しちゃうのか、生き続けるのか。それは陳腐な言い方になっちゃうけど、想像するしかないんですよね。

(Report:デューイ松田)