10/1(土)大阪市の十三にある第七藝術劇場にて、『終わらない青』の公開初日トークショーが行われた。
登壇したのは、第2作目の『体温』がテキサスファンタスティック映画祭に招待され帰国したばかりの緒方貴臣監督と、主演の水井真希さん。水井さんは女優として『ヘルドライバー』『戦闘少女〜血の鉄仮面伝説』といった西村喜廣監督作品への出演や、グラビアや着エロアイドルとしても人気を誇っている。

『終わらない青』は、緒方監督の初監督作品。実の父親からの虐待を享受し自傷行為を続ける主人公・楓。娘を救おうとしない鬱病の母。そんな家族の姿を描いた作品。安易な共感を拒み、そこにある現実を突きつける作風に、打ちのめされる人も少なくはないだろう。
この作品は、第20回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 オフシアターコンペティションにノミネートされ、2010年 沖縄映像祭 準グランプリを受賞している。

本編上映後に第七藝術劇場の支配人・松村厚氏を司会に、トークショーが行われた。「自傷に関して偏見を持っていた過去の自分のような人に向けてこの作品を作った」と語る緒方監督と、時には進行役を引き受けながら自分の言葉で実感を語ろうとする水井さんの容赦ない突っ込みで、意外にも笑いが起きるトークショーとなった。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■
リストカットの理由〜自罰と傷の具現化
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
観客男性a:水井さんは過去の経験を思い出したり、この役を演じることに抵抗はなかったんでしょうか?

水井:リストカッターという点では私と楓は共通してるんですけど、楓のように虐待されて育った訳ではないので思い出してトラウマということは何もないんです。最後に手首を切ったのも何年も前なので、その頃の気持ちを思い出しながら演じてましたね。最近整理がついたこともあるんですけど、私の中で手首を切るという行為には“自罰”と“傷の具現化”という2つの理由があります。
“自罰”は造語で自分自身のことを罰したいという気持ち。実際手首を切らなくても自己嫌悪に陥ることは、どなたでもあると思います。“傷の具現化”は精神的な傷を負ってもそれは目に見えないじゃない?それを外に出したいときに手首を切っちゃう。ストレス発散に近いと思いますが、分かりやすく言うと、壁を殴れる人は壁を殴ったり、親に反抗したりするんですけど、それが出来ない人が自分に向かうんです。
どうでしょう?言いにくいことも突っ込んでくれていいんですよ。

松村:映画でみんなショック受けてる(笑)

水井:東京の上映でもこんな感じでシーンとしてて、きっと大阪の人は突っ込み入れてくれるに違いないって思ってたんですけど。

松村:そんなことはないですね(笑)

水井:でもみんな一瞬笑ったじゃないですか。東京では何のリアクションもなくて、ホントにびっくりしました。

■■■■■■■■■■■■■
リストカッターに対する思い
■■■■■■■■■■■■■
松村:映画館の支配人として質問なんですけど、観客のみなさんはどこに惹かれて土曜の夜、この映画を観に来られたんでしょうか。

水井:挙手してもらっていいですか?自分が自傷経験、虐待経験がある。又はケアする仕事に就いている人。(数人の挙手)それがメイン層と思ってたんですけど。じゃあそれ以外の人は…?

観客男性b:リストカットの理由はみんなそれぞれ違うと思うんですけど、水井さんは他のリストカッターに対してはどういう思いがありますか。

松村:監督と水井さん両方に聞いてみましょうか。監督はリストカッターではないんですが、今回のテーマを敢えて選んだわけですし。

緒方:このテーマを描こうと思ったときは身近にそういった方はいなかったんですが、色々な方に取材をしました。キャスティング段階では経験のある人を求めていた訳ではないんですが、水井さんから過去にしていたと聞いて、お聞きしたことを脚本に盛り込んだんです。
僕自身、自傷行為に対して偏見があったんですけど、今は肯定も否定もしてないし、しているからといっておかしいとは思わないんです。心の苦しみを外に向ける1つの手段だと考えています。
映画の中のお父さんは心にストレスがあり、そういうものを溜め込んで暴力として表に出しています。娘の楓は暴力に変換ができないんで自分自身で受け止めている。お母さんに至っては、それを外にも向けることができず、自分にも向けられず鬱になったので、3人とも同じ。現代の悩みを抱えているんですね。

■■■■■■■■■■■■■■■
リストカッターに対する偏見とは
■■■■■■■■■■■■■■■
松村:監督がよくおっしゃるリストカッターに対する偏見って何ですか。世間にはそういうものがあるの?

緒方:僕から見たら自分の体を傷つけるとか、よく分からない。自殺したいと言って周囲の関心を集めるための行為、よく言われる「かまってちゃん」と言われる行動としか思ってなかったんです。
でも話を聞いていくうちに生きるための行動だって気付いたんです。
これまでは「そんなに死にたいなら手首を切り落としたら死ぬよ」とか、「横じゃなくて縦に切ればいいよ」とか思ってたんですけど、それが違うんじゃないかと気付いたんですね。

水井:リアルな友達でも、何故か手首を切ってる子が多いのね。だから身近にいないって言う人は知らないだけで、隠しているか、教えないだけだと思います。私より重症の人に会ったことがなくて、普通に隠し通せるレベルでしか切ってない子が多いから、放っておいても大丈夫だなって思います。仕事で知り合った某俳優さんや某女優さんにもいるんですけど、メイクで隠したりグラビアを修正してるからみんな気付いてない。気付かないってことは、そんなに大したことじゃないんじゃないかな。そういうことではなく?

観客男性b:模範解答を求めてる訳じゃなくて(笑)気持ちを聞きたかっただけです。ありがとうございました。

水井:自分から門戸を開くと、周りに見つかりますよ。

緒方:それはありますね。僕もこの作品を作って周りにいたって分かって。「実はしてました」とか。それまで僕は「死ね」って言ってたんで、僕には絶対言わないじゃないですか。

水井:言わないね。

緒方;僕がそういうのを理解してるって分かったとたんに、言って来た人もいるし、男性にも結構いたんですね。リストカットとは限らないんですけど、オーバードーズ、薬を大量に飲むのもそうですし、極端に言うとピアスをたくさんあけるのも一種の自傷行為。そういう方も含めると。20代前半で7人に1人。

水井:男性はタバコを押し当てる人も多いですね。東京に出ると、1日に1人以上タバコの焼け跡のある男性を見るんですよ。私注意して腕を見る癖があるからだと思うんですけど。昔ヤンキーだったとか、いじめられてた可能性もあるけど、男性で腕を切ってた子に2人しか会ったことがないのよね。

緒方:自傷行為を描いた作品って言われるけど、実際は虐待の方がメインなんですね。この作品の場合は性的虐待を受けてリストカットをしているんですけど、これを観て全ての人が当てはまるとか、リストカットしているから虐待やいじめを受けているといった誤解のないようにして欲しいです。
「虐待は伝染する」とも言われていて、それも調べるうちに間違った情報だなって。そういう事も広く知って欲しいと思います。

(Report:デューイ松田)