この度『一命』10月15日公開を前に、監督の三池崇史と本作にも出演、現在出演作が相次ぎ大ブレイク中の満島ひかりさんによる一夜だけのトークライブ付試写会を行いました。

三池監督が主宰しプレゼンターを務めるイベント、「三池崇史監督presents大人だけの空間」。第5回を迎える今回は、カンヌ国際映画祭で世界を熱狂させた話題作『一命』公開を10日後に控え、150名のお客様がお酒と軽食を楽しむ大人の空間で、監督がホストを務めるイベントならではのオトナトークが弾みました。
※第5回 三池崇史監督presents大人だけの空間」とは、一般のお客様と一緒にお酒と軽食などを楽しみながらトークショー後、映画を観てもらう、まさに、大人だけに許された至福の特別試写会です。

■第5回 三池崇史監督presents大人だけの空間
三池崇史監督×満島ひかり 一夜だけの贅沢オトナトークライブ 概要

【日時】10月5日(水)19:00〜
【会場】ビルボードライブ東京
(港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンテラス4F)
【登壇者】三池崇史、満島ひかり

<ご挨拶>

●三池崇史監督:
この映画はまさに“一命”を懸けて作りました。
そして今回、公開に先立って、こういう場を設けました。
皆様には、これから映画を観ていただくので、「こういう風に観てくれ」というようなことを言うのは、僕はあまり得意じゃないので言えないですが。

自分はいち監督でしかなく、スタッフや役者があって、初めて映画となります。是非、この映画で“日本映画のこれから”を観てほしいです。

また、本日は1人ゲストを呼んでいます。
映画史上、こんな哀しい役はないんじゃないかと思います。
満島ひかりさんです。

●満島ひかりさん:
美穂役をやらせていただきました満島ひかりです。
三池監督と何を話したらいいか分からないですが、面白い会になるよう努めさせていただきます。

<フリートーク>

●三池崇史監督:
今流れていた音楽なんですが…。
ついにVシネマやヤクザものなど、色々やってきて、この作品で坂本龍一と出会いました。

ちょっと俺っぽくないかもしれませんが、素晴らしい音楽です。
こういう言い方をすると誤解を招くかもしれませんが、おそらく皆様、観終わった後に、ほとんど音楽があった印象がないと思うんです。
それくらい、音楽が映画に馴染んでいて、登場人物たちを後ろから支えてるような感じなんです。

坂本さんご自身も登場人物を立てるようにして、この作品では出来るだけ、音楽は目立たなくしようと作っていったんです。
決して、威勢のいい音楽ではないのですが、映画音楽ってこういうものじゃないかと思える音楽ですよね。
映画の中の登場人物が、映画音楽によって救われてるんだと思います。

と、真面目な話はここまでとして…。

満島さんとしては、市川海老蔵はどうでしたか?
みんな観終わったあとと、観る前ではすごく印象が変わるよね。
すごく魅力があって素晴らしい役者だと思う。

その市川海老蔵の凄さっていうのは、「俺が、俺が!」というものではなくて、他の役者の魅力を引き出す、すごい力があるんですよね。

●満島ひかりさん:
すごく純粋な方なんですよね。
それに、あれだけ、現場で演じている時とそうでない時の切り替えが一瞬で出来る役者さんは初めて見ました。

そういえば、赤ちゃんが大変でしたよね。6時間くらい泣いてしまって…。
海老蔵さんが抱くと泣いてしまうんですよね(笑)。

●三池崇史監督:
そうそう。でも今はもう父親だからね。
この間の完成披露試写会の時にも「昨日おむつかえたんですよ」とか、「かわいいんですよね」とか言っていて、普通なんだなと思いましたよ(笑)。

それと、この映画で、あるシーンでもみじ饅頭が出てくるんですが、最後の方で、そのもみじ饅頭が、ちょっと形を変えて出てくるんです。

それは、ある人間の優しさと哀しさをお饅頭に込めているシーンなのですが、満島さんは信じられない食べ方をするんですよ。まさに人生の絶望の淵で、そのお饅頭を食べるんです。

普通だったら、女優さんは一口だけ食べるとかすると思うんですが、いざ、テストをやったら、満島さんはお饅頭全部を口の中に入れて、詰め込んだんです。

それで、見たことのない顔になっていくんですが、最後まで全部食べるんです。それを見て、「この人は優しいんだな」と思いました。

●満島ひかりさん:
普通食べませんか? 食べるって台本にも書いてありましたし(笑)。

●三池崇史監督:
一口だけじゃなくて全てを自分の身体の中に押し込むというのはすごいですよ。
いいですよね。やっぱり、映画自体を価値のあるものに変えていくのは女優だと思います。

この間もね、完成披露試写会があって、問いかけられたわけですよ。
「命を懸けて守りたいものは何ですか?」って。
俺なんかは、「年老いた両親」って答えたし、海老蔵さんは、「ありきたりだけど、家族と歌舞伎」、瑛太さんは「家族です」って、答えたんですが、満島さんは「自分の本能です」って言い切ったんですよ。

あそこで言った本能ってどんなものなの?

●満島ひかりさん:
常に更地に立ってたいんですよね。
世間に流されることなく、自分の身体から湧き上がってくるものを守りたいと思ったんです。

●三池崇史監督:
女性って強いですよね。動物的というか、何かを残すっていう感覚が強いんじゃないかな、男性よりも。生まれた以上は何かを残していきたいという意識のような。今は幸せですか?(笑)

●満島ひかりさん:
幸せです(笑)。

●三池崇史監督:
何かむかつくよね(笑)。
何か幸薄そうな印象だし、映画でも演じた役がそうなっていくんですよね(笑)。

●満島ひかりさん:
違いますよ!(笑)

●三池崇史監督:
自然に笑っていても、その裏にある、それが消える瞬間が見えてくるんだよね。
何でだろう?(笑)

女優はこうだとかそういう意識ある?

●満島ひかりさん:
役者の仕事を恥じている部分があるんですよね。
自分自身じゃない時間があるじゃないですか。
例えば、映画の中でのお父さんや旦那さんがいて…その人たちに気持ちが向いてしまう瞬間があると、何だか、本当のお父さんに申し訳なくなってきて、嫌にになる時もありますね。
でも面白いんですよね。

●三池崇史監督:
でも、時代劇という1つのスタイルを踏襲して、違うものが生まれてくるけど、実際にそれを演じる人は大変だろうなと思います。

例えば、瑛太くんだったら、飢えるっていうのは、今でも経験できるから、今回も8キロも痩せて、飢えた状態を作って。
そうやって肉体を使って、役と通じ合おうとするんです。
満島さんは、おばあさんにお裁縫を習いに行ったそうですが。

●満島ひかりさん:
そうですね。
現場でも、私が撮影中にさっき撮ったシーンと次のシーンが繋がるように、シミュレーションしていたら、海老蔵さんに「何やってるの?」って言われたんです(笑)。

海老蔵さんは、「スパン!」とすぐその前シーンの顔になれる方で、切り替わりの瞬間がすごく早いんですよね。
元々、歌舞伎とかで培っていたのかもしれないですが、ああいう役者さんは初めて見ました。私もいつかそういった経験をしたいなと思いました。

<最後に一言>

●三池監督:
すごい辛口かもしれないけど、すごく優しい映画なので、今日はゆっくり楽しんでください。

●満島ひかりさん:
何度でも言うけど、とても大好きな映画です。
観たあと、純粋な気持ちになれる映画だと思います。
私は、試写で観た後、1日に何度も映画のことを噛みしめました。
自分が関わった作品でこんなに純粋な作品はなかったので、三池さんは本当にすごいなと思いました。

しかも、猫も子供も三池さんにはなつくんですよ(会場笑)。

あと、松竹の撮影所で、監督が『切腹』のフィルムを探して来てくれて、みんなで観たことがあって、最大限のリスペクトを込めて映画を作りました。
そして、とても気持ちがいいスタッフとキャストに囲まれた、本当に贅沢な現場でした。

是非、皆様に愛してもらえる作品になればいいなと思います。
本能で観て下さい。