戦前から戦後にかけて新宿に存在した伝説の劇場「ムーランルージュ新宿座」。このたび開館80周年を記念した映画『ムーランルージュの青春』が敬老の日に先駆けた9月17日初日を迎え、新宿K’s Cinemaで行われた舞台挨拶には現在91歳で当劇場のトップアイドルとして活躍していた明日待子、野末陳平、田中じゅうこう監督が登壇した。
この日はなんと札幌から一人で駆けつけたという明日。しっかりとした足取りで「わたしがもういなくなったと思っているかたもいらっしゃるかと思いますが、元気です、凄い元気です」と明朗快活に語った。62年ぶりの銀幕復活ということもあり、実際に観劇していたという明日のファンが多く駆けつけ、当時と変わらぬ可憐さに感嘆の声が漏れた。

昭和8年13歳の時に同劇場に入座、座長夫婦の養女となったのちムーランで一躍スターとなるとカルピスの初代CMガールに抜てき、雑誌グラビアはもちろん、花王、ライオン、キッコーマン、カゴメなどにひっぱりだこの“元祖アイドル”として活躍した。

ムーラン研究家の肩書きをもつ野末陳平は「それぞれ時代時代の世相を演劇で綴っていた知性派の劇場。それを理解してくれるレベルの高いお客さんばかり、菊池寛や志賀直哉、黒澤明など文化人のファンも沢山いたんだよ」と懐かしく語っていた。あの森繁久彌も当劇場の出身であり、「ムーランに出れば引き抜かれる」という登竜門としての魅力もあった。

「戦争に向かう暗い世の中で憩いの場としてムーランルージュがあった。今でもムーランのことを思うと身が引き締まる思いになります。ムーランルージュは私にとっては青春そのもの」91歳とは思えない元気な姿、凛とした表情で語った。

舞台挨拶終盤には当劇場が出張公演した海城学園中学校の古典芸能部の生徒たちが駆けつけ花束贈呈、ムーランルージュによって結ばれた80歳差の交流が会場に華を添えた。
翌日18日には新宿歴史博物館にて「ムーランルージュ新宿座」のシンポジウムも開催。明日さんを一目見ようと150人もの人が訪れた。

またこの日は敬老の日の前日ということもあり、野末さんから年配の方順に色紙プレゼントのサプライズが。大正生まれの方も何人かいらっしゃり、その元気な様子に会場がどっと湧いた。