BBC製作のネイチャードキュメンタリー映画の集大成『ライフ  いのちをつなぐ物語』 (9月1日公開、エイベックス・エンタテインメント配給)の公開を記念して、 ナショナルジオグラフィックプレゼンツ、スペシャルトークショー付き試写会を開催。
木村伊兵衛写真賞他数々の賞を受賞している水中写真家・中村征夫氏と、わずか3年で6大陸の最高峰への単独登頂に成功し、今年、再度エベレストに挑戦する登山家・栗城史多氏のスペシャルトークショー付き試写会を実施しました。自然とのつながりが深いゲストのお二人が、本作を観た感想を語り合い、お互いが冒険した先で撮影した写真を上映しながらのトークショーになりました。中村氏は、ミクロネシアのジープ島で撮影したイルカの写真や、トンガで撮影したザトウクジラの写真を、栗城氏は、今年5月にアタックしたシシャパンマ峰での写真や、白夜の南極の写真を紹介しながら、撮影エピソードや、自然と向きあう時の心構えなどを語っていただきました。

<<Q&A>>

Q:『ライフ —いのちをつなぐ物語—』を観た感想は?

中村氏:同じカメラマンとして嫉妬しました。何という瞬間に立ち会っているのか、と。
息をするヒマもないほどの映像の連続で、よくまあこれだけの映像を撮影できたな、と思います。
これは事前の綿密な調査に支えられているのですね。調査に相当苦労されているのも伝わってきます。

栗城氏:「これ、CGじゃないの?」と思えるような映像の迫力に圧倒されました。動物と同じ目線で撮影するために、かなり特殊な手法を使っていて、とても勉強になりました。

Q:ご自身が撮影するときはどういう気持ちで臨むのでしょうか?

中村氏:写真をはじめたばかりの初心者の頃は、ほとんどの生き物に逃げられていました。
そのうち、追いかけても絶対に距離を縮めてくれないことがわかったので、気持ちを変えました。
「この生物はこういう行動をとるはずだ」と予測しながら、「絶対、彼らも人間に興味があるはずだ」と思うようにしたんですね。「撮らせてくれないならもういいよ」という風にそっぽを向いていると、知らないうちに彼らが近くに来てくれるのでその時に撮るようにしています。生き物の生態を把握していくことが大事だと思っています。この映画の撮影もそうですが、大切なのは調査なんです。
やみくもに海に行けば被写体に出会えるわけではないですし、いつでも行けば会えるわけではないので、季節などのタイミングを合わせることも必要です。あとは運ですね。ひたすら待つしかない。

栗城氏:ドキュメンタリーを何度か撮影したことがあるのですが、自分に余裕がないと全然撮影できないんですよ。自分で自分を撮影することも多いのですが、客観的に自分を見れる時じゃないと撮影できないです。自分がゲーゲー吐いて苦しんでいたりする映像も撮影したことがあるのですが、それはもちろん辛いんですけど、どこかにまだ余裕がある証拠なんです。これは本当に危ない・・・という時は全然撮れないんですよね。
山の景色を綺麗に撮ろうと思ったことはありません。標高7000Mから先の景色は、綺麗だとは思えないんです。そこから先は、デスゾーン(死の地帯)と呼ばれる、酸素ボンベがないと生きていけない世界ですから。山をじっくり撮ろうとか、綺麗に撮ろうとは中々思えないんですよ。

Q:お二人にとって「生きる」とは何ですか?

中村氏:海は、ちょっとした油断が命取りになります。
そういう世界で仕事をしていると、自分も大自然の中の生命の一つに過ぎない、という気持ちになります。鳥や魚と私は同じなんだと思えてきます。
地球に優しくとか、海に、森に優しくしようとか、そういう言葉自体おこがましいと思っています。
我々はもっと生きるための智恵を自然から学ばなければいけないんです。

栗城氏:今年8月にまたエベレストに行くのですが、そこは、ただそこに居るだけで死ぬ危険性がある世界です。死の危険性が高い分、生きよう、という内なる力が出てくるんです。
僕が登頂している間、クルーがはるか後方から撮影しているのですが、その映像を観ると、僕はただの”小さい点”でしかないんです。僕達が虫を見る時のサイズですよね。もし、誰かが点になった僕に息を吹きかけたら、ヒューと吹き飛ばされてしまうように思えるんです。それを経験したら、蚊がいたらパンと叩く人、いるじゃないですか。僕は山に行くようになってからそれができなくなりました(笑)。
人間も虫も変わらないんだな、と思うようになったんです。自分の中の尺度が変わったんですよね。