熱帯夜の日が続く中、男なら誰でも肝を冷やす修羅場を映画にし、賛否の声が止まない話題作『ふゆの獣』の特別試写会が6月28日おこなわれた。

日時:6月28日
場所:京橋テアトル試写室
登壇者:内田伸輝<監督>・佐藤博行・高木公介

試写終了後には内田伸輝監督とキャストの佐藤博行さん、高木公介さんを会場内に招き
集まった観客とのティーチインが行われた。
会場が試写室なので観客と監督・キャストの距離が近かったことも
作用してか、様々な質問が飛び交い、観客と製作者の貴重な意見交換の場になっていた。
(以下、ティーチイン内容)

○この作品は脚本がないとのことですが特別な理由はあるのか?

内田監督:
撮影者である自分がワクワクしたかったんです。
レールが敷かれた撮影より、逸脱してもいいから何が起こるかわか
らない緊張感を体験したかったので、脚本なしの即興芝居を中心に撮影していきました。

○出演者さんたちは脚本がないことをどう思いましたか?

佐藤さん:
脚本がない撮影ではあったんですが、薄っぺらい芝居にはしたくなかったので
出演者の頭の中には何通りもの脚本が存在していたと思います。

高木さん:
自分の気持ちから出るセリフを言おう、何もでないのであれば
無言で通そうとキャストの4人で話し合って演じていきました。

○役を演じることで工夫したことは?

佐藤さん:
ゲーテのが書いた『若きウェルテルの悩み』という
恋愛におぼれて自殺してしまう青年の話を描いた小説の
精神的なものを参考にしました。

高木さん:
小説を読むとかは苦手なので、自分自身の実らなかった恋の事を
思い返して片思いの苦しさを思い返していました。

○お二人はどういった経緯で演技を学んだのですか?

佐藤さん:
大学卒業後に自主製作映画に出ることで芝居を学び、現在も演技を
学べる場所に通っています。

高木さん:
大学で演技を学んで、事務所には入ったんですが
なかなか仕事がなくて、現在は自主映画中心に学んでいます。

○ロケはどこで撮影したのか?

内田監督:
新宿の地下道や高田馬場でも撮影したのですが、僕の実家がある埼
玉県の上尾市でも撮影しました。

○カットを割らずに撮影していたが、どういった感じで撮影したのか?

内田監督:
撮影に使ったテープが60分のものなので、
基本的に60分間まわっしっぱなしの撮影方法で、その中での動きやしゃべりだしは基本
的には役者さんにお任せしていく感じでした。

○撮影時にロケはゲリラ撮影が多いと聞きましたが、問題などはなかったのですか?

内田監督:
新宿の地下道の撮影は監視カメラが多く、警備員が遠くに見えるたびに逃げてました(笑)
一度だけ長回しの時に警備員が来てしまったことがあったんですが
その時は結婚式に使うVTRの撮影だと言い訳しました(笑)

○ほぼ主演の4人のみの映像ですがその意図は?

内田監督:
登場人物4人にスポットを当てて撮影することが主目的だったため
極力他の人物は避けて撮影したのですが、ゲリラで撮影していたので
フレームに入ってしまった人に関しては巻き込んじゃおうという気持ちで撮影していました。

○正直いくらで作られた作品なのですか?

ネットなどにも載っていますが110万円で作った作品です。

○この作品の伝えたいメッセージは?

内田監督:
この作品を作るキッカケとなったのが、飲み友達の女性が盲目的な恋愛をしていて、
すごく悩んでいるのを見たからなんです。
そこから本やネットで調べて、そういう人達は現代の日本にたくさんいることを知りました。
なのでこの作品を通して、男女共にこのようなことで悩んでいるということを
見てもらいたいと思います。

第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞し、7月2日には
華々しく劇場公開を迎える『ふゆの獣』だが、各方面から賛否の声
が上がる作品でもある。
難民の宇宙人が出るわけでもなければ、夢の中に潜る人たちもいない
都会にいる極々普通の男女4人。微妙に絡み合っていく4人の「想い」という糸が
ある日激しく絡みあう様を描く作品である。
恐らく賛否の声が多く上がるのは、見る人それぞれの男女間や恋愛間というものが
問われる作品だからであろう。
カップルで、親子で、夫婦で、友達で、いろんな関係性で鑑賞し、
様々な論議を楽しめる作品であることは間違いないであろう。

(Report:有城裕一郎)